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第六章
女王である日々⑧
もうすぐお昼休み。昼前の授業も終わったところ、私は教材をしまっていた。そうしながらも考えるのは。
すっかり学園は平和になったこと。ギスギスが無くなったわけではなくても。
『……諦めないんだから』
『……まだ勝負はついてないんだから』
こうした声が残っていても。それでも嫌がらせは消えきったのだと思う。これもフーゴさんが尽力してくれたからだ。
……あの三人が消えたこと。あとは、それが解決できればなのか。それとも他にも――。
ベルが鳴った。お昼ご飯を、そして。リナさんと一緒にフーゴさんに会いに行こう。
二年生の階でリナさんと合流し、フーゴさんの教室に向かう。
「リナもね、昼食作ってきたの。あんたが教えてくれた、お米料理? 挑戦してみましたー!」
「わあ……! ねえ、もしかして? もしかして……!」
前に日本の料理であることは伏せつつも、米料理のことを話したことがあった。料理上手なリナさんは興味津々に聞いていたんだ。実際に作ってくれたとなると、期待で胸が躍る。なんだろう、おにぎりかな? それとも炊き込みご飯かな?
「ふふん、開けてからのお楽しみよっ」
「わあ、楽しみだなぁ……」
学園内で和やかに雑談できるの、久々だと思った。日数としてはそれほどなのに、長く感じたから。
三年生のフロアに到着すると、大柄な人がこっちに向かってきていた。フーゴさんだ。彼は今日は囲まれていないようだった。周囲の人に視線を向けられていた。うっとりとしているとも。
「よお――って、リナ・ゼンガーも一緒か」
「はーい、リナも一緒でーす! 空気を読んだ上で、一緒にお昼食べたいでーす!」
リナさんはあざと可愛さ全開でウインクしていた。可愛い。可愛さ絶好調だった。
「……へーえ」
フーゴさんは彼女をジロジロと見ていた。リナさんはウインクを続行していた。ポーズも変えたりしていた。可愛い。
「リナ、お礼がしたくて。この子のことっ」
「!」
リナさんは私の腕を組んできた。お、恐れ多い……!
「……ふーん」
フーゴさんの視線はリナさんに向いたままだった。彼女の可愛さのあまり、とかなら平和な話――でも。
「お話もしてみたくて――って、ちょっと、なんなのよ……」
リナさんは戸惑っているようだった。それは、相手が値踏みするかのような表情だったこと。平静に冷静に――観察を続けているようだった。
「……話、か。オレもだな」
フーゴさん内で何か納得したようだった。彼は犬歯を見せてニカっと笑った。
「別に構わないぜ? 量、多めに作っておいて良かったわ」
と、手にしたお弁当箱を見せてきた。布に包まれたそれは、確かに大きかった。
「リナだって作ってきたのよっ」
リナさんも負けじといった感じで、お弁当箱を掲げていた。そう、楽しみなお米料理――。
「……まじで、なんなのよ」
本日は食堂のテラス席で食べることになった。ごちそうになるので、せめてと私がデザートを買い出しに出て、戻ってきた時のこと。
「なんなの、と言われてもな」
フーゴさんが既に料理を取り分けていた。彼が作っていたもの――魚介と野菜がふんだんに使われたパエリアを。ああ、美味しそうな香りがここまでにも。彼も米料理だったとは。
「……あ、シャーロット。おかえり」
すでにリナさんもフーゴさんも席についていた。一つのテーブルを三角形に囲む椅子。私は空いた席に座った。
「ただいま」
私はトレイに乗せたまま、フルーツパフェ三つをテーブルに置く。あまりにも美味しそうだったし、ごちそうになってばかりだったから。
「わあ、ありがとう! かわいー」
リナさんが両手をあわせて喜んでいた。そうそう、見た目も可愛い……そうそう。
「オレの分までか。悪いな」
「いえいえ」
フーゴさんは恐縮しているようだった。私はお礼の気持ちもあったので。
「まあ? リナだって開封しますけどねっ」
「わあ……!」
おにぎりだぁ……! 綺麗な三角形でにぎられていて、中身がわかるようにって、てっぺんに具材がちょこんと乗せられていて……! あと、さすがはリナさんというか。彩り鮮やかで、可愛らしいというか……!
「ふふん、これぞリナの実力よっ」
リナさんは得意そうに胸をふんぞり返していた。うん、当然のことだと思う。ここまでの再限度は本当にすごい。
「……でもって頑張ったんだから。あんたを元気づけたかったのよ」
「リナさん……」
私たちは微笑み合った。本当に嬉しいの。
「……。へえ、初めてみたわ。すげぇな」
フーゴさんだって感心してるようだった。素直に相手を賞賛しているようでもあった。
「ぐぬぬ……」
リナさん? どうして、ぐぬぬってなってるの……?
「そうですね。私も作ってもらったのは、初めてで――」
待って……初めて? 自分でたまに作ることはあった。でも、お米は貴重。おにぎりを作るのは本当にごく稀にというか。誰かに作ってもらったのも、おにぎりの説明もしたのも初めてで――。
「……はじめて?」
『――ねえねえ、シャーリー! 作ってみたよー! 君が前に話してくれたでしょ、おにぎり!』
突如、脳裏に浮かびあがったもの。今より声も高くて、顔だって幼くて――。
「あ……」
――アルトだ。昔、アルトが作ってくれたことがあったのに。私はそれを今の今まで忘れていたというの? いえ、ド忘れとか、そんなものじゃない――消え去っていたような。
「……そうよ。あの男が作らないわけないし」
リナさんも同様のようだった。彼女の顔は青ざめていた……私だってそうだ。
穏やかな日常に戻ったのは、あくまで表面的なものだけ。そのことを改めて叩きつけられたようだ。
「……ん? どうした?」
「……いえ、何でも。とても美味しそうですね。いただきます」
表情が暗くなった私たちを、不思議そうに見ていたフーゴさん。
『……幼馴染? ……アルト? ……よくわかんねぇけど』
……そうなんだよね? フーゴさんは知らない、覚えてない、そのはず。
「ところでさ、お礼ってなんだ? 前に弁当作ったことか?」
フーゴさんは不思議そうにしていた。さらには。
「メシ作ったから礼って、保護者かよ」
とまで言ってきた。笑いながら。
「なっ……」
リナさんは口をあんぐりさせるも。
「……そ、そうよ。ご飯のことだってお礼言うわよ? だって、リナとこの子の仲だからっ!」
『それもあるし』とリナさんは続ける。
「……この子の周りのこともよ。フーゴ先輩が動いてくれたんでしょ」
「っ!」
リナさんからの指摘に、フーゴさんは一瞬黙る。
「……なんのことだか。おっ、これ、うまいな」
でも、すぐにそう返してきた。話題もすぐに変えてきていて。
「「えー……」」
私とリナさんは顔を見合わせた。こっちはロルフ君から真実を聞いたのにね。だから、困った風に笑った私たち。
「……」
そんな私たちを見ているのが、フーゴさん。おにぎりを手にしたまま――じっと見ていた。
「……仲、いいのな」
そして、表情を変えずにそう言ってきた。
「そりゃあね、リナとこの子の仲ですからっ!」
と、リナさんは堂々と主張していた。
「それ、さっきも聞いたぜ」
「何度だって言ってやるわよ。仲良しだもん、ねー?」
フーゴさんからのつっこみもなんのそのだった。
「う、うん……」
嬉しくもあり恥ずかしくもあったので、私は小さな声で返事した。
「もー、照れちゃってー! ぎゅー、してやるっ」
「わっ」
「もー、かわいんだからぁ! リナの次にっ!」
隣から抱きしめられた。なんか、くすぐったい感じ。それと軽口とはいえ、恐れ多い。
「……本当に可愛いんだから」
「……」
軽口、冗談、ノリなんだと思う。真に受けないと思いつつも、彼女の声は――。
「……仲、いいんだな」
フーゴさんはどこまでも――無表情だった。
「……」
心が冷えるような、そんな表情。
「そうよ、何度だって言ってやるんだから。リナたち仲良し―!」
リナさんは気づいているのか、ううん、いないのかも。ホッとしたこともあって、気分が明るくなっているようだった。
「はいはい。つか、キリねぇだろ。こっちの料理も冷めるぞ。わざわざ温めてきたんだよ」
「そうなの? 食堂の器具使って?」
「そうだよ。地道にな」
「なにそれ、その光景見たかった」
「おう、今度な」
フーゴさんに表情が戻っていた。口元が笑んでいる。リナさんもすっかり打ち解けたみたいで、話が弾んでいるようだった。
「ふふ」
私は私で聞く側で楽しむ。楽しそうにしている彼らを見て、私の心もつられるかのよう。
ひと時の団らん、それを楽しんだ――。
ご馳走様をした後、食後の雑談を交わして。私たちは解散となった。フーゴさんは授業のことで質問があるからと、彼は先に去っていった。
『……なんらかの関わりがあるのかもね。それでも私、悪い人とは思えなくて』
二人きりになった時、リナさんがもらした言葉。そう、それは私も同じだった。
予鈴が鳴った。それぞれの授業が始まる。お互いに手を振ったあと、背を向けた。
ここでリナさんと別れた。
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