春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

文字の大きさ
484 / 557
第六章

彼の女王である日々②




 帰りの列車に乗って、私たちは帰路につく。キャリーバッグの中から、リッカは外の景色を眺めていた。とても興味深そうだった。
 向かい合わせに座っていた私たちもそう。何となく外の景色を見ていたけれど。

「フーゴさん、本日はありがとうございました。楽しかったです。ね、リッカ?」
「わんっ」

 デート……うん、お出かけだとは思うんだ。嫌な顔一つせず、気遣ってくださってもいた。

「……あ。ああ、オレも楽しかった」

 フーゴさん、一拍遅れているようだった。考え事でもしてたのかなって。

「……この後どうするか、考えてた」
「……あ、夕ご飯ですか。お店、まだまだやってますよね?」

 かなり遅くなってしまったし、リッカには列車に乗る前に軽く食べさせてはいるけれど。家に帰ってからたっぷり食べさせようと思っていたところで。

「――オレの部屋、来るか?」
「え……」
「出来立て、炊き立て。ほかほかのご飯。作り置きもあるし、存分にもてなしてやりてぇ」
「あ、ああー……」

 普通に料理を振舞いたいって……そういうことね! そういうこと! 料理上手な彼が、もてなしも好きそうな彼が、ただそれだけの話であると。

 ……異性の部屋に。
 ……こんな時間に。

「オレはさ、もっと一緒にいたいんだよ」

 夜の景色を見ていた彼が、私に視線を向けた。とても直接的な言葉まで発するものだから。

「どうして……?」

 私は――口に出してしまっていた。フーゴさんはこれみよがしに溜息をついていた。

「どうして、そうきたか。ま、疑問にも思うか」

 フーゴさんは椅子に背をもたれ、そのまま天井を仰いだ。

「……そうだな、なんでなんだろうな」
「え」
「なんで、オマエなんだろうな――惹かれたのは」
「え……」

 私の顔を見ることはない。彼は見上げたままだ。
 というか……『ひかれた』? 文脈からして、引かれたはないとは思うにしろ……。

「引かれた、とか思ってねぇよな? 好意だよ、好意」
「っ!」
「……はあ、なんでかねぇ?」

 私はドキっとしてしまったのに、フーゴさんはこう、乱雑な物言いともいうか……。

「厄介な奴らに好かれていてよー? 本人も恋愛なんて嫌ですーって、そんなスタンスなのになぁ?」
「なっ……」

 軽い口ぶりだったのに、フーゴさんは。

「……本当に――『厄介なヤツ』に好かれるから」

 その声に、冷たさが込められていた。鋭利さをも。

「つまり、放っておけねぇってことだよ。オマエのこと」
「……そう」

 フーゴさんは私の境遇を心配して、とか。そういうことかな? 私としては、告白とは思わなかった。あまりにも躊躇いもないのもそうだし。

「……心配なんだよ、見てると」

 よく面識もないであろうに、私のことを案じてもいるようだった。

「……ねえ、フーゴさん。聞いてもいいですか?」
「なんだよ」
「私は知りたいんです。あなたは――何をそんなに心配しているのですか」
「……」

 フーゴさんは、私の問いに黙った。彼は答えない。
 どうして? どうしてですか、フーゴさん?

「フーゴさん、どうしたの? 厄介なヤツ……そういう人たちに好かれているから。そういう話だったんじゃないですか」
「っ!」

 私は素直に疑問を口にした。当初は『何故そんなにも親身になってくれるのか』。そのつもりの質問だったのに。

「……そう、そうだよ。オマエ、ヤンデレホイホイだろ。第三者として、心配になってくるんだよ」
「いや、ヤンデレをホイホイしたりは……」

 前にも日向ちゃ……ロルフ君にも、そんな感じのこと言われたような。そんなことは……。


 ――都の駅に到着すると、アナウンスが告げる。

「オマエが自覚もって警戒してくれりゃあ、こっちも楽なんだよ。シャーロットちゃんは、おニブさんだからよぉ?」
「なっ」

 フーゴさんは悪態ついていた。そんなこと言われても、だった……!

「……普通にメシ、食って帰るか。どっかの怖ぇのに、どやされる前にな」
「あの、フーゴさん――」

 天井から私を見る彼。普段通りの彼、不敵な笑顔。でもね、私は察する。
 彼はすっぱりと話題を切り上げていた。もう、どこの店に食べに行くか。犬連れで良い場所、でもって料理のジャンルまで。もう話題は完全に移っていた。

 警戒しているのはフーゴさん。一線を引かれている、そう思えてならない。
 フーゴさん。あなたは何かを知っている――なにかを隠している。




 フーゴさんが連れてきてくださったのは、うっすらとした照明、隠れ家的なレストランだった。なんと犬同伴可で、ドッグメニューまで豊富だった。犬用の小皿サイズ、嬉しいな。
 真向いに座るフーゴさん。犬専用が用意されていたので、リッカに座ってもらった。メニュー表も見せてみる。

「へっへっへっへっ!」

 リッカの気合がすごかった。メニュー表の写真だけでヨダレがだらだら、止まらない。さっき軽くとはいえ食べたもの、量はセーブしないと! ……それに。

「……ふふ、リッカたら」

 私は笑顔とは裏腹、内心ピンチだった。結構お金遣ってきたから、そろそろ今月の予算が……。孤児院への仕送りもあるし……お店も休業してばかりで……ああ。

「おー、お財布ピンチか? おごるか?」
「くっ……」

 フーゴさんはお見通しのようだった。私の心は揺らぐ……リッカの分はおごってもらう?

「なあ、リッカ? いろんなの食いたいよなぁ? どれも美味しそうだよなぁ」
「へっへっ……はっ!」

 リッカはヨダレは流したままでも、私のことを見てハッとした。首を振って、我慢しようとしていた……ああ、リッカ! 賢い子だから財政のこと、心配しているんだ……!

「ああ……ああ……!」

 リッカを悲しませたくない……笑っていてほしい! でも予算が! ジレンマ!

「――なんてな。これこれ」

 フーゴさんが見せてきたのは、この店のクーポンだった。しかも、大幅割引の……!?

「……私も恩恵に授かりたいです」
「そりゃそうだろ。同席してんだから」
「ありがとうございます……!」

 私は焦らされ、からかわれたものの。フーゴさんのおかげで何とかなりそうになった! フーゴさん様様だった。

「リッカ、良かったなぁ? たくさん食べろよ?」
「へっへっへっへっ!」

 リッカの気合が戻ってきた。それは喜ばしいこと。

「でもね、リッカ? 量は制限するからね?」
「……くーん」
「うう……君の為なんだよ……」

 食べすぎは良くないんだよ、リッカ……! 君の健康の為なら、私は鬼にだってなる……!

「ほら、これとかは? チーズ、たくさんあるよ?」

 私のお薦めにリッカが食いついた。うんうん、どれも美味しそうだね。迷うね――。

「……あ。すみません。フーゴさん、時間がかかって――」

 リッカに夢中になって、フーゴさんを待たせてしまっていた。私が見上げると。

「……ん? ああ、気にすんな。見てるこっちも楽しいから」

 優しい顔をした彼がいた。穏やかに私たちを見守っていた。
 彼が笑っている。いつもの彼の笑い方。それなのにね、私には綺麗に見えてしまって。

「は、はい……」

 私は顔をそらしてしまった。ちょっと……フーゴさんの顔が見れなくなってしまって。
 こんな、赤くなった顔とか……気づいてないといいけど。

「わふっ」

 私の視線の先のリッカ。リッカの方は時折フーゴさんを見上げていた。すっかり懐いているようだった。
 この子も警戒していないんだ……。




 門限までという約束通り、私たちはその時間で解散となった。

「エミル・ジュッツェのとこ、連れていく」

 リッカはエミルさんのお世話になっている。改めて、その話もしないと。

「ふん、これで門限を守ったってなぁ、アイツに言ってやんだよ」
「えー……うん、リッカのこと、お願いします」
「はいよ」

 フーゴさんは得意になっていた。抱き上げられているリッカも、つられて得意そうになっていた。可愛い。

「……シャーロットちゃん。また一緒に出かけようぜ。もちろん、リッカもな?」
「は、はい……」

 腕の中のリッカをあやしつつも、優しく笑いかけていた。その眼差しには愛しさも込められているようだった。

「オマエと一緒にいたい。それはな、紛れもないことなんだ」

 ――『オレ』が望んでいる、と。

「はい……」

 その言葉が嬉しい。すごく嬉しくて。
 紫の瞳に見つめられ、私は満たされる思いだった――。

感想 0

あなたにおすすめの小説

せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません

嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。 人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。 転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。 せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。 少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?

桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。 だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。 「もう!どうしてなのよ!!」 クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!? 天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?

社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。

天咲リンネ
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。 引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。 見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。 つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。 ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。 しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。 その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…? 果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!? ※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。

男女の友人関係は成立する?……無理です。

しゃーりん
恋愛
ローゼマリーには懇意にしている男女の友人がいる。 ローゼマリーと婚約者ロベルト、親友マチルダと婚約者グレッグ。 ある令嬢から、ロベルトとマチルダが二人で一緒にいたと言われても『友人だから』と気に留めなかった。 それでも気にした方がいいと言われたローゼマリーは、母に男女でも友人関係にはなれるよね?と聞いてみたが、母の答えは否定的だった。同性と同じような関係は無理だ、と。 その上、マチルダが親友に相応しくないと母に言われたローゼマリーは腹が立ったが、兄からその理由を説明された。そして父からも20年以上前にあった母の婚約者と友人の裏切りの話を聞くことになるというお話です。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

自称ヒロインに婚約者を……奪われませんでした

影茸
恋愛
平民から突然公爵家の一員、アイリスの妹となったアリミナは異常な程の魅力を持つ少女だった。 若い令息達、それも婚約者がいるものまで彼女を一目見た瞬間恋に落ちる。 そして、とうとう恐ろしい事態が起こってしまう。 ……アリミナがアイリスの婚約者である第2王子に目をつけたのだ。