春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

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第六章

彼の女王である日々②

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 帰りの列車に乗って、私たちは帰路につく。キャリーバッグの中から、リッカは外の景色を眺めていた。とても興味深そうだった。
 向かい合わせに座っていた私たちもそう。何となく外の景色を見ていたけれど。

「フーゴさん、本日はありがとうございました。楽しかったです。ね、リッカ?」
「わんっ」

 デート……うん、お出かけだとは思うんだ。嫌な顔一つせず、気遣ってくださってもいた。

「……あ。ああ、オレも楽しかった」

 フーゴさん、一拍遅れているようだった。考え事でもしてたのかなって。

「……この後どうするか、考えてた」
「……あ、夕ご飯ですか。お店、まだまだやってますよね?」

 かなり遅くなってしまったし、リッカには列車に乗る前に軽く食べさせてはいるけれど。家に帰ってからたっぷり食べさせようと思っていたところで。

「――オレの部屋、来るか?」
「え……」
「出来立て、炊き立て。ほかほかのご飯。作り置きもあるし、存分にもてなしてやりてぇ」
「あ、ああー……」

 普通に料理を振舞いたいって……そういうことね! そういうこと! 料理上手な彼が、もてなしも好きそうな彼が、ただそれだけの話であると。

 ……異性の部屋に。
 ……こんな時間に。

「オレはさ、もっと一緒にいたいんだよ」

 夜の景色を見ていた彼が、私に視線を向けた。とても直接的な言葉まで発するものだから。

「どうして……?」

 私は――口に出してしまっていた。フーゴさんはこれみよがしに溜息をついていた。

「どうして、そうきたか。ま、疑問にも思うか」

 フーゴさんは椅子に背をもたれ、そのまま天井を仰いだ。

「……そうだな、なんでなんだろうな」
「え」
「なんで、オマエなんだろうな――惹かれたのは」
「え……」

 私の顔を見ることはない。彼は見上げたままだ。
 というか……『ひかれた』? 文脈からして、引かれたはないとは思うにしろ……。

「引かれた、とか思ってねぇよな? 好意だよ、好意」
「っ!」
「……はあ、なんでかねぇ?」

 私はドキっとしてしまったのに、フーゴさんはこう、乱雑な物言いともいうか……。

「厄介な奴らに好かれていてよー? 本人も恋愛なんて嫌ですーって、そんなスタンスなのになぁ?」
「なっ……」

 軽い口ぶりだったのに、フーゴさんは。

「……本当に――『厄介なヤツ』に好かれるから」

 その声に、冷たさが込められていた。鋭利さをも。

「つまり、放っておけねぇってことだよ。オマエのこと」
「……そう」

 フーゴさんは私の境遇を心配して、とか。そういうことかな? 私としては、告白とは思わなかった。あまりにも躊躇いもないのもそうだし。

「……心配なんだよ、見てると」

 よく面識もないであろうに、私のことを案じてもいるようだった。

「……ねえ、フーゴさん。聞いてもいいですか?」
「なんだよ」
「私は知りたいんです。あなたは――何をそんなに心配しているのですか」
「……」

 フーゴさんは、私の問いに黙った。彼は答えない。
 どうして? どうしてですか、フーゴさん?

「フーゴさん、どうしたの? 厄介なヤツ……そういう人たちに好かれているから。そういう話だったんじゃないですか」
「っ!」

 私は素直に疑問を口にした。当初は『何故そんなにも親身になってくれるのか』。そのつもりの質問だったのに。

「……そう、そうだよ。オマエ、ヤンデレホイホイだろ。第三者として、心配になってくるんだよ」
「いや、ヤンデレをホイホイしたりは……」

 前にも日向ちゃ……ロルフ君にも、そんな感じのこと言われたような。そんなことは……。


 ――都の駅に到着すると、アナウンスが告げる。

「オマエが自覚もって警戒してくれりゃあ、こっちも楽なんだよ。シャーロットちゃんは、おニブさんだからよぉ?」
「なっ」

 フーゴさんは悪態ついていた。そんなこと言われても、だった……!

「……普通にメシ、食って帰るか。どっかの怖ぇのに、どやされる前にな」
「あの、フーゴさん――」

 天井から私を見る彼。普段通りの彼、不敵な笑顔。でもね、私は察する。
 彼はすっぱりと話題を切り上げていた。もう、どこの店に食べに行くか。犬連れで良い場所、でもって料理のジャンルまで。もう話題は完全に移っていた。

 警戒しているのはフーゴさん。一線を引かれている、そう思えてならない。
 フーゴさん。あなたは何かを知っている――なにかを隠している。




 フーゴさんが連れてきてくださったのは、うっすらとした照明、隠れ家的なレストランだった。なんと犬同伴可で、ドッグメニューまで豊富だった。犬用の小皿サイズ、嬉しいな。
 真向いに座るフーゴさん。犬専用が用意されていたので、リッカに座ってもらった。メニュー表も見せてみる。

「へっへっへっへっ!」

 リッカの気合がすごかった。メニュー表の写真だけでヨダレがだらだら、止まらない。さっき軽くとはいえ食べたもの、量はセーブしないと! ……それに。

「……ふふ、リッカたら」

 私は笑顔とは裏腹、内心ピンチだった。結構お金遣ってきたから、そろそろ今月の予算が……。孤児院への仕送りもあるし……お店も休業してばかりで……ああ。

「おー、お財布ピンチか? おごるか?」
「くっ……」

 フーゴさんはお見通しのようだった。私の心は揺らぐ……リッカの分はおごってもらう?

「なあ、リッカ? いろんなの食いたいよなぁ? どれも美味しそうだよなぁ」
「へっへっ……はっ!」

 リッカはヨダレは流したままでも、私のことを見てハッとした。首を振って、我慢しようとしていた……ああ、リッカ! 賢い子だから財政のこと、心配しているんだ……!

「ああ……ああ……!」

 リッカを悲しませたくない……笑っていてほしい! でも予算が! ジレンマ!

「――なんてな。これこれ」

 フーゴさんが見せてきたのは、この店のクーポンだった。しかも、大幅割引の……!?

「……私も恩恵に授かりたいです」
「そりゃそうだろ。同席してんだから」
「ありがとうございます……!」

 私は焦らされ、からかわれたものの。フーゴさんのおかげで何とかなりそうになった! フーゴさん様様だった。

「リッカ、良かったなぁ? たくさん食べろよ?」
「へっへっへっへっ!」

 リッカの気合が戻ってきた。それは喜ばしいこと。

「でもね、リッカ? 量は制限するからね?」
「……くーん」
「うう……君の為なんだよ……」

 食べすぎは良くないんだよ、リッカ……! 君の健康の為なら、私は鬼にだってなる……!

「ほら、これとかは? チーズ、たくさんあるよ?」

 私のお薦めにリッカが食いついた。うんうん、どれも美味しそうだね。迷うね――。

「……あ。すみません。フーゴさん、時間がかかって――」

 リッカに夢中になって、フーゴさんを待たせてしまっていた。私が見上げると。

「……ん? ああ、気にすんな。見てるこっちも楽しいから」

 優しい顔をした彼がいた。穏やかに私たちを見守っていた。
 彼が笑っている。いつもの彼の笑い方。それなのにね、私には綺麗に見えてしまって。

「は、はい……」

 私は顔をそらしてしまった。ちょっと……フーゴさんの顔が見れなくなってしまって。
 こんな、赤くなった顔とか……気づいてないといいけど。

「わふっ」

 私の視線の先のリッカ。リッカの方は時折フーゴさんを見上げていた。すっかり懐いているようだった。
 この子も警戒していないんだ……。




 門限までという約束通り、私たちはその時間で解散となった。

「エミル・ジュッツェのとこ、連れていく」

 リッカはエミルさんのお世話になっている。改めて、その話もしないと。

「ふん、これで門限を守ったってなぁ、アイツに言ってやんだよ」
「えー……うん、リッカのこと、お願いします」
「はいよ」

 フーゴさんは得意になっていた。抱き上げられているリッカも、つられて得意そうになっていた。可愛い。

「……シャーロットちゃん。また一緒に出かけようぜ。もちろん、リッカもな?」
「は、はい……」

 腕の中のリッカをあやしつつも、優しく笑いかけていた。その眼差しには愛しさも込められているようだった。

「オマエと一緒にいたい。それはな、紛れもないことなんだ」

 ――『オレ』が望んでいる、と。

「はい……」

 その言葉が嬉しい。すごく嬉しくて。
 紫の瞳に見つめられ、私は満たされる思いだった――。

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