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第六章
彼の女王である日々⑨
今日も朝の身支度を済ませた。メイクも慣れてきたので、前よりは早く仕上がった。あとは香水をかけて、と――。
「きゅーん……」
足元のリッカが悲しそうにしていた。私は香水を鏡台の前に置いた。
「……かけなくて、いいか」
「うん! いつもの匂いがいいの」
「そうだね、リッカ」
リッカがそういうなら、いいよね。香水バフは無くなるけど、そこは気合で。
「……フーゴさん」
放課後なら時間に余裕がある。余裕をもって話せる。どの顔が、って思われるかもしれない。それでも……それも気合で。根性で!
「エミルさんのとこ、行こっか」
「うん!」
リッカを彼にお願いしに男子寮へ。それから学園に向かおう――。
「――それで、どうしたんだ?」
「それは……ですね」
私は一人でフーゴさんの教室を訪れていた。かなり勇気を出した。周囲から注目されている。視線が痛い。帰りたい。
「……っ」
いいえ、ここで引き返せはしない。私は顔を上げた。
「放課後、お話しませんか……!」
「いいぜ」
「……へ」
こちらとしては決死の願いだったけれど、返ってきたのはあっさりとした返事。
「あ、ありがとうございます? 急な誘いだったのに」
「ま、それな……そうだな、急だよなぁ?」
「……へ?」
急にフーゴさんが悪い顔になった。
「放課後だけといわず、遅くまで付き合ってもらうか」
「!」
確かに、じっくり時間をとれたら。それはこちらとしても願ってもないこと。『遅くまで』って言葉に動揺している場合じゃない。
「相槌専用でも構わねぇ。夜通し付き合ってくれよ?」
「……?」
あれ? ……待って? これって確か、クラーラさんが……。
『あなたで遊ばせてもらうから。ねえ、相槌専用でも私は構わないわよ? 夜通しもいけるかしら。ふふふ』
そうだ、『彼女』が口にしていたこと。たまたま被っただけ?
「……いや、戯言だ。さすがには門限には帰す」
「は、はい……」
フーゴさんも訂正をいれてきた。それは、夜通し発言に関することか――それとも。
放課後になり、フーゴさんと出かけることになった――その前に。
私は女子寮に寄っていった。リッカも一緒に出かける為だ。相手からの許可ももらっている。
「お出かけ!」
リッカははしゃいでいた。前のお出かけ、楽しかったものね? リッカにリードを装着し、お散歩セットも持った。
「メイク……」
私は壁面にかかっていた鏡を見た。メイク直ししようかとも考えたけれど……。
見た目から入っていた私。確かにメイクをしていた時、私の気持ちが入っていた。背筋もすっと立つようだった。楽しいって気持ちも芽生えてはきていた。
「……いいのかな」
今は背伸びしなくていいのかな。彼の――フーゴさんの前なら。崩れをちゃっと直した程度、それくらいにした。
「お待たせ、行こうね?」
「わんっ」
リッカ、良いお返事だね。君はいつも可愛いね、決まっているね? 私の手作り感満載のケープも、君は見事に着こなしているね!
「……あ」
私の視線はリッカのケープへ。体を屈ませ、じっくりと確認した。
「毛玉、けっこう出来てるね……うん、長く着ているもんね」
日数はそれほどでも、ループでかなり繰り返して経過しているから。リッカはその影響を受けるようだから……それで、だよね。
しかもこれ、リッカが一番気に入っているようだった。ベージュの優しい色合い、ワンポイントにお花もある。最初に作ったものだった。というか、試行錯誤していたから……出来もアレなんだけど。
「へっへっへっへっ」
それでもリッカは満足そうだった。私は彼を見た。捨てるなんて言えないよ。着なくなったとしても、とっておきたいね……。
女子寮を出ると、フーゴさんは待っていてくれていた。
「フーゴさん、お待たせしました――」
私はドキッとしてしまった。私服の彼だ。体格の良さも際立つ、大人っぽくてスタイリッシュな印象の服装。手持ちの服装から、辛うじてオシャレなものを着てきたとはいえ、私はこう、地味というか……。
「お、可愛いな」
「ど、どうもありがとうございます……」
軽く言ってくれたのが、気持ち的にも救われたというか。私を見る目も温かい。彼はこのような恰好でも気にしないってこと、そうだよね?
「リッカもそれ、いいよな」
「わんっ」
リッカのケープのことも褒めているようだった。リッカも嬉しそう。良かったねぇ。
「一番似合ってる」
「!」
リッカとしても、言われたかったようだ。ああ、尻尾が止まらない……!
「――っと、そうだな。まずは買い物でもいくか。前の店でいいだろ?」
リッカを見て何かを連想したようだった。そっか、前に連れてってもらったとなると、ペット用品を扱っているお店のことかな――。
以前はキャリーバッグを購入する目的があった。じっくり店内を回ることもしなかった。今日はゆっくり見られるね。
「わあ……」
私は抱っこしたリッカと商品たちを交互に見る。どれも似合いそうだねぇ……可愛いから!予算の兼ね合いもあって、ぽんぽん買えないのが……!
「じゅるり」
「リッカ……」
リッカの興味はおやつコーナーだった。そうだね、せっかくだから買っていこうね……ちょっとだけ。
「――お、買うやつか? リッカ、こっちで待ってような?」
いつの間にどこかに行っていたフーゴさん、彼が戻ってきた。私が会計することもあって、リッカを受け入れようとしていたんだ。
「……」
私は黙ってしまった。
そう、前のようにリッカを預けることになる。でも、前みたく疑うこともなくこの子を託すというのも……。
「へっへっへっへっ」
リッカはすんなりと抱っこされていた。前も思ったけど、本当に警戒していないね……。
「どうした?」
「……いえ」
あからさま過ぎるのも……だよね。私は一礼をして、手短に会計をすることにした。
会計から戻ると――私は衝撃を受けていた。
「か、か、かわ……」
可愛い子がさらに可愛さをプラスされていた……!
「お、評判は良さそうだな? な、リッカ?」
「わふっ」
ああ、満足そうにしているのがさらに可愛い……!
リッカは――犬用の帽子を着用していた! モコモコふわふわの紫の帽子! 紫も映えるね!
「フーゴさん、神チョイスです。リッカ、いいよぉ、可愛いよぉ……」
ああ、テンションが上がる……! 帽子を被ってのキメ顔、実にいいよぉ! 私は近くの店員さんに許可をとって、撮影もした。リッカと一緒にフーゴさんも収めて、と!
「……ふう」
落ち着こう。こちら、試着したものでしょうし。このへんにして返してこないと。
「ん? もう気ィ済んだのか?」
「はい……落ち着きました。大人しくしています」
「ん、すげぇテンションだったな」
「はい……」
フーゴさんのそのままの言葉に、私は反省するばかりだった。
「それでフーゴさん、戻しておきますね? どのあたりにありました?」
「は? 何を?」
「何をって、その帽子ですよ?」
「帽子? 買ってんだから、その必要ねぇだろ?」
買った? リッカと顔を合わせて『な?』って仰ってるけれど……買った? その良い値段がしそうな帽子を……!?
「リッカに買ったんだよ、似合ってるぜ?」
「わふっ」
……。遠慮しようとした私を牽制しているようだった。リッカに贈った、リッカの為と。それを言われては、私は……!
「……あの、半額は出させてくれませんか?」
「悪ぃが、断る。つか、前のキャリーバッグだって、こっちは金を出したかったんだ。メシだっておごりたかった。今回くらい、よくね?」
「そうは言われてましても……」
「リッカの為だ。なァ? 返品とか、店にもリッカにも悪いだろ……なァ?」
「くっ……」
すでに着こなしているリッカ。とても似合うリッカ。
「ありがとうございます……でも、半額はもちますからね。全額は厳しいですけど……」
「……そんだけ払いたいなら、しゃーねーな」
ここは格好よく全額でいきたかったけれど、半額でご容赦願った。
「うん、似合ってるよ。リッカ?」
「わんっ」
お耳も頭もあったかいね。リッカ、いい笑顔だね……。
パシャッ。撮影の音がした……って。
「……いい笑顔だわぁ。大枚はたいた甲斐があったわ」
「ふ、フーゴさん……?」
なんと、リッカに対してデレデレの私を撮られてしまっていた……!
「肝心のオマエがさ、映らないでどうするよ?」
フーゴさんはしれっと言う。携帯用撮影道具をちらつかせつつ。
「今度はちゃんと承諾得るからさ、撮らせてくれよ?」
リッカのことかと、私が思っていると。
「リッカもだし――オマエもだよ。たくさん撮りたい。思い出も作っていこうな?」
「……!」
甘く私に囁くと、リッカを渡してきた。
私は、私は……!
「シャーリー? お顔赤いよ?」
「!」
正直リッカが私を見上げていた。私はさらに顔を赤くしてしまった。
「くくっ……」
フーゴさんは笑いをこらえているようだった。一人余裕なのが、私は悔しくもあった。
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