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第六章
彼の女王である日々⑫
焦る。実に焦る。私は教室で一人、もだついていた。
今日で二月十三日。明日にはダンスパーティーが控えている。
もう放課後にもなってしまった。こっちから聞いた方が良いよね……!
「――よう、シャーロットちゃん」
教室の入口から、のんきな声がした……フーゴさんだ!
「フーゴさん!」
「……っとぉ」
私は速攻で立ち上がって、彼に迫った。さすがに驚いているようだった。私も鬼気迫る表情をしているから、それもあると思う。
「待たせて悪かったよ。やっと色々な準備が整った――だから、デートしようぜ?」
「……いや、デートどころじゃ」
「約束は守る。それまでに、楽しめるもんは楽しんでおきたいんだよ」
「そうは言っても、こちらとしては早く……」
「……頼む」
「そんな……」
フーゴさんに懇願されてしまった。あまりにも真剣でもあって、私は……。
「……お話、聞けるってことですから。お出かけしましょうか」
私はそれと質問した。
「リッカは一緒でも大丈夫ですか? 話の内容によっては、エミルさんにお願いしますが」
「……リッカか。ああ、一緒でも構わないぜ」
「わかりました……?」
フーゴさんは思案しているようだったけれど、同行してもよいと。内容を踏まえていたのか、それとも?
もはや定番となっていたデートコース。ペットショップや、ドッグラン。犬同伴可のレストラン。
レストランの隠し部屋には本日も招かれた。フーゴさんはカードを持参していたようだった。私を伺うように、チラチラと見てくる彼。加わりたいのがわかった。『見てるのも楽しい』と、リッカをお膝に観戦する私。
楽しかった。夢のような時間だった。たくさん笑ったよ。
何よりね、リッカが楽しそうにしているの。辛いことがある中で、この子がこんなにも伸び伸びともしていて……私はたまらない気持ちになった。こんな穏やかな日々が続いてくれるのなら。
……フーゴさんも側にいてくれる。なんて、しあわせな日々なんだろう。不安もない日々なのでしょう。嫌がらせにも悩まされることもない。
王様である彼に、隣に立つは女王である私。私は選ばれたのだから――。
……なんてね。
これだけ満たされた環境であろうと、私の頭の中では警鐘が鳴り響いている。
しあわせ? 不安がない? それはない。あの四人の状態変化は続いたままだ。
クラーラさんだって、フーゴさんだってそう。真意がわからないまま、そうでしょう?
門限に迫る時間になった。私たちはなんとか門前に滑り込むことが出来た。
「ぐーすぴー……」
リッカは熟睡していた。私の腕の中でスヤスヤと。すっかり安心しきっている、そんなこの子を私は見た。
「……リッカ」
これまでに何らかの異常を感知してきた。それなのに、リッカは何も警戒していないようだった。つまり、何も脅威もないってことなの……?
いつだって濃霧にかかっているようだった。もうはっきりさせたい。
リッカが寝ていることもあってなのか。それだけじゃない。まだ大事なことが残されているから。私たちの口数は少なくなっていた。
もう寮の前だ。まだ帰れない。私はその場で踏みとどまった。
「フーゴさん、本題を話しましょう。前みたく図書室でしょうか?」
「そうだなァ……」
「……フーゴさん?」
フーゴさんがやたらと見てくる。そして――近づいてもきて。
「――オレの部屋だ」
「!?」
その言葉に衝撃を受け。
「リッカはこっち、な?」
「ちょ、フーゴさん……!?」
静かに眠るリッカが、フーゴさんに抱きかかえられてしまっていた……! 彼はどんどん進んでいく。私は彼を追いかけていった。
男子寮に踏み入れることになった。そこで待っていたのはフーゴさんだ。
「よし、来たな」
「いや、来たなって――」
寮のロビーには何人がいた。私たちは注目を浴びている。男子寮に女子がいることが大きいのかな。それもこんな時間に……。
「お邪魔します……」
と、肩身狭くしながらも私は挨拶をした。
「そんな、気にすんなァ? ほらほら、行こうぜ?」
「は、はい……」
フーゴさんが体を寄せてきた。周囲はどよめき出す。色々と勘ぐられてもいるようで……。
私たちの体は寄せ合ったまま……触れ合ったまま。心臓のドキドキが止まらない。階段も長く上っているようだった。
「ふう……」
彼の部屋は最上級のフロア、ようやく到達した。
「……なぁ、最終確認してもいいか?」
「最終確認……ですか?」
「そうだ。この扉を開ける前にな」
「……」
何か重大な選択を迫られているようだった。最終確認……覚悟とか? それとも……。
「――オマエは『どっち』を信じる?」
彼は問う。
私をまっすぐに見つめて。
「……いい加減、フェアじゃないから。だから、これも伝えておく――アルト達を『ああした』のは」
彼は言う――『オレだ。オレがやった』と。
こんな時でも、彼は私から目をそらしはしない。
「……理由が」
声が震えてしまう。はっきりと言われてしまった。彼から。彼の口によって。
「理由があったり、とか……しませんか?」
「言えねぇ」
「……そうですか」
声を絞り出しての質問だった。その答えがこうだった。
「本当になんて人……」
恨みがましい声になっていたと思う。彼のまっすぐな視線、今は何を考えているかわからない……そんな紫の瞳。
「……」
大切な人たちなんだよ。大変なこともあったけれど、共に乗り越えてきた人たち。それなのに言えない理由で、あんなことをした人なんだ。私は改めて知らしめされたんだ。
「……ふふ」
私は小さく笑って、自嘲した。
それなのに。そんな人なのに。
「……アルトたちのことは、そのままにはしておきませんから」
「……はあ。オマエにどう言われようとも、なんだけどな」
「それでもです」
呆れられようとも、私は構わない。その上で、私は伝える。
「あなたに対する不信はその点がそうです。あとは、あなたを信じます」
私に迷いなんてない。
「……」
フーゴさんが無言のままでいようと。
「私が一緒に過ごしてきたのは――フーゴさん、あなたなんです」
それは揺るぎない事実だったから。私も彼を見つめ返した。
「……もう一つ質問だ――なら、どっちを『選ぶ』?」
「選ぶ……」
彼は選択させようとしている。クラーラさんか――目の前のあなた、か。
「フーゴさんです。あなたを選びます」
「……」
私は笑ってそう答えた。目の前のあなたが不安そうにしていたから、少しでも安心してほしかった。
「信じるのもあなたなんですから。それと、その……選ぶとか、私言っちゃって良かっ――」
「――シャーロットちゃん」
急く彼に、言葉が遮られた。彼が私の名を呼ぶと。
――勢いよく開かれた扉。紫の濃霧が目に飛び込んでくる。
「……フーゴさん!?」
彼が私の腕を掴んでいた……力が込められて。そのまま、勢いよく部屋に連れ込まれてもしまう。
「リッカ、寝ててな?」
リッカに対する所作は優しかった。犬用ソファなんてあったのか、そこに寝かせた後、そっと毛布もかけていた。
「……あとは」
「っ!?」
私に対してはというと、腕の力は込められたまま。ぼやける視界の中、認知できたのが。
――ベッドだった。
「わっ!?」
ベッドを確認した直後――その上に押し倒されていた。
何が起きたというの。私は仰向けになって、彼を見上げる状態で。腕だって頭上でひとまとめにされていて……。
紫のモヤが彼の表情を隠す。どんな表情をしているか、それがわからなくて――。
「……悪いな」
フーゴさんはその場で横になった。押し倒される形ではなくなったにせよ、私たちはベッドに寝転がったままで。
「このまま寝かせてくれ」
「!」
私は彼に抱き寄せられ――彼の香りに包まれた。
「――ほら、一緒に眠ろうぜ」
彼の鼓動の音がする。ドキドキもするけれど、安心もする。私は彼のたくましい胸に顔を寄せた。
「……すっぽり、なんだよな」
「……ははっ」
私を抱きしめた彼は、そう呟いた。すっぽり、その表現に私は笑ってしまった。語感が可愛いって思ってしまった。
「……笑うんか。ほら、寝ろってんだ」
「はい、寝ます寝ます」
「ったく」
適当に背中をぽんぽんとされた。私は彼に身を任せたまま、瞳を閉じた。彼の音を聞いて、眠ることにしよう。
「……こっちは切実なんだよ。こうして抱きしめられる。触れられる」
「……?」
フーゴさんの切羽つまった声、笑っちゃいけないことだったのかな? 私がそう思うにも、眠りが――。
「――オレとして」
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