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第六章
彼の女王である日々⑮
女子寮を出てすぐのところで、人だかりが出来ていた。
「どうして……」
中心はあの二人だった――フーゴさんとエミルさん。私は彼らにゆっくりと近づいていく。
「おはようございます……?」
「わん……」
挨拶をすることにした。抱っこされているリッカもそう。眠そうにしながらも、小さく鳴いた。
「……あ、シャーロットにリッカ様。うん、おはよう」
エミルさんはこちらを見た。にこやかに挨拶をしていた。眠そうにしているリッカを心配そうに見てはいた。
「お、シャーロットにリッカ。よう、来たな」
学園のコートとかは違う、上等なコート。下もスーツを着ているんだろうね。髪型だってそう。ひとつにまとめられていて、いつもと違う感じで……。
「……」
……つまり格好いい。周りの子たち同様、私も目を奪われてしまっていた。
……いやいや! 私はすっと目線を外した。直視しないでおこうと決めた。耐えられないからだった。
「シャーロットったら……」
何故か冷めた目をしているエミルさん、彼からの視線にも……。
「つか、リッカも踊るのか? 蝶ネクタイ、似合ってるぜ?」
「……は? リッカ様も巻き込む気? もちろん蝶ネクタイはお似合いだし、素敵ですけど……?」
気さくな挨拶をしてきたフーゴさん、それに難色を示すはエミルさん……その、エミルさん?
「踊らせたりはしないけどね? リッカも参加させたいなって。それで、エミルさんも一緒に来てほしいというか……お願いします!」
「え……」
エミルさんは戸惑っていた。リッカと共に見張る予定だった彼。一緒にパーティー会場に出向くとは思ってなかったと。しかも、眠そうなリッカを騒がしい場所へ。
「ええと、急だね? 僕、参加する予定はなくて。ほら……」
エミルさんは学園指定のコート、ズボンも制服だった。上もブレザーっぽい。普段そのものの彼だ。
「――ねえねえ、『図書室の君』いるよ? 久々だよね?」
「参加しないのかな……?」
周りの女子たちも注目していた。エミルさんは元々憧れられてもいたのと、久々の登校でもあったから。
「ふーん、いいんじゃね? オマエも参加しろよ。スーツ着ての参戦、歓迎するぜ?」
「……は?」
……エミルさん? フーゴさんは普通に勧めてきただけだと思うのに。エミルさんは一気に険しい顔になったというか……。
「いや、『は?』……って。オマエも『彼女』と踊りたいんじゃねぇの? そういったことなら受けて立つって話で……」
「……はぁ?」
……エミルさん。今度は長く、その分、険しさも増しているというか……?
「なんなんだよ……まあ、いいけどよ?」
フーゴさんも困惑していた。でも、その表情が一転した。悪い笑顔というものに。
「どれだけ『図書室の君』が麗しくてもよ? ――彼女はオレを選ぶからな」
「……はぁぁ!?」
……いや、エミルさん? この場の誰よりもガラが悪いというか!?
「ああ、わかった。今から着替えてくるし、めかしこんでもくる。そうすれば、そっちより僕の方に見とれたりするだろうから!? ねえ、シャーロット――」
煽られたと思ったのかな、エミルさん……。
「……ふう、いや、いいか」
それでいて、一瞬で冷静になることもできる。彼の目に入ったのは、私というよりリッカの存在。
「僕は制服のままで結構。リッカ様のお傍にも、ちゃんといるね?」
落ち着いたエミルさんは、リッカを守るということと――経過を見守ること。それに専念してくれるようになった。
「急でごめんね? リッカをお願いします」
「うん、もちろん」
私はエミルさんにこの子を託した。ひと撫ですると、一礼し、去っていく。もう一回だけ、ちらっと振り返った。リッカは眠ったまま……。
「……リッカ、調子悪いとかじゃないよな? 連れてきて大丈夫だったのか?」
隣に並んだ私に、フーゴさんが話しかけてきた。彼は見るからに心配しているようだった。
「はい……パーティーが終わったら、病院行こうかと……」
それか、以前のようにオーナーさんのところか。リッカたっての希望とはいえ、こうも眠そうなのも……。
「……パーティーが終わったら、ねえ?」
「え……」
私はその言葉に顔を上げた。影になっていたからか、その時の表情はよくわからなくて――。
――ロルフ君たちの本気を見たり。本校舎がみえてくると、私は度肝を抜かれた。
ものの見事に可愛らしく装飾されていた。ハートのバルーンが飛び交い、チョコレートのオブジェがところどころにあって、どれもこれもクオリティが高すぎる……! さっそく映えスポットと化しているのか、生徒たちが撮影をしていた。
「すっげ……オマエのクラスの奴だろ? 中心になっていたのって」
「はい、すごいですよね……」
フーゴさんもしきりに感心していた。『なんでチョコばっかなんだ?』って疑問に思いつつ、ワクワクもしているようだった。私は可愛いと思ってしまった。
そんな中、気になる噂話があった。
――中心となっていたロルフ君が、来ないという。
「あの賑やかなヤツ、なんで参加しないんだ? アイツ、提案者だろ?」
「私もよくわからなくて……都合悪かったのでしょうか?」
私たちは不思議に思いながらも、歩き続けていた。
「……はっ!」
確か出店もあるって。あちこちから甘い香りが漂ってくる。メインは当然、チョコ……チョコか。
「なんか食ってくか?」
「私は大丈夫です。朝ごはんも食べてきましたので。フーゴさんは食べたいですか? 私、あっちで待機してますよ?」
正直食べたいし飲みたい。ホットココアとか、すごい購買欲を駆り立ててくる。でも、気持ち的に急いで去りたい気持ちがあって。
「いや、オマエが食わねぇならいいけど……つか」
フーゴさんはもの言いたげんだった。いや、彼は言ってきた。
「おいおい、リッカはいないだろうが」
「……ええ、まあ、そうですよね?」
チョコを遠ざける生活をしていたからか、私は反射的にそうなってしまっていた。フーゴさんはというと。
「はは、オモシレー女だ。オモシレー……」
と。なんて感情の伴わない『オモシレー女』発言なんだろう……。
「……ほんと、リッカ中心だよな」
「あはは……はい」
呆れまでついてきた。
「ま、後日にでも食べに行くか?」
「いいですね。打ち上げ的な?」
「お、そうだな」
打ち上げ……そう、それなら。私は足を止めた。
「――『みんな』で。『今日』を越えたのなら、出来ますよね?」
私は彼に訴えた。人の目が憚れるから、会話の内容には気をつけながら。
彼がみんなを文字化したのは、古代の巫女の影響から免れる為、と。それが今日で終わるなら、もう解放してもいいはずだ。私はそう考えていた。
「……」
「……フーゴさん?」
フーゴさんは黙った。無表情にもなって、私を見ている。それが不可解でもあって……。
「……おう、そうだな。ああ……みんなで。いいじゃねぇか?」
「はい!」
フーゴさんに笑顔が戻った。安心したので、私も笑顔になる。うん、良かった良かった。
そうこうしている内に、会場に到着した――体育館だ。
「――さあ、行こうぜ」
「はい――」
扉は開かれる――パーティーの始まりだ。
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