499 / 557
第六章
彼の女王である日々⑰
「――いいえ、ここまでよ」
甘ったるい女性の声がした。声だけで、人を魅了をさせられるような。
カツン、カツンと。会場内にヒールの音がする。人の波があっても、その存在は気にすることはない……勝手に道を開けてもらえるから。
「よっと」
ふわり体を浮かせ、壇上に舞い降りた彼女。出現した玉座に足を組んで座る。
自信に満ちた女性。豪華なドレスも身にまとう宝飾も、当人の輝きには及ばない。
聖女と呼ばれし存在。清く正しい存在。選ばれし女神の巫女である彼女。
――クラーラ・メーディウムが突然現れたのだ。
「クラーラさん……!?」
私は動揺していた。さん付けで呼んでしまったのもそう。突然の登場もそう、こうして現実にも出られるものかと。
私だけじゃない。会場にいる人たちも驚いていた。といっても、大半が彼女の美貌についてのものだった。
「……来たな」
フーゴさんは違った……予期していたようだった。
「ええ、そうよ? 楽しそうな催しにね、いてもたってもいられなくてね?」
「……よく言うぜ。『この日』に狙いをつけていたんだろ?」
二人にしかわからない応酬……? いえ、待って。この日は確か、『クラーラ・メーディウムの誕生日』だった。
「……」
――フーゴ・メーディウムが消えた日。
「クラーラ……あなたは……」
本来ならばこうして出てこられた。けれど、そうはしなかった――わざわざだ、この日を狙っていたんだ。
「おわかりなら結構――いい加減、返してもらうわよ? 好き勝手やってくれたわね?」
クラーラは笑顔ながらも、怒りを隠すこともない。
「本来は私のものよ。あなたのじゃない――さあ、返しなさい」
返す……返してもらう、と。肉体はクラーラであっても、元々はフーゴさんなのに?
「あなたもよ、シャーロットさん? おイタが過ぎたのではなくて?」
私にも矛先を向けてきた。
「……」
そうだった。確かに相手に喧嘩を売ったも同然だった。
「……まあね、それはいいの。私のモノになったら、許してあげなくはないわ。あなたはいわば――トロフィーだもの」
「……トロフィー?」
「色々な男が、あなたを求めてきたわけでしょう? そんな男共が懇願しても手に入らなかったもの。それがあなた。ね、トロフィーでしょ?」
高らかに笑ったあと、すぐに表情を変えたクラーラ。冷徹な表情のまま、告げる。
「ね、シャーロットさん? 私、今ならまだご機嫌なの」
クラーラは錫杖を発現させた。それを床にトントンとさせていた。次第に、次第に大きくなっていく音だ。
「あなたを手に入れたとなるとね? 彼ら、どれだけ悔しそうな表情を浮かべるかしらって。だから、まだ選ばせてあげるわね?」
音が、音が大きくなっていく――。
「――私を選びなさい、シャーロット・ジェム」
――私のモノになりなさい、と。
「う……」
一定のリズムを刻む。私の頭の中にも刻みこもるとしてくる……! そう、これが『誘惑』の力……!
「……いえ、私は!」
私は誓ったんだ。覆したりなんてしない……!
「私はフーゴさんを選ぶ。あなたじゃない!」
だから、声を大にして伝えるんだ!
「シャーロットちゃん……」
フーゴさんは目を見開いていた。大丈夫です、フーゴさん。私、負けませんから。
「……まあ。ふふふ、あははは!」
クラーラは笑みを浮かべていたけれど、やがて。
「……ふふ、御しやすいかと思っていたのに――面倒くさい子ねぇ!」
怒気が込められた声、彼女は錫杖を地面に叩きつけた。成り行きを見守っていた生徒たちも、それに慄く。
「――いいわ。ねえ、あなた達? ――その娘を捕らえなさい」
甘くねだる声。とても魅惑的な響きで、彼女は生徒達に語りかけてくる。
「ああ……クラーラ、様……」
「素敵……クラーラ様ぁ……」
彼らの瞳は虚ろになっていく。クラーラを讃える言葉を連呼していた。その状態で、私に群がろうとしている――。
「シャーロット!」
「!」
リッカを片手に、エミルさんが駆けこんできた。剣を携えている彼は、戦う気でもあって。
「あら? 相手は生身の生徒よ? それでも構わないってことなのね――さすがは『隊長さん』」
「なっ……いや」
エミルさんは一瞬狼狽するも、冷静さを取り戻そうとしていた。私だって彼の気持ちがわかる。動揺するのもだ。
どうして知っているのか。どこまで知っているのかって。
「あなた達のこと、よーくわかっているのよ? ――ずっと見ていたのだから」
「……巫女クラーラ」
あなたはどこまでお見通しだというの。背筋が震えてしまう……。
「あらあら、どうしたの? 余裕があるのね?」
「!」
私は操られた生徒たちに囲まれていた。
「くっ……どいてって……!」
一度は近づけたエミルさんも、生徒たちによって阻まれてしまう。剣もしまわれてしまっていた。
「ふふ、そうでしょう? もう手を血で染めたくないわよね? 『大事な子の感触』が甦るようねぇ……?」
「……!」
クラーラの下卑た笑いに、エミルさんの顔は一気に青褪めた。
「……ふふ」
クラーラは笑ったままだ――弱点をつけたと。
「……大丈夫だよ。私が凍らせるから。氷の力で、生徒たちを封じて見せる」
「シャーロット……」
私は惑うエミルさんに話りかけた。
「……わんっ!」
そう、リッカもやる気だ。地面に着地すると――力強い遠吠えをあげた。
「「「!?」」」
耳をつんざくような鳴き声に、生徒たちは耳を塞ぐ――しばらくして。
「あれ……?」
「私たちは、一体何を……?」
生徒たちは正気を取り戻し始めていた。寮長さんもだ……。
「……ありがとう、リッカ」
「わん!」
この機会を逃したりはしない。私はクラーラがいる壇上に向けて駆け出していく。この氷の力、皆さんに使わなくて済んだんだ。なら、彼女にぶつけるまで――!
あなたにおすすめの小説
せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません
嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。
人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。
転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。
せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。
少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。
【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?
桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。
だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。
「もう!どうしてなのよ!!」
クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!?
天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?
社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。
天咲リンネ
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。
引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。
見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。
つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。
ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。
しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。
その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…?
果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!?
※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。
男女の友人関係は成立する?……無理です。
しゃーりん
恋愛
ローゼマリーには懇意にしている男女の友人がいる。
ローゼマリーと婚約者ロベルト、親友マチルダと婚約者グレッグ。
ある令嬢から、ロベルトとマチルダが二人で一緒にいたと言われても『友人だから』と気に留めなかった。
それでも気にした方がいいと言われたローゼマリーは、母に男女でも友人関係にはなれるよね?と聞いてみたが、母の答えは否定的だった。同性と同じような関係は無理だ、と。
その上、マチルダが親友に相応しくないと母に言われたローゼマリーは腹が立ったが、兄からその理由を説明された。そして父からも20年以上前にあった母の婚約者と友人の裏切りの話を聞くことになるというお話です。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
自称ヒロインに婚約者を……奪われませんでした
影茸
恋愛
平民から突然公爵家の一員、アイリスの妹となったアリミナは異常な程の魅力を持つ少女だった。
若い令息達、それも婚約者がいるものまで彼女を一目見た瞬間恋に落ちる。
そして、とうとう恐ろしい事態が起こってしまう。
……アリミナがアイリスの婚約者である第2王子に目をつけたのだ。