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第六章
彼の女王である日々⑰
しおりを挟む「――いいえ、ここまでよ」
甘ったるい女性の声がした。声だけで、人を魅了をさせられるような。
カツン、カツンと。会場内にヒールの音がする。人の波があっても、その存在は気にすることはない……勝手に道を開けてもらえるから。
「よっと」
ふわり体を浮かせ、壇上に舞い降りた彼女。出現した玉座に足を組んで座る。
自信に満ちた女性。豪華なドレスも身にまとう宝飾も、当人の輝きには及ばない。
聖女と呼ばれし存在。清く正しい存在。選ばれし女神の巫女である彼女。
――クラーラ・メーディウムが突然現れたのだ。
「クラーラさん……!?」
私は動揺していた。さん付けで呼んでしまったのもそう。突然の登場もそう、こうして現実にも出られるものかと。
私だけじゃない。会場にいる人たちも驚いていた。といっても、大半が彼女の美貌についてのものだった。
「……来たな」
フーゴさんは違った……予期していたようだった。
「ええ、そうよ? 楽しそうな催しにね、いてもたってもいられなくてね?」
「……よく言うぜ。『この日』に狙いをつけていたんだろ?」
二人にしかわからない応酬……? いえ、待って。この日は確か、『クラーラ・メーディウムの誕生日』だった。
「……」
――フーゴ・メーディウムが消えた日。
「クラーラ……あなたは……」
本来ならばこうして出てこられた。けれど、そうはしなかった――わざわざだ、この日を狙っていたんだ。
「おわかりなら結構――いい加減、返してもらうわよ? 好き勝手やってくれたわね?」
クラーラは笑顔ながらも、怒りを隠すこともない。
「本来は私のものよ。あなたのじゃない――さあ、返しなさい」
返す……返してもらう、と。肉体はクラーラであっても、元々はフーゴさんなのに?
「あなたもよ、シャーロットさん? おイタが過ぎたのではなくて?」
私にも矛先を向けてきた。
「……」
そうだった。確かに相手に喧嘩を売ったも同然だった。
「……まあね、それはいいの。私のモノになったら、許してあげなくはないわ。あなたはいわば――トロフィーだもの」
「……トロフィー?」
「色々な男が、あなたを求めてきたわけでしょう? そんな男共が懇願しても手に入らなかったもの。それがあなた。ね、トロフィーでしょ?」
高らかに笑ったあと、すぐに表情を変えたクラーラ。冷徹な表情のまま、告げる。
「ね、シャーロットさん? 私、今ならまだご機嫌なの」
クラーラは錫杖を発現させた。それを床にトントンとさせていた。次第に、次第に大きくなっていく音だ。
「あなたを手に入れたとなるとね? 彼ら、どれだけ悔しそうな表情を浮かべるかしらって。だから、まだ選ばせてあげるわね?」
音が、音が大きくなっていく――。
「――私を選びなさい、シャーロット・ジェム」
――私のモノになりなさい、と。
「う……」
一定のリズムを刻む。私の頭の中にも刻みこもるとしてくる……! そう、これが『誘惑』の力……!
「……いえ、私は!」
私は誓ったんだ。覆したりなんてしない……!
「私はフーゴさんを選ぶ。あなたじゃない!」
だから、声を大にして伝えるんだ!
「シャーロットちゃん……」
フーゴさんは目を見開いていた。大丈夫です、フーゴさん。私、負けませんから。
「……まあ。ふふふ、あははは!」
クラーラは笑みを浮かべていたけれど、やがて。
「……ふふ、御しやすいかと思っていたのに――面倒くさい子ねぇ!」
怒気が込められた声、彼女は錫杖を地面に叩きつけた。成り行きを見守っていた生徒たちも、それに慄く。
「――いいわ。ねえ、あなた達? ――その娘を捕らえなさい」
甘くねだる声。とても魅惑的な響きで、彼女は生徒達に語りかけてくる。
「ああ……クラーラ、様……」
「素敵……クラーラ様ぁ……」
彼らの瞳は虚ろになっていく。クラーラを讃える言葉を連呼していた。その状態で、私に群がろうとしている――。
「シャーロット!」
「!」
リッカを片手に、エミルさんが駆けこんできた。剣を携えている彼は、戦う気でもあって。
「あら? 相手は生身の生徒よ? それでも構わないってことなのね――さすがは『隊長さん』」
「なっ……いや」
エミルさんは一瞬狼狽するも、冷静さを取り戻そうとしていた。私だって彼の気持ちがわかる。動揺するのもだ。
どうして知っているのか。どこまで知っているのかって。
「あなた達のこと、よーくわかっているのよ? ――ずっと見ていたのだから」
「……巫女クラーラ」
あなたはどこまでお見通しだというの。背筋が震えてしまう……。
「あらあら、どうしたの? 余裕があるのね?」
「!」
私は操られた生徒たちに囲まれていた。
「くっ……どいてって……!」
一度は近づけたエミルさんも、生徒たちによって阻まれてしまう。剣もしまわれてしまっていた。
「ふふ、そうでしょう? もう手を血で染めたくないわよね? 『大事な子の感触』が甦るようねぇ……?」
「……!」
クラーラの下卑た笑いに、エミルさんの顔は一気に青褪めた。
「……ふふ」
クラーラは笑ったままだ――弱点をつけたと。
「……大丈夫だよ。私が凍らせるから。氷の力で、生徒たちを封じて見せる」
「シャーロット……」
私は惑うエミルさんに話りかけた。
「……わんっ!」
そう、リッカもやる気だ。地面に着地すると――力強い遠吠えをあげた。
「「「!?」」」
耳をつんざくような鳴き声に、生徒たちは耳を塞ぐ――しばらくして。
「あれ……?」
「私たちは、一体何を……?」
生徒たちは正気を取り戻し始めていた。寮長さんもだ……。
「……ありがとう、リッカ」
「わん!」
この機会を逃したりはしない。私はクラーラがいる壇上に向けて駆け出していく。この氷の力、皆さんに使わなくて済んだんだ。なら、彼女にぶつけるまで――!
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