春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

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第六章

共犯者である日々①


「大人しくしてもらいますっ!」
「……あらあら、勇ましいこと」

 立ち上がるクラーラは受けて立つようだった。彼女は錫杖を浮かせて、再び手にした。それを構え始める。

「私はフーゴさんを選んだの……!」

 私だってそうだ。あなたがフーゴさんを追い詰めるのなら。彼の居場所を奪うのなら。彼の存在すらも……許さないのなら。

「はあっ……!」
「シャーロットさん、あなた……!」

 私は全魔力を注ぎ込んだ……! 最大出力で氷の力を放つ!

「あああああ!!」

 築き上げられていく氷の塊、クラーラを凍らせ固めていく――断末魔と共に。

「はあはあ……」

 私は息を切らしながら、その場に座り込んだ。

「……そこまでしてくれたんだな。ありがとうな、シャーロットちゃん」

 フーゴさんの声がした。後ろの方からだ。私を労わり、慈しむ声だ。

「はい……フーゴさん……」 

 私は振り返って、力なく笑った。私、安堵もしているんです。

『……この鳥籠もな、アイツをどうにかすれば』

 ……あなたに限って、ではある。もしかしてもあるから。
 あなたが、クラーラ――クラーラさんを、って。

 でも、この氷漬けの状態なら穏便に済ませられるでしょう? フーゴさんのことだもの。
 ほら、今も穏やかな顔つきもしているでしょう? 

「ああ、今終わらせるからな――」
「はい……」

 ああ、報われたんだって思ったの。私も嬉しくなって――。

「……! シャーリー、離れて!」

 リッカ? どうしたの? 油断しないでってこと? うん、わかった――。

「――『フーゴ』から逃げて!」
「……リッカ?」

 リッカは尻尾をまっすぐに立てながら、こちらに走ってきている。

「――シャーロットちゃん」
「え……」

 いつの間に……こんなにも。フーゴさんは私の近くに来ていたの?

「……終わらせにきたんだ。オレはこの日を待ち望んでいた」
「フーゴ、さん……?」

 彼が手にしているのは――ハンマーで。
 私の横を通り過ぎた彼は……彼は。

「……じゃあな――稀代の悪女殿?」

 氷が。

 砕け散る音がした。

 私は振り返った。振り返ってしまった。

 私が作り上げた氷で。

 クラーラさんを固めた氷が、氷が、氷が。

 破片となって。

 辺りに。 

 散らばっていて。


「ああ……あああ……」

 クラーラさんを凍らせたのは。

 私だ。

 この手で。正しいと思って。そうして凍らせたのは。

 ――私。

「……シャーロットちゃん」
「あ……」

 フーゴさんが私に合わせて、屈む。彼に私の両手が包まれていた。

「……そうだよな。オレ一人で、じゃない。一緒がいいよな? だよな? そうだよな?」
「フーゴさん、何言って……」

 目が血走っていて、早口で。私のことを見ているようで、見ていない。

「オマエもそう望んでくれたんだ……なぁ、邪魔者、消えてくれたよな?」
「……」

 私は絶句した。彼があまりにも幸福に満ち溢れているから。
 人、一人消した人が。トドメをさした人が。

「きゃ、きゃああああああ!」
「うわぁぁぁ……み、見るな! 絶対見るなよ!」

 会場は地獄と化していた。阿鼻叫喚、悲鳴がまき上がる。逃げようとする生徒も、警備を要請する生徒も。ああ、騒ぎが止まらない。
 それがあまりにも――現実に起きたことと、そうは思えなかった。思えなくなった。

「やっとだ……これで、オレは……生きられる……」

 ――『生き残れる』、と。あまりにも儚く……しあわせそうに笑った。

「――行こうぜ、シャーロットちゃん?」

 いつもみたい。いつものお出かけに誘う時みたくだった。その時の笑みを見せていて。

「いや、フーゴさん……? あなた、自分が何をしたか……」

 私の声も、体も……震えが止まってくれない。そんな私に笑いかけるのは……あなた。

「ああ、何も心配することない――『名もなき女』が消えただけだ。あいつらもじきに気にしなくなる」

 あいつら……生徒たちのことだよね。あれだけショックを受けているのに、それも風化するのだと。フーゴさんはそう言いたいのだろうか。

「ほら、行くぞ?」

 フーゴさんは強引に私の手を取った。私も促されるように、走る彼につられていく。

 声がする。私を必死に呼び戻す声が。でも、それももう――遠くのこと。

 警備も来ない。金糸雀隊が来ることもない。私たちは誰にも追われることもなく――。



 紫のモヤが覆い隠す。
 何もなかったかのように。何も起こらなかったかのように。

「ああ……」

 彼に繋がれた手。ぬくもりも感じる。けれども。

「あああ……」

 私の手は温かくなんてならない。この手から感触は消えてくれない。


 私が『彼女』を凍てつかせた。
 彼が『彼女』を砕いた。

 私はもう、彼にとっての『女王』ではない。
 私は転落した。
 私は――『共犯者』に堕ちてしまったんだ。

 それなのにね。

「やっとだ……やっとなんだ……」

 感極まった彼を見た私は――繋がれた手を払うこと、それは出来なかった。




 私はフーゴさんに手を引かれ、学園の外に出た。

「オマエを連れていきたい場所がある」
「……?」
「――楽園だよ」

 彼が綺麗に笑んだ。 

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