春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

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第六章

そうしないと、生きられなかった


「……」

 彼の体温が伝わる。鼓動の音も聞こえる。私が抱きしめているのは、実在している彼。

 私は抱きしめながらも、彼と過ごした日々を振り返る――彼自身として過ごせた日々を。

 とんでもないこと言われたり、振り回されて。

 お出かけもして。リッカともたくさん出かけられた。彼のお気に入り、定番のコースとも思っていたけれど……こちらのことを考えてくれたからこそ、だよね。私とリッカ最優先の場所だった。

 たくさん笑って。彼の優しさにも触れて。ドキドキもさせられて。

 ねえ、フーゴさん。

「私があなたを選ぶって。それは変わってませんから」

 それは変わらない。もう変えようとも思ってないこと。

「!」

 私の言葉に、彼が反応した。はい、続けます。

「でもね、このままじゃいけないって」

 私はあなたを選んだ上で――『あなただけ』の未来は選ばない。

「あなたが残れる道だってあるはず。こうではないやり方で」

 私は背中に回していた手を、彼の胸元に添える。

「諦めたくない、足掻きたいんです」

 スーツをぎゅっと握った。紫の花の感触がした。

「だから、今の状況は望まない。あなたが『楽園』に連れていこうとするのなら」

 ごめんなさい、フーゴさん。それだと解決しない気がして。

「……ふう」

 この手に伝うのは魔力。今の私なら、きっと使える。ひと呼吸もした。うん、大丈夫だ。

「あなたを凍らせてでも――私は逃亡します」

 覚悟をもって、私は魔力を手に込め始めるんだ。

「……」
「……」

 フーゴさんは何も言わない。呆れているのかもしれない。無謀だとも。それでもいい。さあ――。
「……ぷはっ」
「!?」

 聞こえてきたのは、彼の噴き出す音だった。

「……オマエ、まじで正直過ぎるのな」

 それから、心底呆れる声も……。

「……いいです。とにかく――」

 フーゴさんがどう思おうと、私は宣言通り凍らせようとした。

「……なあ、シャーロットちゃん」

 体を離したかと思うと、彼は私の腕を掴んできた。私は怯みはするも、別に魔力を放つことはできる。

「オレに残ってほしいって、それは伝わった。ありがとな。その上で――こうじゃねぇやり方、か」

 けれど……。

「オレにとっては死刑宣告も同然なんだよ」

 彼の瞳が揺れていた。彼は口にする。

「オレが残る道はない。クラーラが残ればオレは消える――だから、オレだって足掻いた。諦めたくないって」

 そう……簡単な話じゃないんだ。
 私、きっと思うんだ。フーゴさんはここまでに至るまで、悩んだんだって。すごく思いつめたんだって。私が見て、接してきたあなたが、そうだって教えてくれる。

 だとしても。

「……本当にごめんなさい」

 私は謝った。これから告げることは、本当に申し訳なくて。

「私だって相当しぶといし、諦めも悪いんです。私はそうしてきた」

 そうです、フーゴさん。これはね?

「これは、あなたが前に言っていたこと――相手がどうであれ、関係を築き上げてきたと」

 言われた時、最初はポカンとしてしまったっけ。でもその後、ちゃんと彼の真心は伝わってきたんだ。

「そうしないと、生きられなかったって」

 それもそうなんだ。相手と関係を築き上げてきたのもそう。

「――支えられて、助けられたのも。それももちろんのこと」

 それを踏まえた上でも、私は言った。今の私なら言える。言えるようになったこと。

「私も諦めてこなかった。足掻き続けていたんです。私はこうも思うんです――あなたもご存じのはずだって」

 ねえ、フーゴさん。

「あなたとだってそう、関係を築き上げたって信じている。私がそうして接してきたのは――フーゴさん、あなたです」

 これは揺るぎないことだから。

「私はあなたを見失わない。あなたが迷おうと、消えようとしようと。諦めたりはしません」
「!」

 フーゴさんは目を大きく開いた。わからない。どこまで私の本気が伝わったかも。彼が抱えてきたことに対し、軽い言葉だったとしても。
 私はただ足掻くだけ。いつものように諦めないだけ。

「……はは」

 彼は小さく笑った。くしゃっとした笑い方、少し泣きそう。

「……はあ、オレだって『知ってた』はずなのにな」

 ――オマエはずっとそうだったって。彼は笑って言った。

「あれ……」

 彼の少し潤んだ瞳もそうだけれど――紫の瞳の色合いが薄まっている?

「……あれ?」

 私はさっきからそればかり。おかしな感覚だった。そういえばどうしてなのかって、今になっての疑問が。
 どうして紫の色をしていたの、と。フーゴさんはダイヤノクトの人、茶色の瞳のはずなのにって。

 ああ、もうすぐで目の前が晴れそうな……。

「……悪かった」

 フーゴさんはついには私の腕をも離した。『痛かったよな』って言葉も添えて。私はそれには首を振った。本当に痛くもなかったし、彼は考慮する人だとも思っていた。彼はちょっとばかし安心した顔になっていた。

「……それとな、解決策はある。すげぇ、シンプルなやつ」
「え!」

 フーゴさんが複雑な表情をしていた。私は私で驚く。

「あるんだ――一つは……『コイツ』を壊せばいい」
「え……」

 彼の胸元にある――紫の花飾りだ。

「ああ……」
 これまでの経験が物語る。そう、そうだったんだ。
 フーゴさんも力に囚われていた――その原因となったのが、ソレだ。

「元の鞘に戻るんだ。オレも――クラーラ・メーディウムに戻る」
「フーゴさん……?」

 彼の瞳の色が、紫が薄まっていく。濁りもそうだった――淡い、透き通るような瞳に。
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