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第六章
生き残るために①
私たちは急ぎ、馬に乗る。駆けつけて到着したは、学園の本校舎。
「……」
いつもの見慣れた学園が、異様な空気を纏っていた。背後にあるは漆黒の空。私はその緊迫感の喉を鳴らす。
「……っ」
背後から聞こえたのは呻き声。フーゴさんだ。振り返って彼を見る。とても青白い。
「……心配すんなって」
「……はい」
かなり無理してるであろうに、フーゴさんは笑って見せる。私は胸を痛めながらも、今は目をつむるしかない。
対策がある、術があるフーゴさんが切り札。彼を古代の巫女の元へ連れていくんだ。
古代の巫女がいるなら、体育館と。私たちの狙いはそうだったのに。
「それじゃ体育館に――って、リッカ様?」
先頭に立っていたエミルさんは、足を止めて振り返った。リッカを見てだった。
「くんくん……あ」
リッカはしきりに匂いをかいでいた。それから複雑そうにしている……?
「……あのね、クラーラはそこにいないの」
「そっか……教えてくれてありがとね」
リッカがそういうなら確かだと思った。そうなると、どこにいるか捜さないと。
「……とりあえずね、体育館でいいと思うの――モルゲンの匂いがするんだ」
「!」
私は目を見開いた。……モルゲン先生。そう、ご無事だったんだ、そっか……。そっと自身の胸元に手をあてた。うん、良かった……。
「……炎の匂いも、する。守っている、そう思うの……」
「……うん、行こうね?」
……リッカ。先生の部屋の炎同様に、怖れてもいるようだった。それでもこの子の中では、割り切ろうとしているんだ。私はそのことにも、なあなあにするしかなくて――。
体育館の扉を開き、私は何を思ったのか。
「ああ……」
温かさに包まれているようだった。辺りにあるキャンドル、先生の炎によって灯されたもの。ここは大丈夫だって、そう思わさせてくれるものだ。
ここにいたのは、複数の生徒や職員たち。彼らは正気のようだった……怯えていたから。そうだよね、こんな突然、訳のわからないことになっていて。泣き出す子たちだって当然いて……。
「――ええ、不安になるのも当然です。ですが、救助を待つのも、こちらのすべきことでもあるのです。それにね、わたくし達は一人ではありませんわ」
力強い、女性の声がした。ああ、カイゼリン様だ。彼女は一人ひとりに声をかけて、励ましていた。寄り添いもしながらだった。
……カイゼリン様。今は顔見知りでしかないから、会釈をするくらいしか出来ない。それでも思うんです。あなたは素敵な人だって。
「保護されてたんだ……」
「うん……」
エミルさんは館内を見渡して、ほっとしていた。私も心から安心した。リッカも炎に怯えつつも、そのことには尻尾を振っていた。
「……ああ」
何よりフーゴさんが、そうだったと思う。救いであったと。
無事、そっか。私は文字化している四名を思い浮かべた。フーゴさんによるものだった。でも、魔力が無くなったというのなら戻っているのかもって。合流出来たらいいな……無事だとも信じているから。
「――先生、二名連れてきました!」
入口から誰かが入ってきた。複数だ。一人は……リナさんの兄、ケインさんだ。初等部の子たちを両手に抱えていた。
「まだまだ捜しに行きますんで!」
「なんか、捜し足りないというかー……よくわからないけど」
そして、リナさんのファンのコンビ。クラスメイトでもある彼ら。彼らもだし。
「……俺もわからなくて。でも、肝心な子が見つかってないような……」
……きっと、リナさんのことだ。彼らは記憶を失ってしまっている。それでも、心のどこかで覚えていたと思うから。だから、まだまだ捜しに行こうとしているんだ。
「……有り難いがな、深追いはするなよ」
「!」
先生だ! 奥の方にでもいらしたのか、こちらにやってきていた。ケインさんたちとやりとりをすると、先生はこちらも確認した。
「――お前達、無事だったんだな」
「……はい」
疲れた顔をしつつも、こちらの無事に安堵していたようだ。私だってそうだ。先生がご無事で本当に安心して……。
状況からみるに、先生が中心になっていると思う。炎によって守ってくださっているのもそう。
「……行くのか」
「はい」
先生は重々しく言った。私たちがしようとしていうこと、ご存じだと思うから。私たちは頷いた。リッカも『わんっ!』と吠えた。
「……すまないな。危険があるとわかっているのにな」
先生は乗り気でないんだ。心底辛そうな顔をされていた。それもそう、生徒たちを危険とわかっていて、送り出すしかないから。
「先生、こちらは覚悟の上です。ちなみにですが、『彼女』の行方をご存知だったりしますか」
エミルさんは顔を引き締め、先生に確認をとっていた。先生は『……いや』と首を振っていた。行方はご存じないようだった。それも。
「……不明のままだ。捜索に出ている生徒、誰一人として――クラーラ・メーディウムの姿を見ていない」
「……!」
どこかに隠れているのか、逃げ回っているのか。どのみち、私が受けたのは衝撃だ。こちらの方が圧倒的不利だと思っていたのに?
「……構わねぇ。ふん捕まえてやるよ」
フーゴさんは読めていたの? それだけあなたの秘策は有効であると?
「……いや、フーゴ」
先生は難しい顔をしていた。立っているのがやっとであるフーゴさん、彼を心配しているのもそう。それだけじゃない。
「お前は何か――」
「おっと、先生? 何かも何もねえよ? あの女を懲らしめる、それだけだ」
遮ったのはフーゴさんだ。彼は体育館を見通す。避難している人たちの顔を、じっくりと。中には寮長さんの姿もあった。傷だらけの彼を痛ましそうに見ている彼女を。
次には……こちらを。彼は深く頷いた。
「――オレだって守りてぇんだよ」
決意を込めながらのようだった――。
聖域のようだった体育館を出ると、禍々しい空気に満ちた本校舎へ。
「後ろにいてほしいんだ」
エミルさんの警戒が高まっていた。彼は剣を構え出していた。
慎重に玄関に踏み入れ、そのまま進んでいくも――。
「――下がって!」
「!」
エミルさんに言われるがままに、私たちは後退した。リッカも抱っこして……!
「ああ……」
私たちに群がろうとしているのは――操られた生徒たちだ。武器まで手にしていた。
現実を突きつけられた。そうだ、まともに意識があるのが少数であると。大半は操られていて……古代の巫女の支配下にあるのだと。
「くっ……」
フーゴさんの悔しそうな声がした。そうだ、元が生徒ともなると、まともに手を下せたりもしない……!
「ぐわあああああ!」
「うがあああああ!」
彼らはこちらに襲いかかってきた! 狂暴さも増しており、俊敏さもそうだった。いうなれば――理性を失っていたといえる。かなぐり捨てて、こちらに攻撃しようとしていると。
「……っ!」
よけようとしたフーゴさんが、よろめいた。なんとか体勢を整える。彼は手錠されている、動きが制限されているも同然だ。
「……」
……どうする。どうする、私。彼ら全員を凍らせる? どれだけ洗脳されているかわからない。どれだけ、どれだけ途方のないことなのか。ああ、こうして考えている時間だって……!
「シャーロット――ここは僕に任せて」
「え……」
エミルさんと目が合った……迷いがない目をしている彼と。
「きっと僕の中でも……『あの感触』は消えないまま。だとしても、僕はもう間違えたりしないから」
――この手で殺めたりはしないと。決意を宿した目で彼は言う。
「――まずは、この場を殲滅。次に、各地に迎撃にあたる」
「エミルさん……うん」
口調は金糸雀隊の時そのもの……でも、私は大丈夫だと思った。彼は物騒な物言いであれど、気絶とかで済ませると思ったから。
……たとえ一人、この場に残すことになっても。今は、今は……!
「お願い、エミルさん……!」
託すしかないんだ……! 私は彼の表情を見ることもなく、この場を去るしか出来なくて――。
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