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第六章
生き残るために②
私たちは駆け出していた。
「……くっ」
「!」
「……わりぃ」
「いえ」
ときに、不安定なフーゴさんを支えつつ。襲いくる生徒たちからも逃げつつ。
「――あのね、図書室の方からちょっとだけ」
「!」
走りながらも、匂いで辿っていたのがリッカだ。光明が差したと思われたけれど。
「あ……」
リッカの言葉を詰まらせていた。彼は俯いた。
「匂いがわからなくなったの……」
リッカは首を振っていた。そう、煙に巻かれたようなものかも……。
「リッカ、お手柄だよ。そこを目指そうね?」
「うん!」
そうだよ、リッカ。君だから感じ取れたこと。私たちは図書室を目指せばいいんだ。
……図書室か。意外でもあったけれど、思い入れでもあったのかな。本当のクラーラさんはよくわかっていないから。本来の彼女は――。
「……って」
リッカ、喋っちゃってるね……もっとも、それどころじゃないから。私もここはスルーしておこう。そもそも、その前にも喋っていたよね。
目的地は定まった。向かうは図書室――。
エミルさんが撃破にあたっていることもあってか、生徒たちとの遭遇も減ってはいる。それでも、こうも襲いかかってくると……。
「はあっ!」
私は大量に凍らせた。まだ……まだ魔力の残量はある。けれども先が見えないから、多くも使ってはいられない。これだけの大群だ、元はどれだけの生徒が……。
「うう……」
リッカも匂いで辿っているのに、図書室にはたどり着けないまま。私たちは、同じような廊下を走ってばかりで――。
「……ここ、さっきも来たっぽくね?」
フーゴさんの指摘通りだった。私たち、同じような廊下をぐるぐると――地形まで変えられているというの?
一向にたどり着けないまま、消耗ばかりがしていって……。
「うわっ!」
「フーゴさん!?」
彼は足払いをかけられていた。そのまま転倒してしまう! 急いで起こしに行かないと――!
「!?」
意識をそちらにとられていたからか、私の腕も引っ張られていた。そのまま、地面に倒されてしまう。起き上がらなくちゃって思うにも。
「う……」
体力に限界がきていたというの……? 私はうまく立ち上がれない。いやだ、早く、早く起き上がらなくちゃ……!
「フーゴさん……」
抵抗出来ないフーゴさんは、覆いかぶされていて。
「リッカ……!」
吠えて沈静化させようとする子犬にも、襲いかかろうともしていて――!
そんな……ここまでだというの。
こんなところで――。
「――何してくれてんだ、よっ!」
声が……した。声がね、したんだ。よく聞き慣れた声が。
「あ……」
蹴とばされていく生徒たち。次々とだった。私はその様を目で追っていて。
「はい、リッカも回収っと」
「わふっ!」
軽々とリッカも拾い上げていく彼と……ううん、彼だけじゃない。
「――立てますか」
落ち着いた声もした。声の主が私に手を差し伸べてもいた。
「アルトに……リヒターさん?」
文字じゃない。彼らの声――彼らの姿。
次々と生徒たちを倒していくアルトに、私の手をとって起こしてくれたリヒターさん。彼らは元の姿に戻っているの……?
「おいおい……勝手に戻ってんのかよ」
驚いていたのははフーゴさんだ。二人が自力で戻ったことは、意図してないことのようで。
「……?」
なんか、変な感じがした。紫の花飾りの効果だったはずでしょう? なら、自動的に解かれてもおかしくないのに。
「そんなん、愛の力に決まってんじゃん」
なんてことなくアルトは言う。
「ね、シャーロット?」
「あはは……? うん、ともかく無事でよかった」
愛の力のくだりは……ともかくとして。『だからね、愛の力が――』って繰り返そうとするアルトはともかくとして。ほら、リヒターさんも何とも言えない表情しているし。
「……うん、本当に」
彼らが無事で良かった。私が笑うと、二人も笑った。束の間の和みだった。
「それとさ、フーゴさん? 後で激詰めすっから――今はさ、これをどうにかしないとだけど」
「……ああ、わかってるよ」
根に持つアルトに、フーゴさんも神妙な顔をして頷いていた。
「――さて、迷われているようですね」
そうだった。リヒターさんは顎に手をあてながら、現状を把握したあと――顔を上げた。
「アルト様、お願いがございます――」
「――うん、まあ、こんなん、いくらでもあげるけど……って、そっちはいいの?」
アルトの方に赴くと、こっそりやりとりをしていた。何かを手渡しもしているような。
「――はい。私が適任かと存じますから」
やりとりを終えると、リヒターさんがそう口にしていた。適任? 私が不思議そうに思っていたところ。
「……ジェム様」
彼に名を呼ばれた。しかも見つめられてもいた。
「どうしたの?」
「……呼んでみただけです」
「え」
「それでは、失礼させていただきます」
「えっえっ」
深々とお辞儀したリヒターさんについていけなくて。颯爽と立ち去る彼は、どんどん遠くなっていく。
「……大丈夫、あいつも大概しぶといから。俺達は進もう」
アルトも見送っていたけれど、私達に促してきた。
リヒターさんを一人にさせることになる。それでも私たちは向かうしかないんだ。
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