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第六章
生き残るために③
学園を彷徨う私たち。いつまでたっても古代の巫女にはたどり着けず。そんな風に焦れていた時だった。
「……はあ、やっとかよ――もしもし?」
アルトの手に持っていたのは、例の通信機器だった。相手はきっと、リヒターさんだ。
『お待たせいたしました』
アルトが映像を見せてくれた。リヒターさんはどうやら暗室にいるようだった。というか、モニタールームみたいな? 学園の映像が映し出されているような。
「……」
……うん。どこにいるのか、とか教えてはくれないでしょう。というか、聞いてもいけないと思う。……自治委員会の隠し部屋、的な。
「はい、シャーロット。持っててくれる?」
「う、うん?」
私は手渡されたので、ひとまず持つことにはした。
『はい、ジェム様。そのまま映像を映していてください』
――アルト様だと、戦いの邪魔になるでしょうから、とリヒターさん。
「わかったよ」
そっか、私なら片手でも氷を出せるから。私も承諾し、様変わりした学園を映すことにした。
『ありがとうございます――そのままご案内させていただきます』
「え!」
元の校舎とは変わってしまっているのに、リヒターさんは自信があるようだった。かろうじて、わずかながら。元の形跡はないわけではない。それでも……。
『辛うじて、僅かでも。私には十分でございます』
「……」
もういい、いいんだ。この人はどこまでも私の心を読んでくるのだから。
そうだ。リヒターさんがどれだけ学園に詳しいか、どれだけ歩き回ってきたのか。それをよく知ってもいた。
これは古代の巫女が迂闊でもあったのかも。もっと原型がわからないくらい、変貌させていれば。それならわからなかったのかも――。
「……」
リヒターさんはそれでもわかりそうだった。私は考えるのをやめた。
リヒターさんの案内によって、道が開けていた。本の匂いがした。もうすぐ図書室だ。
「……クラーラの匂いがする」
「!」
ようやくだ。見えてきたのは図書室の扉。ここを開けば――。
『……捕まるわけにはいかないのよ!』
声がして、そして。
「……消えちゃった」
私たちの来訪を感知したから、この場から離れたんだ……。
「……え、なに? 逃げるの? そんなのあり?」
「あ、うん……」
アルトとか説明してなかったから。肩透かしもいいとこだよね……ごめん。
「いや、いいのいいの。追いかけて捕まえれば、でしょ?」
「そうだよ」
アルトが気にしないでと笑っていた。飲み込みが早い彼は、追いかけて捕まえるという趣旨を理解していた。
「で、それだけの切り札があると。だろ、フーゴさん?」
「……おう、任せとけ」
ここでも一瞬、反応が遅れていた。疲れているから……? アルトも心配そうな目を向けていた。
「僕、匂いで辿るの! なんかね、下の方から匂いがする!」
リッカは自信を取り戻したみたい。そう、匂いで追えるんだ。辿り着くにはリッカのお鼻と。
「リヒター、階段の場所は教えてね!」
『かしこまりました、リッカ様』
私たちは元きた道も、リヒターさんのガイド頼りだ。今も変形し続けているのだから。
『では、引き続き――』
激しい物音がした。
「リヒターさん!?」
映像が、画面が上下に激しく揺れ始めている。アルトはハッとしていた。
「……まじか。あいつ、襲撃されてない!?」
「!」
こっちがあまり襲われなくなっていたと思ったら、彼の元に集中しているというの……!? ああ、画像の中では激しい音が続いている。
リヒターさんは丸腰だ。彼が一気に狙われでもしたら――!
『――はい、どーん!』
「あ……」
大変な状況の中で響く、とびきり明るい声。画面の向こうでは倒れていく生徒たちが――ぬいぐるみによって。
『はい、お待たせ! リナが来たわよっ!』
とても愛らしい、声に。画面越しにポーズを決める、その姿に。
「リナ、さん……」
私の声が掠れてしまった。あまりにも安心したから……。
『言ったでしょ、リナとぬいぐるみちゃん達は強いって!』
「はい……!」
なんて心強い声なんだろう。
『リッヒのことは、こっちで守るから。あとね、ぬいぐるみちゃん達徘徊してるけど? 間違って攻撃しないでよ?』
「なんでこっち見てんの。しませんけど?」
……この二人の間の、冷えた空気はどうしたことか。
『こっち落ち着いたら、あんた達の増援にも向かわせるから……!』
リナさんはぬいぐるみ達の力をもって、生徒の保護を行ってもいたんだと思う。そして、リヒターさんの警備にもあたると。
そのうえで、私たちのことまで。
「……リナさん。まずはあなたが無事でいてほしいの」
『……ごめん。でもね、頑張るから。頑張らせてほしいの』
「はい。ありがとうございます」
リナさんはリナさんで、キャパ越えしている気もした。それでも、力を貸してほしいのもそうで。
私たちは限界はとっくに迎えていたと思う。それでも、ここまできたんだ。
皆がそう。
足掻いていくんだ。
「――クラーラの匂いが強くなってきた!」
『その方向ですと――学園の食堂、テラスの方かと』
学園内を駆け抜けてきて、ついには見えてきた。やっとだ。ようやくだ。
「……あとは、どう捕まえられるってとこか」
アルトが呟いていた。さっきもそれで逃げられたから。
私たちは食堂内に近づくにつれ、足を潜めていく。声にだって出さない。静かに追いつめていく。
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