513 / 557
第六章
もう無理だとしたら
しおりを挟む「……力がさ、必要だったんだよ。一番適していたのが、『お前達の命』だった」
「お前たち……それって」
「お前達、だよ? そうだよ、全部。修道女の娘。商家の娘。学者の娘。貴族の娘。奴隷の娘。兵士の娘……だっけか。もう、大変だったよ? すーぐ生まれ変わるし、捜し当てるのも苦労してさー?」
私の『前世たち』……幼くして死んでしまっていた。本当に待って……君は何をしたの……? 何かしたというの……!?
「……本当にどいつもこいつもさ」
彼は否定しているの……冬花以外を。
「力を溜めたら……そうしたら、オレの願いも叶うって……冬ちゃんに逢えるって!」
彼が高らかに掲げるのは――『黒い砂時計』だった。あれが、力を与えていたというの。少なくとも――ループに関与しているのは確かなようだった。
開始時点を固定できるのも。
「……秘道具」
「おー、知ってたー?」
私は似たオーラを感じ取っていた。あれの影響で、彼がおかしくなっているの?
「……今まで通りにさ、大人しく消えてくれればさー? なのに、『アイツが』余計なことを――」
彼は言いやめた。アイツって、誰のことか。それはわからない。
「……今の、なーし。つか、女神像破壊された時点で止めようにもさ、そっち、殺されてんじゃんって。あ、そっか。こうなら殺せるんだってー、びっくりしちゃってさー」
実に愉快そうに笑っていた。私、今の君がわからない。理解出来ないよ。
「あのヤンデレ共の存在も追い風っていうのー? あいつらが動いたことで、こっちも恩恵を授かったっていうかー?」
「……っ!」
私はさすがに彼を睨んだ。彼らなりに、苦悩してきたことを知っているから。そんな風に軽々しく触れることが、とても解せなくて。
「さすがに理解を超えてるよ。彼らまで巻き込まれたんだから……!」
「……お前……お前達のせいだって言ってんだろ。どいつもこいつも『堕ちて』こないから」
「どういうこと……」
煽り顔も一瞬、また憮然とした表情に戻っていた。言っている内容は、相変わらずではあったけれど。
「もうさ、このへんでいいかなー? オレさ、あの連中には感謝してんだよー。ようやく――『シャーロット・ジェム』にも手を下せるようになったから」
「……?」
私には疑問も芽生えていた。そうだ、私の前世たちも手にかけてきたのなら、どうして『今の私』も直接狙ってこなかったのか。
「まださ? 堕ちてきてくれれば……だったけどさー? もういいや!」
彼はとびきりの笑顔を見せてきた。こんな状況の時に。
「もう繰り返す必要なんてない。春はもう訪れない――シャーロット・ジェムも終わりだ」
「君は何を……!」
彼の手にある砂時計。彼が告げる言葉。
「――バイバイ、シャーリーちゃん?」
「!」
笑顔と共に――パリン、と割れる音がした。
さらさらと流れ落ちていく――黒い砂。
割れてしまった砂時計。復元なんて、もう……。
「あ……」
重い事実が圧し掛かる。
もうやり直せないんだと、悟ってしまう。
フーゴさんも生き返らない。女神も春をもたらすこともない。
凍てつく冬の世界が、待っているだけだと。
「そんな……」
みんなが……大切な人たちも。普通に暮らしていた人たちまでも。
私と彼の因縁によって……ああ……!!
私の目の前が絶望に染まっていく。
足掻こうとしたよ。諦めないって。何度も何度も。そうしてきたのに。
「全部、全部が間違えていたって……」
浮かんだのはリッカのこと。春の女神様との再会を夢みていた子。それを断つ道を選んできてしまっていたんだ。当時は、乗り越えることばかりを考えていてからこそ……。
「……今更、絶望? ねー、困ったねー? もう、やり直せないんだよー?」
「ああ……」
彼はあやすように言っては、私をさらなる絶望に叩き落とす。
「――それともさ、堕ちちゃう? 前に言ったじゃん? 一緒に学園生活やり直そうって」
甘い声色の誘惑だった。もうそれしか道が残されていないと。
諦めないって。足掻くって。そうあろうとした。無理してでも奮い立たせて。
でも、もう無理だとしたら?
限界が来てしまったとしたら、もう――。
「……?」
この暗黒の世界に……光が見えた? ううん、光とは違う。温かな、何かであることは確か。
『……先生はな、お前の味方だ。ずっとだ。ちゃんと見守ってもいるからな』
懐かしい声がした。声の感じからして、モルゲン先生かと思った……どうなのかな。
「うん、懐かしい……」
記憶が注ぎ込まれるようだった。穏やかな顔で、包み込んでくれた人のこと。
『ああ、ゆっくりでいいんだ。お前のペースでいい』
私の好きな言葉だった。本当に優しい人だった。
『彼』の存在を感じる。私の中で芽吹いていく。
――炎が私を包む。全然熱くなんてない。暖色の炎は、私をいつだって守ってくれていた。いつだって味方でいてくださった。
「――すまなかった。来るの、遅くなってしまったな……」
私を心配する顔で、抱きとめてくれている。あなたは――モルゲン先生でもあって。
「……いいえ――片桐先生」
片桐先生でもあるって。もう私はそうとしか思えなくなっていた。
「……っ!」
その驚いた顔も。そのあとの、困ったように笑う顔もそう。
私はよく重ねてしまっていた。その度にそんなことない、そんな訳がないって。そう思ってきたのに。
そうだったんだ。そうだったんですね――片桐先生。
「……はぁ? なに踏み込んできてんだよ、クソ片桐がぁ!!」
日向ちゃんは先生を目にして激高していた。そう、君は知っていたんだ……。
そう、そっか……前世ってことになるのかな。私はなんともいえない感情がこみあげてきていた。
「……怒りたいのはこっちの方だ。うまく潜伏していたものだ」
――更木、と。先生は冷酷に言い放っていた。
「……何回繰り返す気だ。お前の願望の為に、何度命を奪えば気が済むんだ」
先生だって怒りを煮えたぎらせていた。いつもの低音が、さらに低くもなっていた。
「……はぁ? 別に関係なくねー? つか、そっちだってしつこいだろうが! 何回、何回だよ? 助けられなかったよなー? 目の前で死なれた時もあったよな?」
「!」
先生もなの……? 先生も何度も生まれ変わって……そして。私を何度も助けようと?
「……」
先生は無言になった。否定、しない。
「ああ、だからだ。お前がいる限り――彼女を失うくらいなら」
先生は炎の力を日向ちゃんに向けようとする。そのまま狙いを研ぎ澄まそうとするも。
「せんせ――」
私が呼びかけたのと時を同じくして。
「……いや、お前を消したところで、か」
先生は砕け散った砂時計を見ていた。彼のことだから、瞬時に悟ったのでしょう。
「無駄だよ、片桐。もう何もかも無駄なんだ。あーあ、今度こそだったのにねー?」
日向ちゃんはとことん煽っていた。どこまでも愉快そうに。
「ああ、そうだ――今度こそなんだよ。お前がいくら煽ろうとな、俺は引き下がったりはしない」
先生は強く相手を見据えていた。私は諦めて絶望していたのに……あなたは違う。
憧れていた先生だ。憧れがいつしか恋になって。そんなあなたが、ここにいる。
「先生……」
彼の視線は日向ちゃんに向けられていた。私はそんな彼の背中を見つめていた。
「……くそ」
日向ちゃんからの忌々しげな視線に気がつく。
……日向ちゃん。ロルフ君。親し気に、よく親身にもなってくれていた。全部、まやかしだったのかな。無理、させていたのかな……私に対してよく思っていないようだから。
それでもね、私の中には優しかった君たちがいるから。そうやって視線を送っていることに気がついたからか。
「……うざい、うざいんだよ! 眼中にもないくせに!」
「!」
私にも向けられる、激しい怒り。シャーロット・ジェムに眼中がないの、むしろそっちだと思うのに。
「……だから、だろ。オレがこうなのも、どこか遠くのように見ているのも。狼狽えもしないのも」
「そんなことない!」
おもてに出きってないだけ。私はこんなにもショックを受けているのに……!
日向ちゃん、って君に呼びかけたいのに。君は私にとって、大切な存在だったのに……。
「……どうでもいいけど。どうせ、全て終わりだ」
そう言い捨てると、日向ちゃんは闇の中へと消えていった。
0
あなたにおすすめの小説
彼氏がヤンデレてることに気付いたのでデッドエンド回避します
八
恋愛
ヤンデレ乙女ゲー主人公に転生した女の子が好かれたいやら殺されたくないやらでわたわたする話。基本ほのぼのしてます。食べてばっかり。
なろうに別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたものなので今と芸風(?)が違うのですが、楽しんでいただけると嬉しいです。
一部加筆修正しています。
2025/9/9完結しました。ありがとうございました。
生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~
こひな
恋愛
市川みのり 31歳。
成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。
彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。
貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。
※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
転生したら、乙女ゲームの悪役令嬢だったので現実逃避を始めます
山見月あいまゆ
恋愛
私が前世を思い出したのは前世のことに興味を持った時だった
「えっ!前世って前の人生のことなの。私の前の人生はなんだろう?早く思い出したい」
そう思った時すべてを思い出した。
ここは乙女ゲームの世界
そして私は悪役令嬢セリーナ・グランチェスタ
私の人生の結末はハーッピーエンドなんて喜ばしいものじゃない
バットエンド処刑されて終わりなのだ
こんなことを思い出すなら前世を思い出したくなかった
さっき言ったこととは真逆のことを思うのだった…
英雄の番が名乗るまで
長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。
大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。
※小説家になろうにも投稿
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
元アラサー転生令嬢と拗らせた貴公子たち
せいめ
恋愛
侯爵令嬢のアンネマリーは流行り病で生死を彷徨った際に、前世の記憶を思い出す。前世では地球の日本という国で、婚活に勤しむアラサー女子の杏奈であった自分を。
病から回復し、今まで家や家族の為に我慢し、貴族令嬢らしく過ごしてきたことがバカらしくなる。
また、自分を蔑ろにする婚約者の存在を疑問に感じる。
「あんな奴と結婚なんて無理だわー。」
無事に婚約を解消し、自分らしく生きていこうとしたところであったが、不慮の事故で亡くなってしまう。
そして、死んだはずのアンネマリーは、また違う人物にまた生まれ変わる。アンネマリーの記憶は殆ど無く、杏奈の記憶が強く残った状態で。
生まれ変わったのは、アンネマリーが亡くなってすぐ、アンネマリーの従姉妹のマリーベルとしてだった。
マリーベルはアンネマリーの記憶がほぼ無いので気付かないが、見た目だけでなく言動や所作がアンネマリーにとても似ていることで、かつての家族や親族、友人が興味を持つようになる。
「従姉妹だし、多少は似ていたっておかしくないじゃない。」
三度目の人生はどうなる⁈
まずはアンネマリー編から。
誤字脱字、お許しください。
素人のご都合主義の小説です。申し訳ありません。
単純に婚約破棄したかっただけなのに、生まれた時から外堀埋められてたって話する?
甘寧
恋愛
婚約破棄したい令嬢が、実は溺愛されていたというテンプレのようなお話です。
……作者がただ単に糸目、関西弁男子を書きたかっただけなんです。
※不定期更新です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる