春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

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第六章

もう無理だとしたら

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「……力がさ、必要だったんだよ。一番適していたのが、『お前達の命』だった」
「お前たち……それって」
「お前達、だよ? そうだよ、全部。修道女の娘。商家の娘。学者の娘。貴族の娘。奴隷の娘。兵士の娘……だっけか。もう、大変だったよ? すーぐ生まれ変わるし、捜し当てるのも苦労してさー?」

 私の『前世たち』……幼くして死んでしまっていた。本当に待って……君は何をしたの……? 何かしたというの……!?

「……本当にどいつもこいつもさ」

 彼は否定しているの……冬花以外を。

「力を溜めたら……そうしたら、オレの願いも叶うって……冬ちゃんに逢えるって!」

 彼が高らかに掲げるのは――『黒い砂時計』だった。あれが、力を与えていたというの。少なくとも――ループに関与しているのは確かなようだった。
 開始時点を固定できるのも。

「……秘道具」
「おー、知ってたー?」

 私は似たオーラを感じ取っていた。あれの影響で、彼がおかしくなっているの?

「……今まで通りにさ、大人しく消えてくれればさー? なのに、『アイツが』余計なことを――」

 彼は言いやめた。アイツって、誰のことか。それはわからない。

「……今の、なーし。つか、女神像破壊された時点で止めようにもさ、そっち、殺されてんじゃんって。あ、そっか。こうなら殺せるんだってー、びっくりしちゃってさー」

 実に愉快そうに笑っていた。私、今の君がわからない。理解出来ないよ。

「あのヤンデレ共の存在も追い風っていうのー? あいつらが動いたことで、こっちも恩恵を授かったっていうかー?」
「……っ!」

 私はさすがに彼を睨んだ。彼らなりに、苦悩してきたことを知っているから。そんな風に軽々しく触れることが、とても解せなくて。

「さすがに理解を超えてるよ。彼らまで巻き込まれたんだから……!」
「……お前……お前達のせいだって言ってんだろ。どいつもこいつも『堕ちて』こないから」
「どういうこと……」

 煽り顔も一瞬、また憮然とした表情に戻っていた。言っている内容は、相変わらずではあったけれど。

「もうさ、このへんでいいかなー? オレさ、あの連中には感謝してんだよー。ようやく――『シャーロット・ジェム』にも手を下せるようになったから」
「……?」

 私には疑問も芽生えていた。そうだ、私の前世たちも手にかけてきたのなら、どうして『今の私』も直接狙ってこなかったのか。

「まださ? 堕ちてきてくれれば……だったけどさー? もういいや!」

 彼はとびきりの笑顔を見せてきた。こんな状況の時に。

「もう繰り返す必要なんてない。春はもう訪れない――シャーロット・ジェムも終わりだ」
「君は何を……!」

 彼の手にある砂時計。彼が告げる言葉。

「――バイバイ、シャーリーちゃん?」
「!」

 笑顔と共に――パリン、と割れる音がした。

 さらさらと流れ落ちていく――黒い砂。

 割れてしまった砂時計。復元なんて、もう……。

「あ……」

 重い事実が圧し掛かる。

 もうやり直せないんだと、悟ってしまう。

 フーゴさんも生き返らない。女神も春をもたらすこともない。

 凍てつく冬の世界が、待っているだけだと。

「そんな……」

 みんなが……大切な人たちも。普通に暮らしていた人たちまでも。

 私と彼の因縁によって……ああ……!!

 私の目の前が絶望に染まっていく。

 足掻こうとしたよ。諦めないって。何度も何度も。そうしてきたのに。

「全部、全部が間違えていたって……」

 浮かんだのはリッカのこと。春の女神様との再会を夢みていた子。それを断つ道を選んできてしまっていたんだ。当時は、乗り越えることばかりを考えていてからこそ……。

「……今更、絶望? ねー、困ったねー? もう、やり直せないんだよー?」
「ああ……」

 彼はあやすように言っては、私をさらなる絶望に叩き落とす。

「――それともさ、堕ちちゃう? 前に言ったじゃん? 一緒に学園生活やり直そうって」

 甘い声色の誘惑だった。もうそれしか道が残されていないと。

 諦めないって。足掻くって。そうあろうとした。無理してでも奮い立たせて。

 でも、もう無理だとしたら? 

 限界が来てしまったとしたら、もう――。



「……?」

 この暗黒の世界に……光が見えた? ううん、光とは違う。温かな、何かであることは確か。

『……先生はな、お前の味方だ。ずっとだ。ちゃんと見守ってもいるからな』

 懐かしい声がした。声の感じからして、モルゲン先生かと思った……どうなのかな。

「うん、懐かしい……」

 記憶が注ぎ込まれるようだった。穏やかな顔で、包み込んでくれた人のこと。

『ああ、ゆっくりでいいんだ。お前のペースでいい』

 私の好きな言葉だった。本当に優しい人だった。

 『彼』の存在を感じる。私の中で芽吹いていく。

 ――炎が私を包む。全然熱くなんてない。暖色の炎は、私をいつだって守ってくれていた。いつだって味方でいてくださった。

「――すまなかった。来るの、遅くなってしまったな……」

 私を心配する顔で、抱きとめてくれている。あなたは――モルゲン先生でもあって。

「……いいえ――片桐先生」

 片桐先生でもあるって。もう私はそうとしか思えなくなっていた。

「……っ!」

 その驚いた顔も。そのあとの、困ったように笑う顔もそう。
 私はよく重ねてしまっていた。その度にそんなことない、そんな訳がないって。そう思ってきたのに。

 そうだったんだ。そうだったんですね――片桐先生。

「……はぁ? なに踏み込んできてんだよ、クソ片桐がぁ!!」

 日向ちゃんは先生を目にして激高していた。そう、君は知っていたんだ……。
 そう、そっか……前世ってことになるのかな。私はなんともいえない感情がこみあげてきていた。

「……怒りたいのはこっちの方だ。うまく潜伏していたものだ」

 ――更木、と。先生は冷酷に言い放っていた。

「……何回繰り返す気だ。お前の願望の為に、何度命を奪えば気が済むんだ」

 先生だって怒りを煮えたぎらせていた。いつもの低音が、さらに低くもなっていた。

「……はぁ? 別に関係なくねー? つか、そっちだってしつこいだろうが! 何回、何回だよ? 助けられなかったよなー? 目の前で死なれた時もあったよな?」
「!」

 先生もなの……? 先生も何度も生まれ変わって……そして。私を何度も助けようと? 

「……」

 先生は無言になった。否定、しない。

「ああ、だからだ。お前がいる限り――彼女を失うくらいなら」

 先生は炎の力を日向ちゃんに向けようとする。そのまま狙いを研ぎ澄まそうとするも。

「せんせ――」

 私が呼びかけたのと時を同じくして。

「……いや、お前を消したところで、か」

 先生は砕け散った砂時計を見ていた。彼のことだから、瞬時に悟ったのでしょう。

「無駄だよ、片桐。もう何もかも無駄なんだ。あーあ、今度こそだったのにねー?」

 日向ちゃんはとことん煽っていた。どこまでも愉快そうに。

「ああ、そうだ――今度こそなんだよ。お前がいくら煽ろうとな、俺は引き下がったりはしない」

 先生は強く相手を見据えていた。私は諦めて絶望していたのに……あなたは違う。
 憧れていた先生だ。憧れがいつしか恋になって。そんなあなたが、ここにいる。

「先生……」 

 彼の視線は日向ちゃんに向けられていた。私はそんな彼の背中を見つめていた。

「……くそ」

 日向ちゃんからの忌々しげな視線に気がつく。

 ……日向ちゃん。ロルフ君。親し気に、よく親身にもなってくれていた。全部、まやかしだったのかな。無理、させていたのかな……私に対してよく思っていないようだから。
 それでもね、私の中には優しかった君たちがいるから。そうやって視線を送っていることに気がついたからか。

「……うざい、うざいんだよ! 眼中にもないくせに!」
「!」

 私にも向けられる、激しい怒り。シャーロット・ジェムに眼中がないの、むしろそっちだと思うのに。

「……だから、だろ。オレがこうなのも、どこか遠くのように見ているのも。狼狽えもしないのも」
「そんなことない!」

 おもてに出きってないだけ。私はこんなにもショックを受けているのに……!
 日向ちゃん、って君に呼びかけたいのに。君は私にとって、大切な存在だったのに……。

「……どうでもいいけど。どうせ、全て終わりだ」

 そう言い捨てると、日向ちゃんは闇の中へと消えていった。

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