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第六章
クラーラとフーゴ
「――ここはっ!」
私は勢いよく目が覚めた。急ぎ、周りを見渡す。ここは――鳥籠の夢の中だ。
「……まだ巻き戻ってない?」
私はホッとしていいの? 不安の中、さらに奥の方を注視した。人の姿があった。
「……っ」
肩くらいまでの黒髪の、麗しい女性。その人はヒールの音を立てたりもしない。ならば――。
「――こんばんは、シャーロット『さん』」
「……」
言葉にならなかった。話し方も、呼び方も……クラーラ・メーディウムであると。ならもう、フーゴさんは……。
「……ふう。わかりやすいくらい、暗い顔をするのね」
「……はい」
相手はうんざりしながら指摘するも、その通りだから頷くしかない。
「……」
喜ぶところではあるのだと思う。今は目覚め前のひと時。やり直しは成功したんだ――女神の巫女喪われていない、いないんだ。ただ、フーゴさんが――。
「……そうね、あなたが選んだのはフーゴ。そうだったわね」
「え……?」
私は気が動転した。思いのほか、優しい声で話しかけられたから。
「……フーゴ。あの子もあそこまでするなんて、ね。あんなふざけた真似、二度とするなって。叱っておいてちょうだいね?」
「……?」
「……あんなことされては、私まで巻き添えをくらうから。ただ、それだけのことよ」
眼差しだって柔らかいもの。あなたの半身ともいえた――フーゴさんに向けたもの?
「……」
私はあなたことは知らないまま。きっとわからないまま。それでも、そうじゃないかなって思うこともある。
情。それがあったんじゃないかって。
「……クラーラさん」
「あら、嬉しいわ。また名前を呼んでくれるのね?」
もう、あなたのことを知ることはない。
「……ふう。私はしばらく休ませてもらうわ。これからのあなた達の奮闘、高みの見物を決め込むの」
ゆっくりと座り込むクラーラさん。瞳も閉じられていく。
「……ええ、そうね。これだけ、アドバイスしてあげる。フーゴも存じてないこと――けれども、あなたには伝えたこと」
穏やかな声で告げられることは。
「――春の女神はいないのよ」
「あ……」
そうだ。確か、獣人族の里で教えられたことだ。その時、フーゴさんの姿だったけれど……?
「それは――封印されているから。分かたれたとも……あとは、あなた達でどうぞ――」
ついには床の上で眠ってしまった。寝息は立てていることに、私は安堵した。
「……あなた、だったの」
春の女神はいない、と。そう告げてきたのは男性の、フーゴさんの出で立ちだったのに。
そうだ、混ざりあうような感覚とも言っていた。自分がわからなくなるとも。それはフーゴさんだけじゃない。クラーラさんだって、そうだったのかもしれないと。
今はもう、わからないけれど。
「――つめてぇ」
起き抜けの第一声だった。声は女性そのもの。それでもドスが効いているともいうか。
「ふわあああ、あー、よく寝たわぁ」
体を起こすと、伸びをした。口を大きく開けてあくびもしている。
「……フーゴさん」
その仕草、喋り方。そう、フーゴさん……生きている。彼が息づいているんだ。
「……シャーロットちゃん」
私のことも見ていたけれど、すぐに視線をそらしていた。ええ、フーゴさん?
「……」
色んな感情が、私の中を駆け巡っている。生きていてくれること。残ってくれたこと。それから腹立たしさ、解せなさが。
「……騙し討ちじゃないですか」
「あー……うん」
生きているから言えるんだ、恨み言を。気まずそうに頭をかいていても、私は冷たい視線を送り続けていた。
「そうするしかなかった」
「……はい。でも、納得はいかないままです」
「……ああ、わかってるよ」
あの時最善だったとしても。ううん、そんな最善、私は認めたくなかった。これは譲れないことなんだ。
「クラーラさんからも、叱っておいてと。同じ思いです」
「……はは。アイツからもってか。まあ……せめて一言は入れるべきだった」
「はい」
「だよなぁ……」
フーゴさんは苦笑しながら、胡坐をかいていた。
「……生きてるから、だよな。こうも言えるのって。なあ、シャーロットちゃん。巻き戻ったのか?」
「はい、そうです。砂時計……秘道具にあたるもの。それをこちらでも手に入れてきてくれたんです」
私はフーゴさんに説明した。正直私も詳しくはないけれど、あの五人が奮闘したと伝えられたらと思った。それから、覚悟も決めての上だったとも。
そして、一通り説明し終えると。
「――『執着』の力か。あいつらが……あいつらの」
フーゴさんは深刻な表情となっていた。
「……フーゴさん?」
どうしたことだろうか。なんだか、私よりフーゴさんの方が理解しているようだった。
「覚悟……か。だよなぁ、あいつらにとっちゃ……」
私に目を向けているフーゴさん、彼は微かに笑っている?
「……だな。オレもそうしないのは『フェア』じゃねぇし」
胡坐から立ち上がった彼は、こちらに近づいてきた。
「フーゴさん、それは……」
彼が手にしていたのは、淡く紫色で発光しているもの――紙片だった。
「錠前の一部だ。あいつらも『媒介』にしたんだろうな」
「!」
それぞれの錠前、それは砕け散って消失したはず。でも、実際はどうだったのか――彼らが拾っていたとしたら。私も寝落ち前に見ていたりした。
「……オレも手放すよ」
「え……」
「砂時計には貢献できなかったからな。いざって時、オマエの助けになるはずだ」
と、渡されたのが紙片だった。込められたのは魔力? ……いいえ、意思の力のようだ。
「っと、ねみぃわ。お互い、寝ようぜ?」
「……はい」
フーゴさんはまたしてもあくびをしていた。私もつられてしそうになる。
目覚めたら、またやり直しが始まる。
――最後の繰り返しの日々が。
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