春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

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第六章

オマエは知らない①




 これはオマエが知らないこと。選ばなかった未来。

「――ほら、ここが『楽園』だ」

 船旅を終えて、辿り着いたのは――魔法国家だった。
 多くの書物も文献も眠る、大型の図書館が有名だ。魔法の研究も進んでいる。住む家も仕事も伝手があったからな、手配済みだ。
 お、目を輝かせているじゃねぇか。そうだろ、オマエなら喜ぶと――。

「……」

 いや、そんなことなかったわ。落ち込んでいる表情に戻っていた。罪を抱えて生きることもそうだし……リッカのことも心配だと。文字化した連中も置いてきてしまったからな。
 ああ、不安なのがよくわかった。

「心配すんな、シャーロットちゃん? こっちでの暮らしが落ち着いたら、改めてな?」

 オレの言葉に、少しは心が軽くなったのか。彼女は小さく笑った。それから――信じているから、とも。

「……おう」

 その笑顔にな、心が満たされるんだ。



 その日はホテルに泊まることにした。といってもな、ひと部屋しか空いてないと。なら、他のところにするかぁ?

「……」

 隣にいる彼女をちらっと見た。戸惑っているな、だよな。それでもオレは提案してみた。同じ部屋に寝ないか、と。逡巡した彼女も、ひとまずは頷いてくれた。
 ……理性、総動員する。誓って手は出さない。それにな……一人にもさせたくなかったのは、オレの我儘だ。

 
 部屋の電気を消し、同じベッドで眠る。オレは寝息を立てた彼女を見ていた。

 一人になるとな、どうしても考えてしまう。ああ、そうだな……。
 オレの人生、なんだったんだろうな。
 どうして生きているんだろうな。

 しとやかな喋り方、所作。温厚な笑い方。慈悲深さ、聡明さ。そういったものが求められてきた。
 ただ、巫女として。清浄なる女神の巫女として。

 クラーラ・メーディウムとしてなら、と。それだけが許された理由だった。生きるのを許されていたのは、そうだったんだ。

 学園からの推薦状が届いたのは謎だった。推薦した人物は、学園長当人であると。
 ……学園長、ね。謎なんだよな、あのご年配は。底知れねぇっていうか。ま、いいけどな。
 推薦したのはどうせ、女神の巫女だからだ。主導権もあの女、クラーラにある。あいつが行きたそうにしていたから、通うことになった。それだけの話だ。

 女神の巫女として憧れて。そんな風に学園に通っていて。普通にだ、普通に。クラーラのシンパ達と昼メシも食って。他人事だ。主役なのも中心なのもクラーラだから。

『……?』

 独特な匂いの女がいた。オレにも香ったんだ。それを言葉にしたのはクラーラだ。あ……傷ついてねぇか? いや、本当にくさいとかそういうわけじゃなかった。でもそれを弁明しようもねえというか……ヤツは妙なこと言ってたな。あれ、フォローだったのか? わかんね。


 学園内でちょくちょく見かけるようにもなって。なんだか、大変な毎日も送っているようで。それとなく目で追うようにもなっていた。振り回されてんなぁ……。

『……おいおい、マジかよ』

 オレが気になっていたように、クラーラも興味を抱いているようだった。舌なめずりもしていた――獲物を狙い定めるかのようだった。

『……』

 いいだろ。あの女が誰を狙おうと。いつだって傍観者でいただろ。ただ、巫女は純潔である必要があったから。ヤツがボーダーラインを超えようとすると、それを止めにかかるくらいだ。そこは手錠の力で制御させてもらっていた。

『くそっ……』

 いいだろ……よくねぇよ。よくなくなったんだよ……!


 たまたまとはいえ、訪れたのは彼女の夢の中。オレの目に入ったのが、巨大な鳥籠だ。
 ああ、そういうことか……とんだ目に遭っていることが目に見えた。渦巻くのは歪んだ愛情、執着がまとわりついていた。

 そうだ。オマエは――オモシレー女なんだ。傍観者であろうとしたオレが、関わる気になった。させてくれた。
 ――フーゴ・メーディウムで在りたいと。そう願わせてくれた。

 だから、錠をかけた。あの女から守りたいって思いもある。だけどな、それだけじゃないんだ。

 あのヤンデレ達を文字化したのも、確かに秘道具に頼った。その道具自体はオレが隠し持っていた。だから、本当はいつだって解除できたんだけどな。そうしなかったんだ。そうだ、それだけじゃなかったから。



 なあ、シャーロットちゃん。オマエはオレのこと、すごく信じてくれるよな。すげぇ、嬉しいんだ。
 一方でな、申し訳なくも思っていた。
 オレはそんな綺麗でも出来た人間でもないんだ。



「――さてと。ちょっと行ってくるな?」

 眠る彼女を置いて、オレはベッドから立ち上がった。寝巻からスーツに着替える。彼女がカッコいいって思ってくれたものだ。

「ん」

 呼応するのは、紫に光る花飾りだ。オレの願望を叶えてくれる、秘道具。オレはわかっていて頼っている。

 最初のオレは嫌悪する側だったのにな。オレの人生を曲げた存在。あのヤンデレ達に力をもたらしたのも、やばいって思ってもいた。使命感に駆られて、壊しに行っていた側なのにな。
 どこかで読んだ本に、こんな言葉があった――ミイラ取りがミイラになったって。

「使えるもんは使うだけだ」

 そういうことだ。さあ、行くとするか――。


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