517 / 557
第六章
オマエは知らない①
これはオマエが知らないこと。選ばなかった未来。
「――ほら、ここが『楽園』だ」
船旅を終えて、辿り着いたのは――魔法国家だった。
多くの書物も文献も眠る、大型の図書館が有名だ。魔法の研究も進んでいる。住む家も仕事も伝手があったからな、手配済みだ。
お、目を輝かせているじゃねぇか。そうだろ、オマエなら喜ぶと――。
「……」
いや、そんなことなかったわ。落ち込んでいる表情に戻っていた。罪を抱えて生きることもそうだし……リッカのことも心配だと。文字化した連中も置いてきてしまったからな。
ああ、不安なのがよくわかった。
「心配すんな、シャーロットちゃん? こっちでの暮らしが落ち着いたら、改めてな?」
オレの言葉に、少しは心が軽くなったのか。彼女は小さく笑った。それから――信じているから、とも。
「……おう」
その笑顔にな、心が満たされるんだ。
その日はホテルに泊まることにした。といってもな、ひと部屋しか空いてないと。なら、他のところにするかぁ?
「……」
隣にいる彼女をちらっと見た。戸惑っているな、だよな。それでもオレは提案してみた。同じ部屋に寝ないか、と。逡巡した彼女も、ひとまずは頷いてくれた。
……理性、総動員する。誓って手は出さない。それにな……一人にもさせたくなかったのは、オレの我儘だ。
部屋の電気を消し、同じベッドで眠る。オレは寝息を立てた彼女を見ていた。
一人になるとな、どうしても考えてしまう。ああ、そうだな……。
オレの人生、なんだったんだろうな。
どうして生きているんだろうな。
しとやかな喋り方、所作。温厚な笑い方。慈悲深さ、聡明さ。そういったものが求められてきた。
ただ、巫女として。清浄なる女神の巫女として。
クラーラ・メーディウムとしてなら、と。それだけが許された理由だった。生きるのを許されていたのは、そうだったんだ。
学園からの推薦状が届いたのは謎だった。推薦した人物は、学園長当人であると。
……学園長、ね。謎なんだよな、あのご年配は。底知れねぇっていうか。ま、いいけどな。
推薦したのはどうせ、女神の巫女だからだ。主導権もあの女、クラーラにある。あいつが行きたそうにしていたから、通うことになった。それだけの話だ。
女神の巫女として憧れて。そんな風に学園に通っていて。普通にだ、普通に。クラーラのシンパ達と昼メシも食って。他人事だ。主役なのも中心なのもクラーラだから。
『……?』
独特な匂いの女がいた。オレにも香ったんだ。それを言葉にしたのはクラーラだ。あ……傷ついてねぇか? いや、本当にくさいとかそういうわけじゃなかった。でもそれを弁明しようもねえというか……ヤツは妙なこと言ってたな。あれ、フォローだったのか? わかんね。
学園内でちょくちょく見かけるようにもなって。なんだか、大変な毎日も送っているようで。それとなく目で追うようにもなっていた。振り回されてんなぁ……。
『……おいおい、マジかよ』
オレが気になっていたように、クラーラも興味を抱いているようだった。舌なめずりもしていた――獲物を狙い定めるかのようだった。
『……』
いいだろ。あの女が誰を狙おうと。いつだって傍観者でいただろ。ただ、巫女は純潔である必要があったから。ヤツがボーダーラインを超えようとすると、それを止めにかかるくらいだ。そこは手錠の力で制御させてもらっていた。
『くそっ……』
いいだろ……よくねぇよ。よくなくなったんだよ……!
たまたまとはいえ、訪れたのは彼女の夢の中。オレの目に入ったのが、巨大な鳥籠だ。
ああ、そういうことか……とんだ目に遭っていることが目に見えた。渦巻くのは歪んだ愛情、執着がまとわりついていた。
そうだ。オマエは――オモシレー女なんだ。傍観者であろうとしたオレが、関わる気になった。させてくれた。
――フーゴ・メーディウムで在りたいと。そう願わせてくれた。
だから、錠をかけた。あの女から守りたいって思いもある。だけどな、それだけじゃないんだ。
あのヤンデレ達を文字化したのも、確かに秘道具に頼った。その道具自体はオレが隠し持っていた。だから、本当はいつだって解除できたんだけどな。そうしなかったんだ。そうだ、それだけじゃなかったから。
なあ、シャーロットちゃん。オマエはオレのこと、すごく信じてくれるよな。すげぇ、嬉しいんだ。
一方でな、申し訳なくも思っていた。
オレはそんな綺麗でも出来た人間でもないんだ。
「――さてと。ちょっと行ってくるな?」
眠る彼女を置いて、オレはベッドから立ち上がった。寝巻からスーツに着替える。彼女がカッコいいって思ってくれたものだ。
「ん」
呼応するのは、紫に光る花飾りだ。オレの願望を叶えてくれる、秘道具。オレはわかっていて頼っている。
最初のオレは嫌悪する側だったのにな。オレの人生を曲げた存在。あのヤンデレ達に力をもたらしたのも、やばいって思ってもいた。使命感に駆られて、壊しに行っていた側なのにな。
どこかで読んだ本に、こんな言葉があった――ミイラ取りがミイラになったって。
「使えるもんは使うだけだ」
そういうことだ。さあ、行くとするか――。
あなたにおすすめの小説
せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません
嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。
人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。
転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。
せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。
少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。
【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?
桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。
だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。
「もう!どうしてなのよ!!」
クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!?
天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?
社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。
天咲リンネ
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。
引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。
見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。
つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。
ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。
しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。
その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…?
果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!?
※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。
男女の友人関係は成立する?……無理です。
しゃーりん
恋愛
ローゼマリーには懇意にしている男女の友人がいる。
ローゼマリーと婚約者ロベルト、親友マチルダと婚約者グレッグ。
ある令嬢から、ロベルトとマチルダが二人で一緒にいたと言われても『友人だから』と気に留めなかった。
それでも気にした方がいいと言われたローゼマリーは、母に男女でも友人関係にはなれるよね?と聞いてみたが、母の答えは否定的だった。同性と同じような関係は無理だ、と。
その上、マチルダが親友に相応しくないと母に言われたローゼマリーは腹が立ったが、兄からその理由を説明された。そして父からも20年以上前にあった母の婚約者と友人の裏切りの話を聞くことになるというお話です。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
自称ヒロインに婚約者を……奪われませんでした
影茸
恋愛
平民から突然公爵家の一員、アイリスの妹となったアリミナは異常な程の魅力を持つ少女だった。
若い令息達、それも婚約者がいるものまで彼女を一目見た瞬間恋に落ちる。
そして、とうとう恐ろしい事態が起こってしまう。
……アリミナがアイリスの婚約者である第2王子に目をつけたのだ。