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第六章
オマエは知らない②
瞬時に連れてきてくれたのは、女神に仕える一族が暮らす里だ。天上にあり、空も近い。今は夜、星が瞬いているな。
「ん?」
里の連中、どいつも暗い表情をしているな。どうやら人が亡くなったようだった。そうか……あの人か。去年、女神の巫女として祭典を勤め上げた人だ。綺麗に舞う人だったよな……。
話が聞こえてきた。女神の巫女は皆、流行り病で倒れたとか。残すは『クラーラ・メーディウム』だけになってしまったと。
能力は随一の巫女だから。本命の巫女だから――『あの時』の決断は間違っていなかったと。
「……はあ」
コイツらは……本当にコイツらときたら。
オレはずかずかと里に踏み入れていく。連中はオレの姿を見て、最初は困惑するも――悟ったようだ。母の面影があるオレは、フーゴであると。
そうだ――こいつらは『知り過ぎている』から。
なあ、邪魔なんだよ。いらねぇんだよ。
オレはもう新しく生きていくんだよ――彼女と一緒にな? もう春の女神も、巫女も知ったこっちゃねぇ。どうせ春は訪れるし、この世界も終わらねぇんだからよ?
な、そうだよな? ほら、花飾りもそうだって。なぁ?
オレのことを知っているオマエらとはもう――もう、オサラバだ。
「……じゃあな、ろくでなし共」
大人しく封印されてた巫女も引きずり出した。罪なき乳児の人生も書き換えた。オマエらは狂ってんだよ。
ろくでなし共は悲鳴を上げた。飛び散る鮮血、一張羅にもかかった。ま、いいけどな。どうせ更に汚れるんだろうし。
倒れていく狂人たち……ああ……声が聞こえなくなった。
「……」
オレは足を止めた。立ちはだかったのは……姉さんだ。気にかけてくれたよな。自分が巫女の資格がなかったから、って気に病んでもいたよな。
「……ごめん」
姉の返り血を浴びた。倒れていく相手を、オレは見ているだけだ。もうな、止まれねぇんだ。
積み重なる死体、終焉を迎えた里。……思い入れなんてなかった、なかったんだ。
「生き残り、もういねぇよな?」
ああ、いないようだ。じゃあ、もう用はない。戻るとすっか――。
「あ? なんだよ?」
なんか、花飾りが語りかけているようだった。あ? 他にはいねぇかって?
いるか? ……いたか? クラーラも里のヤツらもいなくなった。あとは――。
「そうだった」
オレは小さな本を懐から取り出した。こいつも秘道具――人を文字化させるものだ。つか、あいつら巨大化してたよな? 通常はちっせぇ文字のはずだし、自我なんてないはずなのにな?
……自力で破ったりしないとは思う。いや、想像を超えてきそうな奴らだ。この状況に納得がいかないとか――消えたシャーロットちゃんを思って、とか。
「不安の芽は摘んでおくべきか」
なんだろな、ヤツらに共感もできちまうんだよな。同じ穴のムジナともいうかな。でも結局は……目ざわりだった。アイツら、ヤンデレのくせにな? なんであんな真っすぐなんだよって。なに、オレに警戒してないんだよって。
アイツら……どれだけだよ。どれだけ彼女のことに必死なんだよってな。
「……まあ、そうだな」
浮かんだのは、彼女の悲しむ顔だった。まあ、そうだ……様子見でもしておくか。いずれ、な?
「……リッカ、か」
リッカ。あいつも一部始終知っている。それでいて――女神の眷属だともな。
「……」
……本来は消すべき存在だ。たとえ、何も悪くなくともな。
「……」
何を躊躇っているんだ。どれだけ手にかけたと思っているんだ。
なあ、リッカ。オマエは犬だ。ただの犬なんだ。喋ったりもしない。告げ口もしないんだ。オレはそう思うことにした。オマエが喋っていたところ、どれだけ目にしてきても。
――オレは知らないふりをする。だから、オマエも喋れないフリを続けていてくれねぇか。
オレはもう引き返せない。
もし、オマエが喋りでもしたのなら――。
汚れ、落ちるもんだな。なんでもありかよ。ま、いいけどな。
オレはホテルに戻ってきた。寄りたいところがあったから、部屋に直ではなかった。
扉をゆっくり開けると、彼女はまだ寝たままだった。
「……ただいま」
オレの声に笑った……気がした。気持ちよさそうに寝ていた。
「起きたら、驚くよな?」
間に合わせで購入した指輪だ。まずは婚約指輪。いや、違う。婚約指輪もちゃんとしたのを用意してぇ。
じゃあ、なんで買ったのか。彼女の薬指が空いていたからな。おなじみの指輪、それが消えていたから。どうも気になったんだよ。
「……」
なんだろな。薬指から消失した指輪のこと、なんでオレが不安になっているんだよ? いたってシンプルなそれ、白くて氷を彷彿させてくれるもの。あまりにも似合っていたからか?
……そういうことか?
「今度はちゃんとしたの、用意するからな」
いずれは結婚指輪を。いつかは伝えようか。
結婚しよう。家族になろう。子供も……そうだな、いいよな。クソみてぇなしがらみとか、ないからな。童貞である必要もなくなった。
「……早く、起きてくんねぇかな」
ああ、伝えたい。気が早いオレはもう、プロポーズしたいんだ。
なあ、シャーロットちゃん。あったかい家庭、築き上げたいよな。
楽しみだと思いつつも、オマエの寝顔も見続けていたと思った――。
……ああ。オレは部屋のソファでうたたねをしていたようだ。疲れでもしてんのか? 自分ではそうも思ってなかったけど。
「おー……」
オレは感嘆の声を上げていた。いや、我ながら見事な造形だと思ってさ?
数多の文字が取り巻く、球体の鳥籠。ミニチュアサイズだ。紫がかっているのも、いいよな。何より――。
「スヤスヤ寝てんなぁ」
守られるように眠っているのは、彼女だ。小さな彼女がそこにいた。
「なあ、守りたいって気持ちは本物だ」
そこに汚ねぇ思いはあってもな。オマエには笑っていてほしいんだ。だから守ってみせる。守り抜いてみせるからよ。
初めてオモシレー女だと思った。
初めてオレとして――触れたいと思ったヤツだから。
嘘。偽りに塗れたオレでもな。
この想いは本物だ。
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