春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

文字の大きさ
523 / 557
最終章

君と過ごした日々

 
 
 翌朝。朝のルーティーンを済ませた。まずは――式典をやりきること。それまでの期間はうん、女神像に注力していよう。そう考えていたところ――。

「――今日はさ、お出かけしない? もちろん、リッカも一緒にさ?」

 うちに訪れてきたのはアルトだった。お茶を出して、カウンター席に座っていた彼に提供する。『ありがと。ほら、一緒に飲も飲も』と促されたので、私も飲むことにした。隣に座り、リッカも膝の上に座る。そんなまったりした時のことだった。

「女神像守るけどさ。行ける時に行っておきたいっていうか」
「アルト……」

 いつもならデートとか、それこそ浮かれ調子なのに。彼はとても真剣な表情をしていた。私は断る気はなかったから、頷いた。

「わかった……うん。でも、どこに行くの?」
「――俺達が育ったところ」

 孤児院だった。


 
 私たちは今、山奥に来ていた。ここにあるのが、年季の入った建物でもある――ジェム孤児院だった。懐かしいな。仕送りはしても、訪れるのは何年ぶりだろう。

「久しぶりだ……」
「うん、俺も。まずは院長先生にご挨拶、しとこうか」

 お土産はアルトの方でたくさん持ってくれていた。私が持っているのは少数だった。リッカのリード持っているからという理由からだった。

 ここからはリッカを抱っこしておこう。私たちは門の前まで歩いていく。ああ、この匂い。子供たちのはしゃぐ声。昔に戻ったみたいだ――。

「――あれ? シャーロットにアルト?」
「あ!」

 私はリッカを抱えたまま、雪かきをしている女性の元に駈け寄った。アルトも会釈をしている、と思う。彼に背を向けているからわからないけれど。

「ジェシカお姉ちゃん!」
「よっ! 久々だねっ!」

 シスターの服の着た彼女は、豪快に笑っていた。彼女は院長先生の娘さんで、よく面倒を
見てもらっていた。今は孤児院の経営を手伝っていると、手紙で教えてもらっていた。


 その後、私たちは雪かきを手伝っていた。

「わふっ、わふっ」
「きゃははっ」
「あはは、はやい、はやーい!」

 リッカは子供たちと一緒に走り回っていた。大丈夫かなって様子を見ていたけれど、同じく見守っていたのは院長先生だった。私とアルトで会釈すると、微笑んで返してくれた。

「……うん」

 私は大丈夫だと思った。優しくもあり、厳しくもあった彼女がついていてくださるなら。お元気そうで何よりだった。



 リッカと子供たちは大部屋で眠っていた。はしゃぎ回って疲れたのでしょう。うん、楽しそうで良かった。

「――よく来てくれましたね。たくさんお話、きかせてちょうだい」

 院長先生たちに近くの小部屋に招かれ、お茶をしていた。互いの近況に話が弾む。帰ってきたんだなって思えた。

「あ、そうだ。これ、言っておこうと思って」

 お姉ちゃんが横にいる私に顔を向けてきた。

「仕送りありがとうね。でもねぇ、そろそろ自分の為に使ってほしいっていうか。アンタ、お店のこともあるんだからさ?」
「……そんな。お店のことはどうにかなってるから。私、これくらいはしたい」

 お姉ちゃんたちは気を使ってくれてるんだと思う。でも、私はどうしても仕送りをやめたくなかった。

「……まあ、こっちも助かってるけどさ? 無理はしないでよ?」
「うん……そうだね」
「そうそう。アンタ達の生活を第一にね?」

 隣に座っている彼女に、頭をぽんぽんと叩かれた。久々で嬉しい。

 ……仕送りか。私は『あること』を考えていた。それを実行するとなると、当分厳しくなってしまう。しばらくは控えさせてもらおうかな……。

「そうだそうだ、シャーロットはすぐ無理するんだから。くっ、届くけど……俺がやったらジト目で見られる……」

 真向いに座っていたアルトも……そうしようとしていた? 悔しがってもいる……?

「って、アルトもだけどなー? つうか、アンタの方が多いんだけどなー?」
「くっ……やぶへびだったか」

 アルトはお姉ちゃんから指摘された。またしても悔しがっていた……というか。

「アルトこそじゃないの」
「くっ……ジト目も可愛い……」

 仕送りしているんだろうとは思っていた。でもって、この言い分だと結構しているんじゃ。

「どっちもどっちだっつーの。まあ、アンタには『足長おじさん』がいるんだから」
「え」

 急に足長おじさん? こっちの世界でも通用するみたいだけど……いや、それより。お姉ちゃんも『しまった!』と両手で口を塞いでいるけれど。

「……え、ジェシカさん、それなに? この子に怪しいオッサンがついてるってこと? 不審者? そいつ、ぜってー危険人物じゃん!?」

 アルトが食いついてきた。お姉ちゃんは面倒くさそうな顔をしていた。うんざりしてる。

「いや、お姉ちゃんの発言が発端じゃ……」
「えへ?」

 えへ、って……。

「……あー、あれだ、アルトの兄貴! お兄さんが、弟のこと気にかけてるってこと! これもガチだから、本当だからっ」
「なるほど……」

 モルゲン先生のことだったんだ。私は当然のごとく納得した。

「……そう、そっか」

 アルトも少し考えたあと、それ以上追及することはなかった。弟思いですね、モルゲン先生。




 それからも話は続いていた。でも、お勉強の時間になったからと、一旦解散となった。子供たちも起こしに行くと、院長先生たちは退室していった。

 私たちは待っているのもなんだから、と。掃除や夕飯の手伝いなどしていた。

「……」

 廊下や自習室。寄付された本による図書室は、私のお気に入りだった場所。あったかい空気。どこもかしこも懐かしかった。



 みんなで食卓を囲んで、楽しい時間を過ごしていた。
 ここの優しい家庭的な料理と、アルトの手作り惣菜もあった。美味しい、美味しいと充足感があった。この賑やかさも、変わらないんだなって。


「――それでは、また。お体に気をつけてください。みんなにもよろしく」
「今日はありがとうございました。中々立ち寄れなくてすみません」
「すぴー……」

 名残惜しいけれど、すっかり遅い時間になった。私とアルト、爆睡中のリッカも挨拶して夜道を帰ることに。

「また遊びに来なよー!」

 遠くになっても、大きく手を振るジェシカお姉ちゃんは目立っていた。他のシスターたちにたしなめられても、彼女はケロっとしていた。でも、母である院長先生の凄みには大人しくなっていた……。



「リッカ、重くない? そろそろ変わるよ」

 アルトがリッカを抱っこしてくれていた。行きもたくさん荷物を持ってくれたし、リッカだし。私は交代を申し出たけれど。

「全然軽いし。というか、君だっていつもリッカを抱えてるじゃん?」
「そりゃ、私は……私は好きでやってるから」
「それ、俺もなの。なー、リッカ?」

 アルトはリッカの顔を覗き込んだ。リッカは眠ったままだった。

「寝てる寝てる」

 と、アルト。彼は優しい眼差しを向けていた。

「……うん」

 本当に……態度が柔らかくなったよね。犬が嫌いというよりかは、どう触れたらいいのか。壊したら怖い、とか。そういう感情の方が主なだったと思うんだ。
 だからね、嬉しい。リッカとたくさん触れ合っている君をね、こうして見ていられるのが。

「……ねえ、シャーロット。俺のこと見てた?」
「あ……ごめん」

 ついつい見守るような気持ちで、見てしまっていたかも。アルトの表情からして、怒っているようではないけれど。

「……ううん。きっとさ? いつもみたく俺のこと、心配してくれてるんだなって」

 ――そんな顔をしている。優しい顔をしているって。

「アルト……」

 君の表情の方が、よっぽどだと思うんだ。そう思っていたところ。

「……ほんと、好きだなぁ」
「……うん?」

 こちらがしみじみしていたところに、だった。

「好き。大好き」

 蕩けるような眼差し、頬が紅潮しているのも寒さからか、それとも……。

「結婚したいし、ずっと一緒に――」

 幸福に満ちていた彼だったけれど。

「ずっと……」
「……?」

 そこで表情に影が差した。その深刻ぶりに、私は心配になってしまう。

「……ううん、心配しないで? 俺は変わらないんだ――ずっと好きだから」
「アルト……?」

 どうしてかわからなかった。あれだけ幸せそうに口にしていた『好き』の言葉。それが今は、こうも悲しそうな顔をしているのが。

「……うん、そうだ! これからもずっと一緒だ、一緒! つか、足長おじさんって兄貴じゃん? 不審者じゃん!」
「ふがっ!?」

 アルトの突然の大声に、リッカも起きてしまっていた。まあ、きょろきょろした後に再度眠っていたけど……アルトも『ごめん……』と申し訳なさそうにしていたけれど……。

「……不審者はさすがに可哀そうというか」

 足長おじさんって、アルトに対してでしょう? しかもご家族なんだから、そんな警戒するようなことある? ないでしょう? 

「つか、ぜってぇ一人にはさせらんねぇ……兄貴がそばにいるんじゃ……」

 すっかりいつものアルトだった。そう呟いている間に、私はリッカをこっそり抱えた。うん、まだ気づいていなかった。

 しばらく歩いていると、アルトが気づいて。そこから交代したりもして。私たちは今の自分たちの場所へと帰っていった――。

感想 0

あなたにおすすめの小説

せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません

嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。 人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。 転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。 せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。 少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?

桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。 だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。 「もう!どうしてなのよ!!」 クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!? 天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?

社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。

天咲リンネ
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。 引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。 見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。 つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。 ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。 しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。 その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…? 果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!? ※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。

男女の友人関係は成立する?……無理です。

しゃーりん
恋愛
ローゼマリーには懇意にしている男女の友人がいる。 ローゼマリーと婚約者ロベルト、親友マチルダと婚約者グレッグ。 ある令嬢から、ロベルトとマチルダが二人で一緒にいたと言われても『友人だから』と気に留めなかった。 それでも気にした方がいいと言われたローゼマリーは、母に男女でも友人関係にはなれるよね?と聞いてみたが、母の答えは否定的だった。同性と同じような関係は無理だ、と。 その上、マチルダが親友に相応しくないと母に言われたローゼマリーは腹が立ったが、兄からその理由を説明された。そして父からも20年以上前にあった母の婚約者と友人の裏切りの話を聞くことになるというお話です。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

自称ヒロインに婚約者を……奪われませんでした

影茸
恋愛
平民から突然公爵家の一員、アイリスの妹となったアリミナは異常な程の魅力を持つ少女だった。 若い令息達、それも婚約者がいるものまで彼女を一目見た瞬間恋に落ちる。 そして、とうとう恐ろしい事態が起こってしまう。 ……アリミナがアイリスの婚約者である第2王子に目をつけたのだ。