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最終章
そなたと過ごした日々
年は明けて、月日は流れていく。世間では三連休の予定で持ちきりだった。
三連休の初日。私たちにも誘いがあった。自宅に前もって招待状が届いていたからだ。水色のオシャレな手紙、シーリングスタンプも施されていた。ワクワクさせるもの。
――送り主はエドワード君だった。学園に来てほしいという。
「わーい、わーい」
張り切るワンコと共に、久々に学園に向かうこととした。
「――待っていたぞ、シャーロット殿!」
学園の正門にて、エドワード君が待ち構えていた。堂々と仁王立ちだ。うん、元気そうで良かった。
「……あれ?」
エドワード君の私服は、その、あまりにも正統派だった。私からの視線に気づくと『似合ってるか?』と口にしては、ソワソワしていた。
私がこうも戸惑うのは、これまで見てきた彼の私服姿にあった。あまりにも派手派手しい、個性の極みだったからだ。そっか、大人っぽくしようとしていたのかな、お姉さん相手だったから。なるほど、可愛い。
「よくぞ来てくれたな。ささ、共に参ろうぞ――」
エドワード君は私たちを招き入れようとしたけれど。
「ご歓談中、失礼いたします。そちらの方ですが――」
門番さんに呼び止められてしまった。私が学園関係者でないからと。推薦状も持ってきていなくて――。
その後、通りすがったモルゲン先生により事なきを得た。先生はご実家の用事だとか。お忙しいところ、ありがとうございました。
「……すまなかったのだ」
正門を抜けたところで、エドワード君は項垂れていた。
「むむ、どうもスマートにいかぬ……」
落ち込んでいた。元気出してほしい。
「結果オーライだよ、エドワード君。それと、今日はお招きありがとう」
私は彼に感謝の気持ちも伝えた。こうして学園に来られたのも、嬉しいんだ。
「……うむ、そうだな! さあ、今日は学園内を巡ろうぞ!」
エドワード君の顔が明るくなった。良かった。
ゆっくりと学園内を巡った。食堂の自販機で温かい飲み物も購入して。空中庭園に咲く花も眺めて。また食堂に戻って、そこで彼お手製の弁当もいただいた。
穏やかで楽しい時間は流れていく。もう夕方にもなっていた――。
最後は温水プールだ。このむわっとした空間、懐かしいな。ここは夏を思わせてくれる。
「座って話さないか」
エドワード君は泳ぐかと思ったら、そうではなかった。靴下と靴だけ脱いで、プールに足を浸からせていた。
「うん、座るね」
私もエドワード君に倣って、靴下と靴を脱ぐことにした。今日はズボンだったので、あとは少しまくれば問題なさそう。水が気持ちよさそうで――。
「……むむ!? な、生足か!?」
「……」
私が足元を見せると、エドワード君が驚愕していた。すぐに視線もそらしていた。……うん、足というか、ふくらはぎまで見せることにはなったから。生足といえば生足かも……。
「……い、いや、よいのだ! 極力そなたの顔を見る、それで良しなのだ!」
「う、うん……? エドワード君がいいなら……?」
一応水着になったこともなったし、ワンピースの時も足は出していたけれど……彼、気まずかったのかも。ごめん。あと、気持ちはわかる。私も君の水着姿を直視出来なかったし。
「わふっ」
リッカは私たちの間に鎮座した。ちょこんとお座りしている。可愛いね。
「じー」
でもって、水面を見ていた。覗き込むように、だった。
「ふむ、リッカ殿? そなたも水が恋しくなったか? 泳ぐか?」
エドワード君は提案していた。懐かしいな。彼の魔力によって、リッカも泳いでいたんだ。とても楽しそうに、すいすいと。
「ううん、いいの」
リッカは首を振った。
「あのね、懐かしかったの。僕、ララシアの海は好き」
リッカは笑っていた。
「懐かしいね……水の女神様、ララシアのみんな、元気かなぁ?」
思いに馳せているようでもあった。
「そうだね、リッカ……」
遠く南方にある国――ララシア。神秘のベールで秘された国。エドワード君の故郷。
「……」
――悪意によって滅ぼされた国。
「うむ、元気にやっておるぞ。皆――復興に励んでおる」
「そう……」
……もう、『夢』から覚めてしまっているから。朽ちてしまった国が残されているんだ。それでも皆さん、めげずに復興に取り組んでいると。
「……余がこうして、学園にいる間にもな」
「エドワード君……」
彼が学園で学ぶようにと、その方が良いって。学ぶことは決して無駄ではないし、将来的にも役立つと。それは正しくもあり……彼にとっては苦痛なんだ。歯痒そうにしている彼にとっては。
エドワード君。定期的にララシアには帰っているようだけど、本当はもっといたいんだろうな。
「……いや。そうだ、シャーロット殿! そなたのレシピ、大層役に立っておるぞ! まこと感謝いたす!」
エドワード君は何事もなかったかのように振舞っていた。私はそんな、と手を振った。私に出来るのはそれくらいで――。
「……ねえ、エドワード君。私はね、春を迎えたら」
考えていたこと、それを伝える。
「元々、約束でもあったでしょ? ――ララシアの復興に携わるって」
「そなた……」
エドワード君は目を大きく開いていた。私は頷いた。
私に与えられた恩赦でもあり、私自身の願いでもあった。私もね、ララシアが好きなの。
夢だった店はよくて休業か、手放さなくてはならないかもしれない。でも、それでもいい。この死と隣り合わせの日々で、こう思えるようなった。
生きていれば、どうとでもなるって。復興をやり遂げたら、店を取り戻す為に頑張ればいい。
「……よい、よいのだ。そなたは充分、よくしてくれた」
私に向けられるのは、優しげな眼差し――それできて。
「……だがな、春になったら、余は――」
エドワード君は苦しそうに胸元に手を当てていた。あまりにも深刻そうな表情をしていた。心配になってくる。こっちの負担とか考えてくれているのか、それとも……?
「エドワード君。私が好きでそうしたいんだ。一緒に頑張りたいの、ね?」
私は元気づけたかった。必死に笑顔になって、彼と向き合う。
「……そなたは笑って、そう言ってくれるのだな」
憂えているエドワード君も。
「……うむ、そうだな。余はな、そなたの笑顔も好ましく思っている。笑っていてほしいともな」
微かに、笑っていた。
「そなたの笑顔があれば、『大丈夫』だと思うのだ――」
『送り届けるまでがデートだ!』
と、力説するエドワード君。村まで送ってくれた。自宅まで上がってもらおうと思ったけれど。
「……いや、よいのだ。余の心は満ちている。今日を振り返りながら帰ろうぞ」
「そっか……うん、ありがとう。それなら――」
近くに売店があったので、私はちょっと席を外させてもらった。
「――お待たせ、はい」
テイクアウト可のショウガ紅茶、これをエドワード君に手渡した。ショウガとか嫌いじゃないようだし、強引ともいえる形をとった。
「シャーロット殿、こちらは……」
「すごくあったまるから。冷えるだろうし、真っ暗だから。気をつけて帰ってね」
「そうか、かたじけない……だがな」
エドワード君はそれで暖をとりつつも、どこか納得がいかないようだった。
「……またしても、おごられてしまったぞ」
「ふふ」
私は得意そうに笑った。エドワード君は肩をすくめていた。
「……ふっ、まあよい――今度こそ、余がおごるまでよ」
そして、笑ってみせた。『……そう、今度こそだ』と続けながらも。
「ではなっ。そなた達も体調を崩さぬようになっ」
エドワード君は手を振り返りながらも、颯爽と立ち去って。
「……余よ、帰るのだ。今は帰るのだぞ」
えっと、一旦立ち止まっていた? こっちを振り返っている? いや、首をぶんぶん振ったら、彼は背中を見せた。そのまま学園の方へ帰っていった。
「……行っちゃったね。私たちも帰ろっか」
「わんっ」
リッカの返事と同時に、強い風が吹いていた。体毛がなびいている。モフモフっと。
「リッカ……」
リッカはここ最近、あのベージュのケープをつけていた。朝のリクエストも、これ一択だった。私が最初に作ったもので、リッカも一番好きって言ってくれたもので。
「……」
何事も順調過ぎて、月日もあっという間に過ぎていく。
リッカともいられる優しい時間は流れていって。
「……」
この子との日々の、終わりが近づいていく――。
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