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最終章
貴女と過ごした日々①
鉄道に乗って、目的の駅へ。リッカはあまりの心地よさに、大爆睡していたねぇ……。
「――やあ、来てくれてありがとう。突然のお誘いでごめんね?」
「いえいえ。むしろ、お誘いありがとう」
駅で待っていたのは、私服姿のエミルさんだった。彼は出入口付近にいた。
「……あの人、綺麗」
「って、巫女様もいらっしゃるじゃない!」
行き交う人たちに注目されていた。麗しの獣人族、麗しの巫女様。さらに。
「モフモフかわいい……」
我々のリッカも! 私も『ですよねですよね!』と心の中で何度も頷いていた。
リッカは可愛いと言った人に尻尾を振っていた。ファンサを受けた人は、感極まっていた。私もその愛らしさをくらっていた……可愛いね!
リッカは本当に可愛いね!
「……」
「……」
エミルさんと。そして、フーゴさ――クラーラさんから? 物言いたげな視線が送られてくる。私に向けて……?
「……ここにいると目立つから。まずは庭園に行こうか?」
「おう――そうね? ご案内、お願いするわね?」
とりあえず、まずは山道を歩いて。それからゆかりある庭園へ。リッカもご機嫌に歩いている。ハイキング気分だ。
人の手によって整えられた庭園。やっぱり私には安心する美しさだった。花々の香りも心ときめく。
「そういえば……」
以前、お会いした素敵な老婦人。お元気かな? またお会いできたらいいな……。
「それにしても、混んでるわね?」
クラーラさんの視線が観光客にいってた。『楽しそうだからいいけれど』と、一人納得もしていた。
「以前はそうでもなかったけどね? 人伝で広まっていったともいうか――疑似的な『春』を体感出来るからかな」
それはそれとして、エミルさんも律儀の答えていた。平和なやりとりだ。
エミルさんも大分物腰が柔らかくなっていた。見た目が聖女というのもあるけれど……そもそも、フーゴさん側も絡んでいたりもしたよね。無自覚であっても……。
「それもそうね……まあ、じきに本当の春がやってくるもの」
「賑わってるのも有り難いけれど、落ち着いた雰囲気にもなってほしいというね……」
春になったら、一気に雪解けていく。それも――春の女神様の御力によるもの。
もうじき、本物の春がやってくるから。
私たちは森を抜け、獣人族の里に辿り着いた。爽やかな風が吹き抜ける。この地もまた、常緑の地だった。
以前、こちらを迷わせていた霧も発生しなかった。エミルさんもついているし、名犬リッカもすっかり道を覚えていた。
「――リッカ様、巫女様、シャーロット様! ようこそお越しくださいました!」
「我々は歓迎いたします! ようこそ!」
集落に辿り着いたら即、獣人族の人たちがひれ伏していた……ええと?
「……くーん」
リッカは萎縮してしまっているし、私もビビッてしまっているし……。
「……みんな? そういう接し方はしないでって、僕、説明したよね? お願いしたよね……?」
「「「!!!」」」
エミルさんは凄みのある笑顔をきかせていた。それを受けた彼らは、一斉に立ち上がった。リッカに気さくに接するスタンスに変えてくれたようだ。
「……」
私はその笑顔にまた、慄いているし……。
「暗黒微笑ってやつね……こえぇぇ」
別の意味で戦慄が走っているのが、フーゴさんだった……素が出ながら。
「大変失礼いたしました。おもてなしの用意は出来ております。皆様、どうぞこちらへ――」
「腕、ふるったっすよー!」
レイチェルさん、ティムさんだ。そうだ、彼らだっているのも当然で。
「っ!」
こちらに温かい表情を見せるのも……当たり前のことなんだ。
金糸雀隊。かつては敵対していた彼ら。共に生きられらなかったけれど――今はもう違うんだ。
「そっか……」
私の鼻の奥がツンとした。色々な思いは残るまま。でもね、今がとても嬉しいから。
黒い空の下、宴は大変盛り上がった。あまりにも盛り上がり過ぎて、夜通し騒ぐこととなった。
大きな焚火を囲んで、豪勢な料理に舌鼓を打っていた。
笑い声が絶えない。
彼らとこんな関係を築けるだなんて、想像も出来なかったのにね――。
今から帰るのも、ということで。今晩はお世話になることになった。族長の邸という話になっていたけれど。それに待ったをかけたのがエミルさんだった。
「……いや、前に住んでもらった方が馴染みがあるだろうから」
エミルさんは笑顔でありつつも、警戒もしているようだった。一枚岩でないっていう話でもあった。邸よりは身動きがとりやすいから、とのことだった。
せめて巫女であるクラーラさんは、と言われていたけれど。
「私もそちらでお世話になりたいです。エミルさんとね、もっとお話してみたいの」
と、はにかんでいた。すごく愛らしく。その場にいた人たちの心、どれだけ射抜いたんだろう……。
「あ、あはは……光栄です」
エミルさんも笑顔だった……目だけ、笑ってなかった。
「族長は罪作りだなぁ! 巫女様に、シャーロットさんと! モテモテですなぁ!」
「さすがは族長ですわ……ぜひとも良縁を!」
周囲は反対することがなく、それどころか……盛り上がっていた。……私たちの関係を、はやし立てながら。
「あー……エミル? 誤解を解いた方が良いのでは?」
「そうっす! だって、エミル兄がしょっちゅう話題に出すのは――」
エミルさんに近しい二人は、察しているようだった。エミルさんの本命とかかな?
「……お疲れでしょうから、お話はまた今度で。今日はごゆっくり休んでくださいね? ね、巫女様?」
「お、おう……」
青筋を立てながらも、笑顔を保つエミルさん。さすがにクラーラさんは圧されていた…素が出てしまっていたから。
ひと通り盛り上がったところで、解散となった。皆さん、それぞれの家に帰っていく。
「良縁、か……」
エミルさんは一人、呟いていた――。
「ぐーすぴー……」
今は向かっている途中。リッカは私の腕の中、気持ちよさそうに寝ている。今度こそ腹八分目ワンコに成功した……!
雑談をしている内に、かつてお世話になった家に到着した。私とエミルさんは隣同士の家に泊まることになる。
「……エミルさん、さっきのね? あなたのところに泊まれるようにしておく為よ」
「……」
ふふ、と彼女は口に手を当てて笑っていた。それから、私にもウインクしてきた。
「そりゃね、本音はシャーロットちゃんのところに泊まりたいわよ? けれども、やべぇでしょう? 私たち、婚前なのだから」
「な、なるほど……?」
「……」
見た目は同性同士、けれど中身はフーゴさんだから?
「慎みは持つべきだと思うのよね」
「ぐっ……」
さっきから無言で上の空だったエミルさんが、急に反応しだした。なんだろう、この痛いところをつかれた感は……? 発言した本人はまったく悪気がなさそうだった。
「ねえ? あなたのところも一筋縄じゃいかないようで。大変ね? 話、聞くわよ?」
「……お気持ちだけで。というか、寝てくださるのが一番です。ね、巫女様?」
クラーラさんに肩を抱かれ、エミルさんはそのままズルズルと。
「ふふ、おやすみなさい?」
「はい、おやすみなさい」
一瞬振り返った、クラーラさん。手を振ってもきたので、私も会釈をした。手はちょっと触れなくて。熟睡ワンコの眠りを妨げなくて。
「……おやすみ」
「うん、エミルさんも――」
「……」
すぐに瞳を伏せ、それから家に入っていった……エミルさん?
まだ今日は終わっていない。熟睡しているリッカとは違い、私は寝つけなかった。ベッドの中、体勢をあれこれ変えてみても効果がなかった。
「いい鼻ちょうちんだねぇ……」
今夜は一緒に布団を被って寝ていたから、リッカの寝顔を眺めていた。いいね、どんどん大きくなっていくね。こうやって眺めていたら眠れるかな――。
――パチン、と鼻ちょうちんが弾けた。
「ふがっ!?」
と、同時に驚き起きたワンコ。飛び起きては、キョロキョロしていた。
「……リッカ?」
やたらとキョロキョロしていない? 寝起きのそれとはちょっと違うような?
「……あのね、シャーリー? お外で待っているの」
「……え」
リッカが教えてくれたその人は――エミルさんだった。
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