春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

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最終章

許さない



『……いつまで。なあ、いつまで見せつけられるんだよ』

 声がした。怒りを滲ませた声だ――日向ちゃんだ。なら、今は夢の中だ。

「ねえ、日向ちゃん――」

 私は拘束されたままかと思ったのに、力が弱まっているようだった。するりと――さらりと私は黒きものから逃れられた。

「日向ちゃん、どこなの?」

 真っ暗闇の中、私は彷徨い歩く。どうして君は姿を現わさないの? ――前ほど、敵意をむき出しにして来ないの?
 私、理解できなかったけれどね。そのままにもしておけなかった。私なりにも考えてみた。そうすると、ある疑問が芽生えてきたんだ。

「日向ちゃん、質問いいかな。君はどうしてなの?」

 『そうすること』も出来たはずなのに。君はそうしなかった。

「私が死んだ時点でどうして――砂時計を壊さなかったの」
『……っ』

 声にもならない声。それなのに動揺がみてとれた。

『……クソが、クソ片桐がキミを守っていて、手出しが出来なくなっていて……』

 ……先生。守ってくださったことに、心が温かくなるも――今はそうじゃない。

「片桐先生じゃないよね? 日向ちゃん。君が教えてくれたんでしょ? アルトたちの介入によって、私――シャーロット・ジェムに、死をもたらせるようになったって」

 秘道具による影響が大きかったのだと思う。だから、私に手出しを出来るようになっていた。

「だから、そこで止めておけば――日向ちゃん、君の願い通りになっていたのに」
『どっちみち意味ないんだよ……どのみち、アイツは――』
「……日向ちゃん?」
『……うぜぇ。名前、呼ぶなって言ってただろーが! しかも何度も……!』 

 悪態は健在だった。今はそれより。

「――君の声が近くなったよ」

 どこからともなく聞こえていた声。それが、こうして近くなってきていた。ああ、よく聞こえてくる。
 ――君の苦しむ声が。

『……見るな、見るなよ!』

 ――黒に埋め尽くされている、君の姿が。

「日向ちゃん……」
『くそっ……』

 この黒いのの正体がハッキリした。これは彼が砕いた砂時計の砂、黒い砂がどす黒い塊となっていて――彼を引きずり込もうとしていた。

「ああ……」

 彼自身が創り出し、壊したもの。黒い思いで埋め尽くされていたもの。『私たち』の奪われた命があったもの。
 こうして見ている間にも、彼はどんどん飲まれていく。制御出来ていないんだ……。

『いいザマだと思ってるだろ……自業自得だって……!』
「うん……」

 自分が招いた結果じゃないの……どれだけ。

「どれだけ……苦しんだと思っているの。君のせいでどれだけ……」

 自分から出てくる声は、こんなにも抑揚の無いもので。どこか遠くのことにように思えるもので。

 どれだけ、本当にどれだけ苦しめられてきたのか。犠牲になってきたのか。

 どれだけ君に――。

「……っ!」

 ――もう衝動的だった。

 私は駆け出していた。

「君なんて大嫌いだけどっ!」
『!』

 私は思いの丈、叫んだ。それで彼が傷つく顔がしようと。いや、どうして傷つくのかわからないけれど。

「……それでもね! 見捨てたくはない。これは、私の良心の問題だから……!」

 私は両手で彼の腕を引っ張る。腰を落として、歯を食いしばって。そうやって力を込める。

「死ぬことが辛いって、身をもって知らされてきたの! それがわかっているから、だからこうしているだけ……!」
『……』

 日向ちゃんは呆然とした顔で見ていた。踏ん張る私を……って。

「くっ……」

 向こうは尋常ならざる力だった。私は氷の魔力を放ってはいるものの、それが弾かれてもしまっていた。このままでは、と焦る一方だった。

『……バカみたい。もう、いいって』
「……引き下がらないんじゃなかったの」
『もう、いいってば……』

 諦めの気持ちが伝わってくる。このままじゃ、それなのに……!

「足掻いてよ! このまま消えるだなんて、許さない!」
『……!』

 ただひたすら許せなかった。やりたい放題やって? で、報いを受けた。なら、どうでもいいやって?

「許さない」

 そんなの、どうして許せるっていうの……!?

「そんな簡単に手放さないでよ! こっちは理不尽に奪われて、明日も何も無くなったのに……!」

 感情が流れ込んでくるようだった。私の前世たち、幼くして亡くなってしまった彼女たち。……いいえ、私の一部だったんだ。ほとんど記憶に残ってなくても、息づいていたんだ。

「許さないよ……日向ちゃん、悲しませないでよ……!」
『あ……』

 それは――冬花だってそうだったから。

 日向ちゃん、大切な幼馴染だったんだよ。君がいるから、笑えるようになったの。

 君のことは嫌いだ。恨みだってする。でも、大切だって気持ちは消えない。

『ごめん……ごめん、――』

 彼が口にするのは、聞いたことない――それなのに覚えのある名。きっと、私の前世たちの名前。それから。

『……シャーリーちゃん、ごめん。ごめんなさい……』
「……日向ちゃん」

 彼は――一粒の涙を流していた。
 私が驚いていると、足音が近づいてきた。軽やかなそれは。

「シャーリー! 一度離れてっ!」

 リッカだ。リッカがやってきてくれたんだ! 私はこの子を信じ、手を放して距離を取った。

「お待たせっ!」

 リッカは急ブレーキで立ち止まると、その場で踏ん張り始めた。彼に集うのは白い力。強く発光もしていた。

「……特大の力、ぶつけるから!」

 やがて生成されたそれは――白い弾丸となり、日向ちゃんに激突した。

「……」

 辺りに白い煙が立ち込める。煙幕のそれが晴れていくと――黒い砂は消滅していた。

「うう……」
「日向ちゃん……!」

 私は駈け寄った。日向ちゃんはうつぶせながらも、意識はあるようだった。良かった……とかは口には出さないけれど。
 生きているなら……それでいい。

「……このまま放っておいてよ。そしたら、オレはキミの前から、いなくなるから……」
「いなくなる……?」
「合わせる顔なんてないよ……オレは酷いことを願って……キミたちを……」

 言葉はぼそぼそと途切れだった。顔を上げることも無かった。

「……願って、なんだよね。ねえ、日向ちゃん」

 これは私の推理に過ぎない。彼からの明確な答えだって返ってこないと思う。それでも口にしていた。

「君は確かに死を願ったけれど……直接殺めたわけじゃないんだよね? 思うくらいは……あったりもするよね?」

 ある人に酷いことをされた、とか。金輪際関わりたくない人、とか。あと、ニュースで流れてくる非道な行いをした人とか。自分が手を下すまでには至らなくても、負の感情を抱くことはある。一線を越えることだって……。

「……」

 純白に光輝くこの子みたく、そうはなれなかったりもする。
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