春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

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最終章

リッカ


「私は君に恨まれていた。消えてほしいって、そう願われていた。でも、君は願っただけ。頼った物がまずかっただけで……」

 秘道具の怖ろしさを実感するばかりだ。君がどういった経緯で入手したかは不明なまま。

「……もういいよ、シャーリーちゃん。もういいんだ。キミがどう思ってくれようと、オレがしでかしたことは変わらない」
「……っ」

 日向ちゃんは起き上がりはしたものの――顔は絶望に染まりきっていた。

「……どう思っていようと、変わらない。オレが冬ちゃんとやり直したいからって……キミたちを犠牲にしてきたのも」

 ――踏みとどまりもしなかったのも、と。

「それは……」 
「……ループを止めなかったのも、キミの絶望する顔が見たかったから――シャーロット・ジェムで『リーチ』だったんだ」
「リーチ……?」

 そんな虚ろの瞳で何を言うの……?

「キミの命で完遂するところだったんだ。現に『魔女の娘』であるキミは、小さい頃に絶命しかけた時があった……邪魔が入ったけどさ」
「……!」

 私……シャーロット・ジェムが魔女の娘? 彼の口ぶりだと、繰り返しの日々の中ではなく。前世の私たちのように、幼少期の頃にってこと……?
 それに邪魔が入ったって、つまり――当時の私は助けられたってこと……? 
 命を落としかけたほどのこと。私はそっと、自身の額の傷に触れた。アルトが魔物を追い払ってくれたことだと思った……そうでしょう?

「……まじさ、なんだよ、これ」

 ――日向ちゃんは正気に戻った。戻ったからこそ、自分がしてきたことを知らしめられている。

「誰がクソだって話だよ……自分がクソ過ぎて、嫌になる……消えたい、消えてぇよ……」

 日向ちゃんは頭を抱えてしまった……嗚咽交じりの声でもあった。

「いなくなりてぇよ……」
「……」

 私は、どんな言葉をかければいいのか。あの黒い砂に飲まれて消えようとした彼。そんな彼に手を差し伸べたのは私なのに……。

「……もう、いなくならないで」
「……リッカ?」

 さっきから静かだったリッカ。そんな彼がゆっくりと近づいていく。

「……もう、僕の前から消えないで――日向」
「え……」
 私は日向ちゃんの名を呼ぶリッカに驚いてしまう。いや、私も口には出していた。けれども、その呼び方があまりにも日本的響きというか。
 ……思いが込められているともいうか。 

「『冬ちゃん』が消えた日から……君までいなくなってしまったの」
「……リッカちゃん?」

 リッカが何を語ろうというのか。日向ちゃんはゆっくりとリッカに顔を向けていく。

「……おうちを出て行って。お父さん、お母さんも……僕も必死に捜したの。でもね、お巡りさんからの話で二人とも泣いていて……僕にもね――『もういいよ』って」

 ――『もう日向は帰ってこないよ』って。

「僕、信じたくなかった……! たくさん歩いたの、捜したの……! 日向はちょっと迷子になっているだけ。僕が迷子になった時も見つけてくれた。今度は僕の番だって……」

 小さなあんよ、小さな体でどれだけ歩いたのだろう。

「ずっと歩き続けて……でもね、すごく眠くなってきて……日向に会えないままで……」

 ……それでも、会えなかった。会いたかった人に。

「……」

 ああ、なんてことなの………? てっきり彼は寿命を全うしたと思っていたのに、そうじゃなかったと。おじさん、おばさんも訃報を受けたってことで……。

 この子は諦めなかった……でも、道すがらで亡くなってしまったんだ。知らない土地、家族に会えないままで……。

 私の中の記憶が蘇ってきた。そう、そうだ――この子は。

「……六花?」

 日向ちゃんの声が震えていた。

 そうだ。白いモフモフ、冬花も可愛がっていたワンコ。日向ちゃんと長い時間を過ごしていた――六花なんだ。

「……嘘、だろ。六花とか……ありえねーだろ……」

 涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔で、子犬を見つめていた。

「嘘じゃないよ。あのね……思い出すの遅れてごめんね。あれだけ一緒にいたのに、僕、気づかなくてごめん――」

 這いずるように近づいた日向ちゃんが――六花を抱きしめていた。

「……ごめん、六花、ごめん……! オレなんかの、オレのせいで……!」

 繰り返される後悔の言葉、より六花を強く抱きしめていた。

「……ううん、いいの。あのね、日向? それに冬ちゃんも。たくさん歩いたからね、だからなの――春の女神様に出逢ったのは」
「……六花、それは」

 六花は亡くなったんだ……その後にってことだろうか。

「僕、お願いしたの――また出会えますようにって」
「……っ」

 六花の言葉に、日向ちゃんがたじろいでいた。この子の綺麗さに臆してもいるようだった。
 そう、そっか……君は純粋にそう願ったんだ。日向ちゃんと君は家族だった。かけがえのない時間を長くも過ごしていた。羨ましいくらいに。

「日向、会いたかったよ」
「六花……オレは……」

 六花の無垢な思い、それに躊躇もしているのは日向ちゃんだ。

「……ありがとう、六花。でもさ、あの頃のオレじゃないんだ。キミが大好きなシャーリーちゃんも……たくさん苦しませてきた」
「……うん」

 日向ちゃんの体が離れていく。六花も俯いてしまっていた。

「……」

 そうだね、たくさん苦しませられたね。君の所業は酷いに尽きた。なんてことをしてきてたのか。リッカだって悲しんでばかりだったよ。
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