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最終章
ごめんね
「――ねえ、日向ちゃん」
でもね、日向ちゃん。
「――これは私たちしか『知らない』こと」
私とリッカ……あとは、うん、みんなもかな。日向ちゃん――前世の幼馴染が関与していたと話していたから。
「だから、知らない振りをする。私たちは何も知らなかった――君のしてきたことは」
みんなにはなんとか説得をしよう。そこはなんとか。ガン頼みしよう。
「だから――ロルフ・ヴァールザーガーとして生きればいい」
皇冬花と更木日向の生は終わってしまったんだ。世の中、取り戻せないことだってあるんだ……。
「シャーリー、いいの……?」
「いいの。ねえ、リッカ。会えるようになったね?」
「……うんっ!」
リッカがとびきりの笑顔を見せてくれた。うん、そうだ。何より、この子が……リッカが望んでいることだから。
「私はもう、君のことはいいけれど。関わることもないけどね。リッカに会いに来るのはいいよ。この子が喜ぶから」
でもね、日向ちゃん。
「君が消えなくてよかった。いなくならなくて……本当に」
君の腕を掴んで引っ張った時から、その答えは決まっていたの。
「……シャーリー、ちゃん」
弱弱しく差し出されたのは、彼からの手。私に触れようとした手。
「……」
……どうしようって、考えてしまった。ひどく突っぱねればいいのに。
「……はは、シャーリーちゃんってば。ツンが下手だなぁ?」
「っ!?」
日向ちゃんは苦笑していた。
「……そういうところ、とか。六花……リッカちゃんにデレデレなところとか」
彼は笑っていた。可笑しそうに、けれども。
「……キミはキミだったのにね。根っこのところは変わらない、変わらなかったのに」
それは自嘲めいた笑いとなっていった。口元を歪ませながらの。
「どのキミにも相手にされなかったからって……勝手に恨んで……」
日向ちゃんはゆっくりと立ち上がった――その時だった。
「あ……」
暗闇の世界が一変した――リッカと日向ちゃんは向こう側、鳥籠の中にいるのは私。いつもの鳥籠の夢だった。
「――あ、そっか。やっぱり、そうなんだー?」
おどけた口調で、日向ちゃんが触れたのは。
「……オレのもあったんだ――執着していたんだ」
元々あったものの一つ、中型の錠前が――『黒い南京錠』の姿となっていた。これは、更木日向の部屋にあったものと同じものだった。
「……執着」
執着の種類は色々あるって、私は自分で言っていた。それは彼にもいえること。
「ごめんね――」
日向ちゃんは優しく触れたのは一瞬――それからは握りつぶしていた。
粉々になっていく破片、さらさらと流れるように飛んでいく。
「……」
日向ちゃんは無意識だったのか、手を伸ばしていた。ひとかけらでも掴もうとしていたけれど。
「……いや、それはダメだ。ダメなんだ」
その手をひっこめていた。これでいい、と頷いてもいた。
「日向ちゃん……」
彼の瞳に光が戻ったようだ。昔の日向ちゃんだ。私は密かに安堵していた。
「すうすう……」
寝息が聞こえてきた。リッカであり、日向ちゃんの足にくっつけていた。ぴったりとだった。彼は座り直した。膝に乗せると、ゆっくりと撫でていた。なんて優しい目をしているんだろう。
「……うん。リッカに会いに、うちにおいでよ。春になるまでに」
リッカが喜ぶから。それだけ。
「……それ、なんだけど」
日向ちゃんの表情が沈んでしまった。
「……そう、だ。少しは役に立つこと、言っとかないと……」
「……?」
重苦しい雰囲気となってしまった。
「……どうせ、片桐は言わないだろうから――『アイツら』も言わないままだろうから」
「……あいつらって」
私が思い浮かんだのは、どうしても『彼ら』のことだった。このループ前、浮かない顔をしていた彼らのことだ。
「この砂、思いで出来てんじゃん? オレはそれだけじゃないけど、あいつらはそうだよ」
そう、執着によるものって言っていた。それは聞いてはいたけれど――。
「アイツらとさ、散々イチャついてきたじゃん?」
「……」
ただただ気まずい。
「いや、イチャついたとかは一部というか…それも、秘道具の影響とかで、狂わされていたとかで」
「あーあ、かわいそー。アイツら、かわいそー!」
間髪入れずに突っ込まれてしまった。いや、本当に……!
「まー、キミがどう思うと勝手だけど。知らんし。でも、これだけは確かだよ――キミへの愛情だよ」
――愛憎まみれ、ドロドロぐちゃぐちゃであると。日向ちゃんはうんざりそうにしていた。
「現に告られてるし? アイツらと一緒にいるとさ――愛されてるって思わなかった?」
「それは……」
なんて答えたらいいのだろう……恋愛下手の自惚れぐらいにしか、思ってこなかったから……。
「……」
私が勘違いだと思っていたもの。さすがにないと思っていたものが、実際は……。
「――ねえ、シャーリーちゃん。そんな彼らの思いを砂時計にしたんだ。それ、結局は壊すんでしょ?」
「……うん、それはそう」
ようやく報われそうだから。悪用されては困るからって――壊すことになっていた。
「……オレのもそうだし。アイツらもだよ。そんな思いが積もったもん、壊したら――」
「……っ」
衝撃的な発言に驚愕していたというのに。鼓動が早打つというのに。
「あ……」
こんな時にも眠気が訪れてしまう。
そう、日向ちゃんは確かに口にしていたんだ。
『キミと関わってきたこと。思い出……想い。消えてしまうよ。キミへの執着心――愛情を注ぎ込んだんだから』
それは――私のことを忘れてしまうってこと? 一緒に過ごしてきたこと、乗り越えてきたことも?
互いに積もらせてきた思い出が何もかも、無くなってしまうというの……? 大好きな人たち……かけがえのない人たちの……?
「……待って」
日向ちゃんも、そうなの? 彼だって砂時計に思いを込めてもいて――。
「日向、ちゃん……」
瞳が閉じられていく。最後に瞳に映ったのは――彼の儚い顔。
何もかも悟っているかのような、顔だった――。
カーテンの隙間から光が差す。そう、朝だ。目覚めたんだ……。
「ぐーぐー……ぐおっ」
「……」
イビキがすごい。リッカは私の真横で熟睡していた。お顔も笑っている。
「……色々あり過ぎて、うん」
寝起きなのに、動悸が激しい。ただ言えることは――。
「会えて良かったね、リッカ……」
「へっへっへっへっ……」
寝言だろうけれど、リッカは幸せそうに返事していた。
「……そうだ」
私はベッドから降りて、窓辺に立った。開かれたカーテンから見えたのは。
――晴れ渡る空だった。あの黒い空じゃない。
「一安心していいのかな……?」
私は久々の晴れ空を見上げていた。
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