春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

文字の大きさ
536 / 557
最終章

リッカ、大はしゃぎ



「――ふん、ふんっ!」

 リビングにて。リッカがぬいぐるみをくわえ、振り回していた。すごい暴れっぷりだねぇ。

「ははっ、リッカは元気がいいなぁ!」

 それをカウンター席から眺めているのは……モルゲン先生。

「午前中からすまないな。お茶までごちそうになってしまって」
「……いえ」

 今朝に来訪したのは先生。私は一応はお茶を出しはした。うん、一応は……。

「……すごーく、もの言いたげだな?」
「……はい」

 さすがに気づいておられた。はい、先生。話を切り出しますね。

「……モルゲン先生。ご存じだったってことですよね。あの砂時計を壊したらってことまでも」
「……ああ、そうだな」

 先生はすごく言いづらそうにしていた。それでも重くはあるはしろ、口は開いた。

「……まずな、更木日向のことで話をって思っていたが。そこは、解決したようだな?」
「わんっ!」

 ぬいぐるみを落としたリッカが、威勢よく返事していた。尻尾を振る速度もすごい。

「更木が話したんだろうな。すぐにでも説明しておくべきだったな」
「……それは、はい。それでも言いづらい話だとは思ってます。それを聞いた私は……こうして戸惑っているわけですから」

 知らない方が良かったのか。知らないまま、壊していたなら――。

「……それか」

 知ってしまったから。壊せない、壊したくないって気持ちも生じたっておかしくない。彼らが私を忘れてしまう。今までのことが無かったことになるなんて……。

「えへへー、日向ー。いつ遊びに来るのかなー」

 ご機嫌なリッカは尻尾を振りながら、部屋を歩き回っていた。リッカ……うん、六花のことは忘れないと思う。でも。
 ……私のことはもう、忘れてしまっているから。リッカの今の飼い主という認識。私はそう思えてならなかった。
 あの時、彼の思いでもあった黒い砂を――消してしまったから。ぎりぎりまで覚えていたのが、奇跡だったのかもしれない。

「……ごめんなさい、先生」

 自分の立場になってみると、わかる。こんなにも言いづらいことだったとは。

「こっちは全然だ……辛いのはお前だろう」
「先生……」

 先生は私を労わってくださった。優しい。

「……あのね、リッカ。日向ちゃんは、私のことを忘れてしまっているの」
「え……」 

 リッカから笑顔が消えた。ねえ、これ言っても良かったの? ……あんなにも笑っていた、この子に。

「……僕が、砂を消したから?」
「リッカは何も悪くないよ。君は助けてくれたの。私も、日向ちゃんのことも」
「……でも。シャーリーのこと、忘れた」
「……うん」

 落ち込んでいるこの子を――私は抱き上げた。

「――ね、リッカ。今から日向ちゃんのとこ、行こっか? 女神像の巡回にもなるし」
「え……」

 きょとんとしているリッカに、私は話し続ける。

「私は彼のことを忘れないよ。それにね、彼を失わずに済んだ。だからそれで充分なの」
「シャーリー……」
「でも、君は? 長い間、捜し続けたんだから。たくさん甘えていかないと」
「……うん」

 リッカは私に体をすり寄せてきた。そうだよね、本当に会いたかったんだよね……。





 都でひときわ目に惹く大型店舗――ヴァールザーガーの商会だ。

「いらっしゃいませー!」

 病み上がりと噂されていた跡取りが、軒先で大声で呼びこんでいた――ロルフ君だ。来る人来る人が知り合いなのか、軽妙なやり取りを繰り広げていた。

「へっへっへっへっ」

 私に大人しく抱っこされたリッカが、熱い視線を送っていた。

「……ん? ワンコ?」

 それに気づいたロルフ君。私たちのことも視界に入ったようだ。

「あ……」
「はっはっはっはっ……!」

 こちらを見た彼は、嬉しそうに目元が笑んでいた。リッカも息遣いが荒い。全力疾走した後みたいになっていた。

「――仕事中、悪いな。どこかで時間もらえたりしないか? な、リッカ?」
「へっへっへっへっ……!」

 同行してくださったモルゲン先生が、前に出た。リッカとアイコンタクトもしていた。リッカ、興奮しっぱなしだねぇ。可愛いね。

「……。今でも構いませんよ、モルゲン先生」

 営業スマイルのまま、ロルフ君はそう答えた。

「六花、ちょっと待っててな?」
「……!」

 それでも、リッカに向ける笑顔は本物のようだった。そっか、六花のことは覚えたままなんだ。心が温まる。良かったね、リッカ……。

「――で、キミが今のご主人様? いやー、可愛いご主人様とかさー? うらやましいんだけどー?」
「……」

 私に向けられた笑顔も……ある意味先生相手と一緒というか。感じ良くしてくれても、それだけ。
 ……それだけ、なんだ。

「うん、ちょっと抜けるわー! あ、六花、ジタバタすんなってー! ご主人様に迷惑かけるなよー?」
「……!」

 腕の中で暴れるリッカにより、意識が取り戻された。早く遊びたいんだね。

「……良かったねぇ、リッカ。すみません、ありがとうございます……」
「いえいえー? 待っててねー? 六花もいい子にしてろよー?」

 明るく手を振ってくれた。そのまま店の中に入っていく。制服姿だったので、着替えてくるようだった。

「……」

 体温が上がりっぱなしのリッカとは裏腹に、私は体が冷え切っていくようだった。

 ――こんなに、こんなになんだ。綺麗に記憶が抜け落ちているようだった。私の存在なんてなかったかのように。

 これが、砂時計を壊すということ――彼らの思いを打ち砕くということ。
感想 0

あなたにおすすめの小説

せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません

嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。 人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。 転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。 せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。 少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?

桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。 だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。 「もう!どうしてなのよ!!」 クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!? 天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?

社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。

天咲リンネ
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。 引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。 見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。 つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。 ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。 しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。 その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…? 果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!? ※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。

男女の友人関係は成立する?……無理です。

しゃーりん
恋愛
ローゼマリーには懇意にしている男女の友人がいる。 ローゼマリーと婚約者ロベルト、親友マチルダと婚約者グレッグ。 ある令嬢から、ロベルトとマチルダが二人で一緒にいたと言われても『友人だから』と気に留めなかった。 それでも気にした方がいいと言われたローゼマリーは、母に男女でも友人関係にはなれるよね?と聞いてみたが、母の答えは否定的だった。同性と同じような関係は無理だ、と。 その上、マチルダが親友に相応しくないと母に言われたローゼマリーは腹が立ったが、兄からその理由を説明された。そして父からも20年以上前にあった母の婚約者と友人の裏切りの話を聞くことになるというお話です。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

自称ヒロインに婚約者を……奪われませんでした

影茸
恋愛
平民から突然公爵家の一員、アイリスの妹となったアリミナは異常な程の魅力を持つ少女だった。 若い令息達、それも婚約者がいるものまで彼女を一目見た瞬間恋に落ちる。 そして、とうとう恐ろしい事態が起こってしまう。 ……アリミナがアイリスの婚約者である第2王子に目をつけたのだ。