春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

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最終章

リッカ、大はしゃぎ

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「――ふん、ふんっ!」

 リビングにて。リッカがぬいぐるみをくわえ、振り回していた。すごい暴れっぷりだねぇ。

「ははっ、リッカは元気がいいなぁ!」

 それをカウンター席から眺めているのは……モルゲン先生。

「午前中からすまないな。お茶までごちそうになってしまって」
「……いえ」

 今朝に来訪したのは先生。私は一応はお茶を出しはした。うん、一応は……。

「……すごーく、もの言いたげだな?」
「……はい」

 さすがに気づいておられた。はい、先生。話を切り出しますね。

「……モルゲン先生。ご存じだったってことですよね。あの砂時計を壊したらってことまでも」
「……ああ、そうだな」

 先生はすごく言いづらそうにしていた。それでも重くはあるはしろ、口は開いた。

「……まずな、更木日向のことで話をって思っていたが。そこは、解決したようだな?」
「わんっ!」

 ぬいぐるみを落としたリッカが、威勢よく返事していた。尻尾を振る速度もすごい。

「更木が話したんだろうな。すぐにでも説明しておくべきだったな」
「……それは、はい。それでも言いづらい話だとは思ってます。それを聞いた私は……こうして戸惑っているわけですから」

 知らない方が良かったのか。知らないまま、壊していたなら――。

「……それか」

 知ってしまったから。壊せない、壊したくないって気持ちも生じたっておかしくない。彼らが私を忘れてしまう。今までのことが無かったことになるなんて……。

「えへへー、日向ー。いつ遊びに来るのかなー」

 ご機嫌なリッカは尻尾を振りながら、部屋を歩き回っていた。リッカ……うん、六花のことは忘れないと思う。でも。
 ……私のことはもう、忘れてしまっているから。リッカの今の飼い主という認識。私はそう思えてならなかった。
 あの時、彼の思いでもあった黒い砂を――消してしまったから。ぎりぎりまで覚えていたのが、奇跡だったのかもしれない。

「……ごめんなさい、先生」

 自分の立場になってみると、わかる。こんなにも言いづらいことだったとは。

「こっちは全然だ……辛いのはお前だろう」
「先生……」

 先生は私を労わってくださった。優しい。

「……あのね、リッカ。日向ちゃんは、私のことを忘れてしまっているの」
「え……」 

 リッカから笑顔が消えた。ねえ、これ言っても良かったの? ……あんなにも笑っていた、この子に。

「……僕が、砂を消したから?」
「リッカは何も悪くないよ。君は助けてくれたの。私も、日向ちゃんのことも」
「……でも。シャーリーのこと、忘れた」
「……うん」

 落ち込んでいるこの子を――私は抱き上げた。

「――ね、リッカ。今から日向ちゃんのとこ、行こっか? 女神像の巡回にもなるし」
「え……」

 きょとんとしているリッカに、私は話し続ける。

「私は彼のことを忘れないよ。それにね、彼を失わずに済んだ。だからそれで充分なの」
「シャーリー……」
「でも、君は? 長い間、捜し続けたんだから。たくさん甘えていかないと」
「……うん」

 リッカは私に体をすり寄せてきた。そうだよね、本当に会いたかったんだよね……。





 都でひときわ目に惹く大型店舗――ヴァールザーガーの商会だ。

「いらっしゃいませー!」

 病み上がりと噂されていた跡取りが、軒先で大声で呼びこんでいた――ロルフ君だ。来る人来る人が知り合いなのか、軽妙なやり取りを繰り広げていた。

「へっへっへっへっ」

 私に大人しく抱っこされたリッカが、熱い視線を送っていた。

「……ん? ワンコ?」

 それに気づいたロルフ君。私たちのことも視界に入ったようだ。

「あ……」
「はっはっはっはっ……!」

 こちらを見た彼は、嬉しそうに目元が笑んでいた。リッカも息遣いが荒い。全力疾走した後みたいになっていた。

「――仕事中、悪いな。どこかで時間もらえたりしないか? な、リッカ?」
「へっへっへっへっ……!」

 同行してくださったモルゲン先生が、前に出た。リッカとアイコンタクトもしていた。リッカ、興奮しっぱなしだねぇ。可愛いね。

「……。今でも構いませんよ、モルゲン先生」

 営業スマイルのまま、ロルフ君はそう答えた。

「六花、ちょっと待っててな?」
「……!」

 それでも、リッカに向ける笑顔は本物のようだった。そっか、六花のことは覚えたままなんだ。心が温まる。良かったね、リッカ……。

「――で、キミが今のご主人様? いやー、可愛いご主人様とかさー? うらやましいんだけどー?」
「……」

 私に向けられた笑顔も……ある意味先生相手と一緒というか。感じ良くしてくれても、それだけ。
 ……それだけ、なんだ。

「うん、ちょっと抜けるわー! あ、六花、ジタバタすんなってー! ご主人様に迷惑かけるなよー?」
「……!」

 腕の中で暴れるリッカにより、意識が取り戻された。早く遊びたいんだね。

「……良かったねぇ、リッカ。すみません、ありがとうございます……」
「いえいえー? 待っててねー? 六花もいい子にしてろよー?」

 明るく手を振ってくれた。そのまま店の中に入っていく。制服姿だったので、着替えてくるようだった。

「……」

 体温が上がりっぱなしのリッカとは裏腹に、私は体が冷え切っていくようだった。

 ――こんなに、こんなになんだ。綺麗に記憶が抜け落ちているようだった。私の存在なんてなかったかのように。

 これが、砂時計を壊すということ――彼らの思いを打ち砕くということ。
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