春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

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最終章

鳥籠から解放する


 今日は都を歩いていた。リッカが足を止めたのは――女神像だ。
 リッカは恭しく伏せをすると、祈りを捧げているようだった。淡い光を彼を纏う。その神々しさに。

「……」

 私は目を見張るばかりだった。この子は愛らしいワンコでもあり――女神様の眷属なのだと。
 ああ、思い知らされてしまう。
 もう遥か遠くの存在になってしまうんだって――。


 時間は待ってはくれない。冬は終わる。春が訪れようとしている――。

 
 ついに、27日を迎えた。先生がおそらく訪れるであろう夜。
 私は今宵も眠りに落ちていく。



 静寂なる空間。硬質な床、慣れた感触のもの。私は目を覚ました。仰ぎ見ると、いつもの鉄製の鳥籠が。

「……守ってくださった。閉じ込められる形になったとしても」

 それでも、安心していたのは。心穏やかでいられたのは。

「モルゲン先生、片桐先生……」

 彼の存在を感じていられていたからだ。

「……今日で終わる」

 私に降りかかる脅威は去っていった。鳥籠で守る必要も無くなったんだ。

「先生……」

 私は膝を抱えて、先生が来るのを待った。
 彼は来る。解放するって。そう仰っていたから。

「――待たせたな」
「!」

 炎の揺らめきが見えた……先生だ! 

「遅れてしまってすまない。ちゃんと、約束を果たしにきた」

 彼は闇の中から現れた。手にしているのはランタンだ。その温かな炎は、彼によるものでしょう。

「ああ、これな? ここ、真っ暗だろ? 先生、これを頼りにやってきたんだ」

 ランタンを掲げながら、彼は笑っていた。笑っていたけれど――。

「……こんな暗闇の中、心細かっただろ。しかも意味もわからなく、だろ」

 表情が愁いを帯びていた。自分のしたことによって、って。

「それは……はい」

 私はそこは頷いた。

「……だよな」

 先生は形容しがたい表情をしていた。バカ正直な私に対してだと思う。

「……俺が。『前世の俺達』が。いつも『お前達』を見つけるのが、巡り合うのが遅かったんだ」
「……先生?」

 先生は語りだす。何の話かと思ったけれど……わかった。幼くして命を去った『私たち』と。

「お前達を捜し当てる頃にはもう――手遅れだった」

 何度も見つけ出して、助けようとした『あなたたち』のことだ。そうやって何度も転生しては、私たちを助けてくれようとしていた。

「いつも……毎回毎回だ」

 何度も……。

「俺は……何度もお前を失ってきていた」

 悲しみに打ちひしがれていた、と先生は言う。深い悲しみがあったとも……。

「――ある魔女の娘が生まれた。事情があって施設に預けられたのが……お前だ」
「……はい」

 私、シャーロット・ジェムだ。院長先生が教えてくださった。名前入りの刺繍がされていたものにくるまれていたって。私を思って必死に頭を下げていたって。事情があるにせよ、深い愛情は確かにあるって……。

「今世もお前を失うところだった。俺はもう耐えられなかった。何が何でも守ってみせる。もう失いたくなかった」

 ――だから『力を欲した』と。

 形成されたのは、私を覆う鳥籠。私の生は守られたんだ――日向ちゃんの力も及ばなくなった。

「ああ……ようやくだ。ようやくお前を守れたんだな……」
「……」

 先生は満足そうに笑っていた。
 先生は私のこと守り続けていた。
 あなたは決して口には出さないけれど、これは重荷でもあったと思うんです。
 解放されるのは――あなたなんだって、私は思っていた。

「ありがとう、ございました……」

 私は深々と頭を下げていた。本当に守ってくださって、ありがとうございました。私はようやく生きられる。

「いや、俺がそうしたかったんだ。そうだな――」

 先生は静かな足取りで近づいてきた。

「この鳥籠は役目を終えたんだ」 

 少し離れた位置で、先生は手をかざしてきた。

「――お前を鳥籠から解放する」
「!」

 私の目に映ったのは、燃え上がる炎。鉄製の鳥籠だったそれは、連なる炎に姿を変えていき。

 そして。

 ――そして、消失していった。

「あ……ああ……」

 もう何も覆うものはない。囲むものもない――鳥籠はない、なくなったんだ。

「せ、先生……」

 私はゆっくりと歩き出した。これまでの範囲を踏み越えて、彼の元へ。

 もう鳥籠はなくなった。近づくことだって出来るんだ……それなのに。

「私は……」

 いつだって守られているようだった。その鳥籠が無くなった不安感、それがあった。

「なあに、心配するな? ――これをお前に渡しておく」

 先生から手渡されたのはランタンだ。いえ、これは……。

「俺のじゃない。お前専用だ。元々あげるつもりだったんだ」
「そんな……」
「安心しろ、無料だ。俺の炎で構成された、低コストだ」
「っ!」

 笑うところじゃないだろうに、私は噴き出してしまった。すぐに何もなかったかのように、取り澄ました。

「このランタンもそう。俺もついている。鳥籠ほどじゃないけどな、お前を守ってくれる」
「先生……」

 ランタンを持つ手からじんわりと。温かさが伝わってくる。

「ありがとうございます……」

 私も素直な気持ちになれた。うん、安心する……。

「ああ」

 先生も嬉しそうに笑っていた。

 私たちはまだまだ眠れそうになかった。ランタンを手に、二人で歩いていた。

 語るのは思い出話。落ち着いた優しい時間が流れる。



「あれ……?」

 暗闇だった世界が変わっていく。星空が現れるも、黎明の空へと変わっていく。夜が明けていく。
 それはきっと現実の世界でも――。

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