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最終章
最後の一日②
お昼ご飯はいつもより豪勢に。私たちはもりもり食べた。今、食べ終えた私たち。ソファの上でのまったりを再開していた。
「ご飯、美味しかった」
ぱんぱんだったリッカのお腹も大分落ち着いてきた。いつもみたく眠ることなかった……ううん、ここずっと。リッカはお昼寝とかしなかった。そっか……一緒にいる時間を惜しんでくれているのかな。
「夕ご飯、もっと豪華にするからね。買い出しも兼ねて、お散歩にも行こうね?」
「うんっ」
リッカ嬉しそうだね。君がそうだと私も嬉しくなる。
そんな風に過ごしていた時だった――呼び鈴が鳴ったのは。
「……モルゲンだ」
「え、モルゲン先生?」
リッカがすぐに玄関に向かっていた。扉をパシパシと叩いていた。えっと、扉を開けること要求されているのかな? なら急ごう。私は玄関まで来ると開錠した。
リッカの言った通り、モルゲン先生だった。
「――あのな? 確認してくれても良かったんだぞ?」
すごく心配そうな顔で、たしなめてもきたというか。普通に開けてしまったから。
「いえ、先生でしたら」
「……そうか?」
はい、先生なら。彼はどこか納得いってないようだったけれど。
――フワッと、花の香りがした。それは先生の方からだった。
「ああ、これか? 誕生日祝いだ」
先生は造作もなく見せてきたのは――大きな花束だった。黄色と白の花がメインのもので。
「誕生日おめでとう、シャーロット」
「……」
なんて様になっているんだろう。先生、普段着のようなのに……なんてカッコいい――。
「……ううん」
私は自制した。そう、様になっている。似合っている。スマート。そう、それそれ。
「あ、ありがとうございます……」
私は有り難くいただくことにした。誕生日だから……嬉しかったから。しかも私の好きな色、好きな花がたくさんあった。偶然だとしても、現金に喜んでいた。
「ああ、良かった。無難にしといて正解だったな」
「は、はい……」
無難、無難なんだ……すごく大きい花束なのに。高級そうなリボンでくるめられていて、ワンポイントでついているのは、宝石……?
「わふっわふっ」
「あ……」
足元で興奮しているワンコがいた。そっか。
「リッカ、嗅ぎたいんだね。はい、どうぞ」
「わーい。くんくんくんくん――」
私は屈んで、リッカに花束を差し出した。リッカは香りを堪能していた。お花、本当に好きだねぇ。
「リッカ、お前のもあるぞ。犬用のケーキにしといた。人間用のは怖くてな?」
先生もしゃがんで見せてきたものは――これまた凝った箱に入ったケーキ。言っていいかな……良い値段しそうだよね。花束同様に。
「!」
リッカの目が光った。今度はケーキに興味が移ったようだ。箱の外側から嗅ぎまくっていた。
「先生、ありがとうございます。リッカの分まで」
「ありがとう、モルゲン! でも、どうして?」
嗅ぐのをやめると、リッカは質問をしていた。私は普通にお土産かな、と。リッカが可愛いからあげたくなったと考えていたけれど。
「あー……そうだな? 更木家の六花だったんだろ? もう過ぎてるだろうけど、誕生日プレゼントだ」
「……うん、ありがとう。モルゲン」
リッカは幸せそうに笑っていた。うん……。
「……それにしてもだな」
共に笑顔だった先生も、浮かない表情となっていた。
「お前とリッカ……他には来ていないと。なんだかなぁ……なんだかんだで来ると思ってたんだけどな。だから、こっちも渡すもの渡したら帰ろうと思っていたがな……」
「……」
はい、私とリッカだけ。きっと彼らはもう、来ないんだ……。
「……いえ、いいんです。先生、みんな元気ですか? 学園、通ってますよね?」
「それは、まあな……」
先生は気まずそうに答えていた。
「それなら……はい、それならいいんです。良かった」
みんな無事なんだ。平和を取り戻した。普通の学生として過ごすことになる。日常を過ごしていく頃にはもう――私の痕跡なんて無くなっている。
胸が痛い。でも、温かくもあった。私には記憶が残っていて良かった。それで充分なんだ。
強い意思、強い思いで彼らを望むのはここまでだ。彼らにはこれからがあるから。
執着に囚われることはなくなった、彼らには――。
「……シャーリー」
リッカからの視線を感じた。私が彼を見ようとする頃には、この子の視線はモルゲン先生に移っていた。
「モルゲン、お願いがあるの。一緒にお誕生日を過ごしてほしいんだ」
「……いや、いいのか? すぐにお暇するつもりだったんだけどな……」
先生は私をちらりと見た。リッカと二人で過ごしたいんじゃないかって。そう目で言っている気がした。
「僕ね、モルゲンのことは怖いまま。治療してくれてありがとうって思っても。優しくしてくれているのもわかっていても。そうなの……」
「え……」
先生は何気にショックを受けていた。先生が気の毒というか……いや、リッカ?
リッカは澄んだ眼で続けていた。
「それでも、シャーリーを大切にしてくれるから。シャーリーもね、寂しい思いをしないで済むなら――ずっと一緒にいてほしい」
「リッカ、そ、それはね――」
私のことを思っての発言だとしても、先生はようやく解放されたばかりなのに。それはさすがにって思っていたけれど。
「ああ、ずっと大切にする。ずっと一緒にいる。約束する」
リッカに立膝をついて、先生は誓いを立てるかのようだった。それは……。
「うん、良かった。良かったの……」
リッカは安心しきった顔をしていた。ええ、先生。それは――。
「……」
先生はリッカを安心させたかった、そうでしょう? ずっとはないにしろ、先生はどこまでも気遣ってくださるから。気にもかけてくださると。私はそうに違いないと思っていた。
「えへへ、一緒にお出かけー」
リッカがこんなにも幸せそうなら、うん、私は口を噤むことにした――。
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