春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

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最終章

それからの彼らは――①



 今日で祭典最終日だ。私は一人で訪れていた。

 かつてない盛り上がりを見せていると、耳にしていた。なんでも、今年の女神の巫女が見事なものだと。一昨日、昨日と見事に務めてみせたのだと。

 時間は正午を回った。私はお祭りということで、とっておきの服を来ていた。久々のワンピースだった。

「うう……」

 人が、人がすごかった。私はなんとか最後列にいた。それでも人が多い。熱量も凄い。

「!」

 花びらが宙を舞っていた。特設ステージからいずるは――春の女神の巫女。純白の装束に特殊な化粧、溜息がこぼれるほどの美しさだった。

 女神の伝承になぞらえて、舞いをみせていく巫女。呼応するかのように舞う花びら。
 本当に見事だ。私だって目を奪われていた――あまりにも綺麗過ぎて。

「……うん」

 クラーラさんとして舞っているであろうにも。時折ちらつかせるのは、犬歯だった。
 踊り終えたときの不敵な笑みもそう。
 フーゴさんだ。そっか、彼は存在し続けているんだ――。 



 人が多い分、あちこちで騒ぎがあったりもした。とりなしているのは、軍の警備と。

「――楽しいお気持ちはわかりますが、台無しにしてはいけませんよ? 酒は飲んでも飲まれるな、でしょう?」

 優雅な笑顔で酔っぱらいを取り押さえていたのは、獣人族の青年。

「……」

 エミルさんだ。彼だけじゃない。獣人族の……金糸雀隊の人たちも揃いぶみだ。
 ただ、彼らは装束姿ではなかった。国の正規の軍人の姿――獣耳も隠してなかった。

「そっか……」

 もう暗部での任務はないのかな。顔を出して堂々といられるのかな。
 物珍しそうに見ている人、怖ろしく思っている人、下に見ている人。そういった人たちの視線にさらされていても、彼らは凛とした佇まいだった。誇りに思っているとも。
 報われる思いだ……特に中心となって動いている彼を見ていると。

「……うん、行こう」

 エミルさんたちは酔っぱらいを連行するようだった。こちらに向かってきたので、会釈はしておいた。私も移動しよう――。

「……ねえ、待って――」
「え」

 背後から声がした。私も反応しようとするけれど。

「わっ」

 野次馬たちが一気に押し寄せてきた。私も巻き込まれるかのように、流されていってしまう。

「……?」

 結局、あの声は幻聴か何かだったのかな?



 この熱気にすごく喉が渇いていた。喉を潤したい。奮発したいからって水筒も持参してこなかった。

 あ、ジューススタンドだ。しかも立ち飲み用のカウンターまである。タイミングが良かったのか、人もそんなにいない。うん、ここにしよう。
 私はレモネードにした。トッピングも奮発した。美味しそうだし、可愛い。人がまばらなカウンターに移動し、一息ついた。美味しいなぁ。

「――お客様、お待たせいたしました」
「ありがとうございます――」

 突然だった、店員さんに声をかけられたのは。しかもドリンクまで置かれた。なんか南国色たっぷりの、ソーダっぽいもの。トッピングが半端ない。
 ……待って、私頼んでない。こわい。とにかく事情を説明しないと。

「すみません、頼んでないんです」
「失礼いたしました。あちらの方からです」

 あちらの方……あちら? え、こわい。なんで。なんで知らない人から、飲み物提供されているの? 私が顔面は平静でありながらも、恐怖していると。

「――ふっ、美女よ。まごうことなき美女よ。これは余のおごりぞ」
「……」

 すっごく聞き覚えのある声、耳が慣れたフレーズだなぁ……エドワード君だなぁ。いつの間にか隣にいた彼が、得意そうになっていた。

「そなたは余の運命……こうして巡り合えたのもな? 何度も何度も巡り合うのが我々ぞ!」

 すごい決め顔だった。あ、胸のポケットからカンペらしきものがあった。事前に覚えてきたのかな?

「いやいや、おごりって」

 今の私たちの関係って、知り合いでもない。それ以前の関係だ。初対面同然だ。

 ……どうしよう、いつものノリで遠慮していいのかな。というか、飲み物だし。食品だし。主だった理由もないのに、返品するのもだった。せめて料金はお支払いしておこう。美味しそうだし、飲んでみたい。

「……ふっ」

 エドワード君は笑いだした。とてもニヒルな笑いを。

「ふふふ、わははははは! 余は受け取らぬ、受け取らぬぞ! 美女よ、大人しくおごられるのだ! 美味なるジュースを堪能するのだ!」
「なっ!」

 なんと、エドワード君は後ろ向きに逃走しだした! ああ、人の波をうまく利用して、私が追いつけないようにまでしている!

「これぞ、勝ち逃げだー!」

 勝どきの声まで……内容は彼的にいいのかな。すごく響き渡っているけれど、いいのかな……いいか。

「ふふ」

 彼の姿が見えなくなっていたので、私はこっそり笑った。相変わらず元気そうで良かった。


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