春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

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最終章

それからの彼らは――②


 ここも人だかりが出来ていた。見覚えがある人がいた……ケインさんだ。彼はプラカードのようなものを掲げていた。ええと、長蛇の列が出来ていて? それで最後尾を教えているのと、何時間待ちかも掲示していた……何時間待ち。

「……そう、そっか」

 ――リナさんのイベントを開催しているんだ。
 話を聞いていると対面イベントのようだった。会えるってことで……。

「……会いたい」

 私は声に出してしまっていた。友人でお姉さんのような彼女。初対面だった時も、なんだかんだで優しかった人。

「えー、すごい列―! でも、リナ様の為なら並ぶー」
「サインもらえるんでしょー、並ぶ並ぶー」

 噂話が教えてくれた、物販品を買う必要あれど、リナさんのサインをもらえるチャンスだと。サインをもらえるなら……並ぶまで!



 列に並んで待ち続けて、ついに来た順番。特設会場の中にある、個室に通された。もちろん警護も剥がし役もいる。

「――はーい、お待たせ―? リナだよー? 会いたかったでしょー?」

 入ってきた私にとびきりのスマイルを見せたのは、リナさん。

「あ……」

 なんてことない笑顔だ。私は彼女にとってはファンの一人。神対応素晴らしい、尊敬する、推せる。私は彼女のファンでもあるから。

「会いたかったです……」

 私もそう答えていた。心のままに。

「本当に会いたかったんです……」

 私の思いは溢れるばかりだった。

「あんた……なんて表情しているの」
「え……」
「推しを見る顔……してないじゃないの」

 彼女から笑顔が消えていた。私をじっと見ている。顔って、私はどんな顔をしていたの? それはわからなくて。

「……あんた」
「!」

 リナさんが私の手を握ってきた。それを喜ぶには、彼女の様子が気がかり過ぎた。

「……あんたを見てると、変な気持ちになるのよ」
「え」

 変な気持ち……その、妙な感じ、とかでしょ? 剥がし役の人は割って入る体勢をとっていた。うん、私も会えてよかったから。ここいらで去ろうとしていたけれど。

「ね、あんたの名前は? 同世代っぽいけど、どこの学校? それともギルド所属? どこギルド? つか、肌が綺麗。声も好き――」
「えっえっ……」

 すごい勢いで話しかけられている……! 手も握られたままだけれど、その、力が強いというか。そんなに握力があったことにも驚いてしまう。

「あー……リナ様が暴走してすみませーん。サインは事前に用意してあるんでー」
「ほーら、リナちゃん。次のファンも待ってるよー?」

 いつもの二人が抑え込んでいた。久々だ。追っかけ続けているようで良かった。運営側にもなっているとは。

「あ、ありがとうございます。いただいていきます……リナさんもありがとうございました」

 私は一礼して、退室することにした。


 物販品も手に入った――それは小型犬用の服。花をあしらった春っぽいもの……あの子も気に入ってくれるもの
 かつて、あなたから試供品をいただいたことがあったんです。そして完成していたんですね。

「……」 

 渡す手段はないけれど、持っていたかったの。




 混雑はピークを増していた。うん、そろそろ帰ろうかな――。

「あ……」

 私の目を惹いたのは、とある人たちだった。ボディガードに囲まれているのは、麗しの財閥令嬢……ああ、カイゼリン様だ。彼女もこうして元気でいられるの、感慨深くもあった。

 その傍らで守り抜いているのは。主が歩きやすいようにと、鬼の速度で捌いているのは――リヒターさんだ。
 ……うん。彼の目に映るのは、カイゼリン様だ。私に気づくことも、もうない。

「――ぎゃはは、でよー? ……っとぉ」
「……っと、すみません」 

 混雑の中、誰かとぶつかってしまった。相手はその、ガラがよくなさそうな男性。私をジロジロと見たあと、彼が言ってきたのは。

「……おー、お姉さん可愛いじゃーん? 一人? もったいなくね?」
「……」

 私は一瞬固まってしまうも、すぐに状況を理解した。私は今、絡まれているんだ。連れらしき人もニヤニヤしていた。
 正直困った。隙をみて、ここから離れることにした。そう、人混みに紛れて――。

「「……ひっ!」」

 急にこの人たちが悲鳴を上げていた。恐慌しているけれど……突然過ぎない? こちらの後方を見てはガクブルしているともいうか……。

「……ひっ」

 ……え、こわい。私まで恐怖してしまった。ホラゲーは好きだったけど、リアルなのは困る。

「な、なんでもないでーす! そんじゃ!」
「男連れだったんじゃねぇかよぉぉ!」

 と文句を言いながら、彼らは退散していった……いや、本当に怖いって。男の人ってどういうこと?

「……」

 確かに背後から存在というか、圧というか。そういったものは認識できた。ここでじっとしたままだと迷惑だし、またぶつかりかねない。覚悟を決めて振り返ることにした。

「……」
「……」

 ――リヒターさんが見ていた。視線を送ってきている、それだけではあった。

「あ」

 そっか、絡まれていたからこそ助けようとしてくれたのかな。あなたにとって、見ず知らずの人なのに……。

「ありがとう」

 この喧噪さ、声だって届かない。それでも感謝したかった。あと、オカルト的なものでなくて良かった。私は頭を下げると、そのまま去っていった。

「……うん」 

 彼はカイゼリン様の隣に居続けているんだ。それで良かったと思えるんだ。それも、あの日々を乗り越えてきたからこそ。そうだから――。

 
 みんな、元気にやっているようだった。平和な日常を取り戻しているんだ。
 寂しい気持ち、それはもちろんある。きっと在り続ける。
 彼らは生きている。彼らの道を歩いていくんだ。 

 うん、帰ろう。私は退場口へと向かうことにした。



 もう日が暮れそうだ。村までは歩いて帰る。ああ、草の地面だ。本当に春が来たんだね。

「疲れた……」

 やっぱり人混みって疲れる。色々な騒動もあるし、色んな人だっているし。

「……いいのかな」

 神様的な立場から見て、人間ってこれでいいのかな? 本来は女神様を敬う、粛々としたものじゃないといけないんじゃ……。

「いいのかも」

 慈愛に満ち溢れた女神様、荘厳なる眷属の皆様。健気で愛らしいモフモフ……リッカ。きっとね、温かな目で見守られているんじゃないかって。
 なんとなくだけど、そう思った。




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