546 / 557
最終章
それからの彼らは――②
ここも人だかりが出来ていた。見覚えがある人がいた……ケインさんだ。彼はプラカードのようなものを掲げていた。ええと、長蛇の列が出来ていて? それで最後尾を教えているのと、何時間待ちかも掲示していた……何時間待ち。
「……そう、そっか」
――リナさんのイベントを開催しているんだ。
話を聞いていると対面イベントのようだった。会えるってことで……。
「……会いたい」
私は声に出してしまっていた。友人でお姉さんのような彼女。初対面だった時も、なんだかんだで優しかった人。
「えー、すごい列―! でも、リナ様の為なら並ぶー」
「サインもらえるんでしょー、並ぶ並ぶー」
噂話が教えてくれた、物販品を買う必要あれど、リナさんのサインをもらえるチャンスだと。サインをもらえるなら……並ぶまで!
列に並んで待ち続けて、ついに来た順番。特設会場の中にある、個室に通された。もちろん警護も剥がし役もいる。
「――はーい、お待たせ―? リナだよー? 会いたかったでしょー?」
入ってきた私にとびきりのスマイルを見せたのは、リナさん。
「あ……」
なんてことない笑顔だ。私は彼女にとってはファンの一人。神対応素晴らしい、尊敬する、推せる。私は彼女のファンでもあるから。
「会いたかったです……」
私もそう答えていた。心のままに。
「本当に会いたかったんです……」
私の思いは溢れるばかりだった。
「あんた……なんて表情しているの」
「え……」
「推しを見る顔……してないじゃないの」
彼女から笑顔が消えていた。私をじっと見ている。顔って、私はどんな顔をしていたの? それはわからなくて。
「……あんた」
「!」
リナさんが私の手を握ってきた。それを喜ぶには、彼女の様子が気がかり過ぎた。
「……あんたを見てると、変な気持ちになるのよ」
「え」
変な気持ち……その、妙な感じ、とかでしょ? 剥がし役の人は割って入る体勢をとっていた。うん、私も会えてよかったから。ここいらで去ろうとしていたけれど。
「ね、あんたの名前は? 同世代っぽいけど、どこの学校? それともギルド所属? どこギルド? つか、肌が綺麗。声も好き――」
「えっえっ……」
すごい勢いで話しかけられている……! 手も握られたままだけれど、その、力が強いというか。そんなに握力があったことにも驚いてしまう。
「あー……リナ様が暴走してすみませーん。サインは事前に用意してあるんでー」
「ほーら、リナちゃん。次のファンも待ってるよー?」
いつもの二人が抑え込んでいた。久々だ。追っかけ続けているようで良かった。運営側にもなっているとは。
「あ、ありがとうございます。いただいていきます……リナさんもありがとうございました」
私は一礼して、退室することにした。
物販品も手に入った――それは小型犬用の服。花をあしらった春っぽいもの……あの子も気に入ってくれるもの
かつて、あなたから試供品をいただいたことがあったんです。そして完成していたんですね。
「……」
渡す手段はないけれど、持っていたかったの。
混雑はピークを増していた。うん、そろそろ帰ろうかな――。
「あ……」
私の目を惹いたのは、とある人たちだった。ボディガードに囲まれているのは、麗しの財閥令嬢……ああ、カイゼリン様だ。彼女もこうして元気でいられるの、感慨深くもあった。
その傍らで守り抜いているのは。主が歩きやすいようにと、鬼の速度で捌いているのは――リヒターさんだ。
……うん。彼の目に映るのは、カイゼリン様だ。私に気づくことも、もうない。
「――ぎゃはは、でよー? ……っとぉ」
「……っと、すみません」
混雑の中、誰かとぶつかってしまった。相手はその、ガラがよくなさそうな男性。私をジロジロと見たあと、彼が言ってきたのは。
「……おー、お姉さん可愛いじゃーん? 一人? もったいなくね?」
「……」
私は一瞬固まってしまうも、すぐに状況を理解した。私は今、絡まれているんだ。連れらしき人もニヤニヤしていた。
正直困った。隙をみて、ここから離れることにした。そう、人混みに紛れて――。
「「……ひっ!」」
急にこの人たちが悲鳴を上げていた。恐慌しているけれど……突然過ぎない? こちらの後方を見てはガクブルしているともいうか……。
「……ひっ」
……え、こわい。私まで恐怖してしまった。ホラゲーは好きだったけど、リアルなのは困る。
「な、なんでもないでーす! そんじゃ!」
「男連れだったんじゃねぇかよぉぉ!」
と文句を言いながら、彼らは退散していった……いや、本当に怖いって。男の人ってどういうこと?
「……」
確かに背後から存在というか、圧というか。そういったものは認識できた。ここでじっとしたままだと迷惑だし、またぶつかりかねない。覚悟を決めて振り返ることにした。
「……」
「……」
――リヒターさんが見ていた。視線を送ってきている、それだけではあった。
「あ」
そっか、絡まれていたからこそ助けようとしてくれたのかな。あなたにとって、見ず知らずの人なのに……。
「ありがとう」
この喧噪さ、声だって届かない。それでも感謝したかった。あと、オカルト的なものでなくて良かった。私は頭を下げると、そのまま去っていった。
「……うん」
彼はカイゼリン様の隣に居続けているんだ。それで良かったと思えるんだ。それも、あの日々を乗り越えてきたからこそ。そうだから――。
みんな、元気にやっているようだった。平和な日常を取り戻しているんだ。
寂しい気持ち、それはもちろんある。きっと在り続ける。
彼らは生きている。彼らの道を歩いていくんだ。
うん、帰ろう。私は退場口へと向かうことにした。
もう日が暮れそうだ。村までは歩いて帰る。ああ、草の地面だ。本当に春が来たんだね。
「疲れた……」
やっぱり人混みって疲れる。色々な騒動もあるし、色んな人だっているし。
「……いいのかな」
神様的な立場から見て、人間ってこれでいいのかな? 本来は女神様を敬う、粛々としたものじゃないといけないんじゃ……。
「いいのかも」
慈愛に満ち溢れた女神様、荘厳なる眷属の皆様。健気で愛らしいモフモフ……リッカ。きっとね、温かな目で見守られているんじゃないかって。
なんとなくだけど、そう思った。
あなたにおすすめの小説
せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません
嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。
人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。
転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。
せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。
少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。
【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?
桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。
だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。
「もう!どうしてなのよ!!」
クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!?
天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?
社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。
天咲リンネ
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。
引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。
見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。
つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。
ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。
しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。
その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…?
果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!?
※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。
男女の友人関係は成立する?……無理です。
しゃーりん
恋愛
ローゼマリーには懇意にしている男女の友人がいる。
ローゼマリーと婚約者ロベルト、親友マチルダと婚約者グレッグ。
ある令嬢から、ロベルトとマチルダが二人で一緒にいたと言われても『友人だから』と気に留めなかった。
それでも気にした方がいいと言われたローゼマリーは、母に男女でも友人関係にはなれるよね?と聞いてみたが、母の答えは否定的だった。同性と同じような関係は無理だ、と。
その上、マチルダが親友に相応しくないと母に言われたローゼマリーは腹が立ったが、兄からその理由を説明された。そして父からも20年以上前にあった母の婚約者と友人の裏切りの話を聞くことになるというお話です。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
自称ヒロインに婚約者を……奪われませんでした
影茸
恋愛
平民から突然公爵家の一員、アイリスの妹となったアリミナは異常な程の魅力を持つ少女だった。
若い令息達、それも婚約者がいるものまで彼女を一目見た瞬間恋に落ちる。
そして、とうとう恐ろしい事態が起こってしまう。
……アリミナがアイリスの婚約者である第2王子に目をつけたのだ。