春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

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最終章

それからの彼らは――③



 それから。

 私は旅立ちの準備を進めていた。『シャーロット・ジェムの薬屋』はというと。
 ――臨時休業という形になった。

 オーナーさんのご厚意だった。私が離れている間、ちょくちょく自分が店に入ると。私が戻ってくるまで守るって……。
 どこまでもお優しい方なんだろう。『多くの経験を積んできなさい』と、送り出してくださった。

 旅立ちの先はララシアだ。伝手がなかった私は、村のギルドに所属することにした。ララシアの任務を請け負うとこで、訪れることにした。タイミングよく、私に向いてそうなクエストもあったんだ。そこから信頼してもらえるようにする。


 旅立ちの日は近づいていた。しばらくは離れることになる故郷。やり遂げたらね、帰ってきたいな――。



「――そうか、明日なのか」

 出発前日。今日も寂しい当店に、モルゲン先生が来てくださった。というか、もうほとんど先生ぐらいしか来店してない気がする。帳簿みる限り、そのようだった。
 先生はお得意様だ。私は彼にコーヒーを出し、もてなす。『ありがとう』と、ブラックコーヒーを口にしていた。

「はい。まずはクエストからなんですけどね。浄化作業まで外部の人間に任せてもらえるのか。そこからは行ってからの勝負かなって」

 そう、クエストの内容。確かに浄化作業の募集もあった。でもそれは、ギルドのメンバーランクが高い人限定だった。
 しかも厳正なる審査もあるし、報酬もその……割に合わないと。ギルドの人たちも文句言っていた。私もそれは否定出来ずで……。きっと、あくまで掲出しただけ。元々当てにしてない募集なのかと思った。

「ははっ、いいんじゃないか? 出たとこ勝負だな」
「……いいんですか」

 いいんだ。結構勢い任せというか、ノープランにも近いのに。

「お前は慎重だからな。それぐらい大胆にいってもいいんだ」

 と、温かな眼差しで仰っていた。

「……はい、そうします」
「ああ」

 懐かしいな、この感覚。私を見つめる目だってそう。柔らかく、甘くもあって――。

「……」

 ……ない。ないない。今のなし。さすがに錯覚。勘違い。思い違い。気をつけよう。

「――そうだ。餞別、どうするかだよな」
「……いいえ、そんな。大丈夫ですから」

 先生、餞別の為に都に戻るかってお考えだった。それはあまりにも申し訳ない。

「帰ってきますから」

 私は笑って言った。本当にオーナーさんには頭が上がらない。居場所を残してくださっているんだ。どうしてそこまで、よくしてくださるのかな。

「……ああ、そうだな。それなら、うん、そうしよう」

 先生は何かを思いついたようだった。企み笑顔ともいうか。

「今日は買いだめさせてもらうな? 今後の為になるしな」
「――え」

 先生は一気に注文してきた! うん、かなりの量で……。

「……いえ、先生? こちらですと、在庫がほとんどというか」 

 常備薬ほとんどだった。客に合わせての調合品を除いたものともいうか……それは最近、めっきり取り扱わなくなったけれど。

「心配するな? 予算はちゃんとある」
「いえ、お支払いの心配とかじゃ……」
「ほら」

 先生は財布を見せてきた。というか、カード? ……この世界にクレジットカード? 発行元はギルドの……いえ、失礼だよね。ジロジロ見ないでおこう。とにかく、先生は買う気のようだった。それならば。

「……なら、在庫一掃セールということで。原価ギリギリでいかがですか?」

 私は肩を小さくしながら、お願いしてみた。ここで赤字覚悟といえたらといいのに、いっそお世話になった分、タダでいいですと恰好つけられたら……無理だった。
 今、切実にお金がほしかった。私は縮こまる一方だ……。

「元値で構わないんだけどな。それじゃ、お言葉に甘えるか。セールって響き、いいよな」

 先生はにこやかに承諾してくださった。私は安心した。

「ありがとうございます。それじゃ、ご用意しますね。コーヒーのおかわり、いかがですか?」

 既に調合済みとはいえ、量が量だから。その間、先生にもゆっくりしていただきたい。

「ありがとう、大丈夫だ……いや」

 遠慮されたかと思ったけれど、そうではないようだ。

「いただこうかな。今度は砂糖とミルクもお願いできるか?」
「は、はい……」

 モルゲン先生も片桐先生もブラック派。加えるイメージなんてなかったのに。特に反対する理由もないので、私はコーヒーを注いだあと、砂糖とミルクも一緒に提供した。量は先生にお任せしよう。

「……俺な、ブラックしか飲めなかったんだ。純粋なブラック、ドまっくろってな」
「はい……」

 私みたくドバドバいれることなく、ほんの少し。先生はそれで十分のようだった。

「そんな俺がな、砂糖とミルクを入れても平気になったんだ。お前の影響だろうな」
「そう、なんですか……?」

 確かに、冬花だった頃。たまに入れているのを見たことはあった。気まぐれかなと思っていたのに。

「そうだな? いっそ、お前を見習ってたくさんいれるか?」
「それ、見習わない方がよいかと。あと、私も控えるようになりましたので」
「そうかぁ?」

 先生は軽口だったと思うけれど、私も最近になってやばさに自覚しましたから。本当にお薦めできません。冗談だとはわかっていても。


 さあ、準備をしよう。主なる作業は袋詰めだ。いつもみたく、店の袋に入れていく。一つ一つ、丁寧に。ご購入の感謝を込めて。

「――ああ、シャーロット? 袋詰めしてくれてるのか?」
「はい」
「それ、大変だろ? まとめて、ガッって……いや、そういうわけにもいかないのか」
「いえ、そうですね。元々パッケージされてるものですから。せめて整頓させてください」
「おお、悪いな……」
「いえいえ」

 事前に包装していたもの。この個包装、私の手作りなんだよね。営業時間外で内職したりもしたっけ。一袋、一袋、手書きだった。そう、作ったんだ。

「……」

 やっぱり寂しいな。
 このカウンター席も、暖炉も。二階に続く螺旋階段も。リッカと過ごしたのもだけど、愛着を持って住んでもいたから。独り立ち出来た、自分のお店だって喜んだ日のこと、蘇るようだ。

 今は手放すことになるけれど、また戻ってくるから。また、お客様で賑わっていた店にもなるように励むから。

「……って」

 先生は手持ちぶさたのようだった。コーヒーも飲み終えていた。それなら。

「おかわり、いかがですか?」
「いや、ありがとう。ごちそうになった……なあ、引っ越しの手伝いでもしようか?」
「お気持ちだけいただいておきます。昨日までに終わらせておきましたから」
「……うーん、それならば。ほら、そこの暖炉。掃除しておくぞ? なっ?」
「暖炉掃除……」

 また元の汚さに戻ってしまっていた暖炉。私が苦手な暖炉掃除。後回しにしてしまっていたところ。そう、やらないと。暖炉掃除からは逃げられない。正直有り難いお話だけど、先生はお客様なわけで……。

「……ありがとうございます、お願いします」

 私は屈してしまった。駄目だな、先生相手だととうしても甘えてしまう……。

「よし、決まりだな。こういうのは得意なんだ、こういうのは」

 先生は腕まくりをしていた。全然嫌そうじゃなかった。

「さて、やるか――」

 そんな風に張り切っていたのに……先生の動きはピタリと止まった。視線だけが、ある一点を見ていた。

「先生、どうかしましたか?」
「……」

 先生の視線の先は、カウンターにある手荷物入れのスペースだった。あまり使う人がいない箇所、もしかして忘れものがあったのかな?

「……アルトでも来ていたのか?」

 先生がそこから取り出していたのは、ブックカバー付きの文庫本だった。確かにアルトが読んでいたものと同じだ。

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