春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

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最終章

それからの彼らは――④


「来てたんだろうな。あいつがずっと使っているカバーだからな。物持ちいいんだよな、あいつ」
「あー、確かに……」

 私は納得した。几帳面だし、丁寧に扱っているよね。どのみち忘れたのが彼なら、兄である先生にお願いすることにしよう。お手を煩わせてしまうにせよ。

「すみません、見落としてました。でも、アルトなら良かったです。先生、お願いしてもよろしいですか?」
「ああ、わかった。こちから返しておく――」

 その時だった、ドアベルが鳴ったのは。お客様かな、それなら応対しないと――。

「……失礼いたします」

 アルトの声だ。妙に畏まった声でもあった。忘れものでも取りに来たのかと、思っていたのに。

「……!?」 

 君は、君はどうしたっていうの? 私は開いた口がふさがらなかった。
 それも今のアルトの恰好が……ビシッとしたスーツだったから。彼が手にしているのは……情熱的な赤い花束? ……花束?

「……言え、言うんだ、俺!」

 そうやって呟くと即、彼は直角にお辞儀をしてきた。差し出されたのは花束だ。

「……その、初めて会ったはずなのに、初めてじゃない気がしてならなくて! たまたま訪れたとかじゃなくて、なんか、この店に訪れたいって気持ちがありまして!」

 あれこれ言っているアルト。

「スーハー……あの笑顔に一目ぼれかと思ったけれど、それだけじゃなくて……自分でもわからないんですけど……! スーハースーハー……!」

 言いながら合間に深呼吸を繰り返してもいた。もう一度、息を吸っては吐いてを繰り返すと、彼は意を決していた。

「す、す、好きです! 結婚前提のお付き合いでお願いします!」
「……」

 お辞儀をしたまま、花束を差し出しているアルトと。頭の処理が追いついていない私。ええと、待ってほしい。

「……」

 状況を必死に把握している私。

「……」

 事の成り行きを無言で見守っている先生。

「……」

 ずっとその体勢のままのアルト……大変そうだよね。

 ……答え、返事しよう。もう、私は彼が冗談で言っているわけではないと。それをわかっているから。誠意をもって答えよう。

「……ごめんなさい。今、恋愛とか考えられないんです。他に優先したいことがありますので」
「はい、そう言うと思ってました!」
「え」

 そう言うと、って……記憶、ないはずなのに?

「……もちろん、友達からでも。知り合いからでも。いえ、まずは金づるからでも構いませんので! 俺、買い支えますんで!」

 一向に頭を上げはしないものの、アルトがそう主張していた。私はどう反応したら……

「……沈黙だって耐えますから。つか、俺のこと考えてくれてるんだなって思うと、えへへ。えへへへ……」

 なんで恍惚しているんだろう……。

「……おーい、アルト。彼女、びっくりしているだろ」
「……は? ……はあ? なんで兄貴がいんの?」

 その温度差が激しかった。顔を上げたアルトは先生を睨みつけていた。でもそれは僅かな間のこと。

「……君、大丈夫!? 不審者に居座られているの!? 困ってるよね、お客様だったら下手に追い返せないからね! 俺が追い払っておくから!」

 まるで瞬間移動でもしたかのように、即座に私の前に立っていた。あと、彼は気づいてないようだけど、昔みたいな話し方になっていた。私もその方が気は楽だった。

「……不審者はないだろ。知り合いだ、知り合い」

 先生はまたしても傷ついていた。
 それに……うん。私たちの関係ってそうなんだ。教師と生徒でもないし……友人ってこともないから。せめて常連さん、かな。

「知り合い……俺よりランクが上じゃん!」

 アルトは衝撃を受けていた。というか、君のランクって金づるなの……?

「……だと思ったよ。あれで終わるわけがないよな。アルトに限らず――『彼ら』もだよな」

 先生は苦笑しながら、何か考えているようだった。私が不思議そうに見ていると。

「……いや、何でもない。シャーロット、掃除始めているな?」
「はい、ありがとうございます。私、続けてますね」

 先生には暖炉をお願いして、私は商品を詰めていよう。

「ほら、アルト。お前の忘れもの、今度こそ持って帰れよ?」
「は? 忘れもの? あー、それ?」

 この思い出した感、忘れものを取りに来たわけじゃなかった。うん、そういうことなんだ……。 

「……つか、兄貴なに。暖炉掃除、俺の特権なんだけど? そんなに掃除したいなら、村の掃除すればいいだろ」
「いや、特権ってなんだよ……追い出すなよ……」

 弟が兄に絡みにいっていた。先生は理不尽にさらされていた。気の毒だ……。

「その、優しくしてあげた方がいいんじゃ……」
「えー、まあ、君の頼みなら。じゃあ、俺、花を生けてるね? まだ終わってなかったら、手伝っておくからね?」
「ありがと――」

 その譲歩を有り難く受け取ろうとするも……待って。花? 今、うちにある花って。

「なにこの花……兄貴!」

 すでに食卓に飾ってある花瓶を発見していた。しかもお兄さんを名指ししてきた。たくさんいただいたものだから、何個か分けていた。それも一階にあるものは探し終えているという……。

「え、なに? ただの知り合いでしょ? なに花を贈ってんの?」
「知り合いが贈ったっていいだろ。というか、お前だって知り合いじゃないか」
「……言ってくれんじゃん。格上げはしてくれたけれど、言ってくれんじゃん……?」
「あとな、お前、せっかくのスーツだろう? 汚れないか?」
「名誉汚れなんで? つか、洗い落とすし。落ちなかったら店にも出すし?」

 黙々と作業をする私の耳に入ってきてしまう。険悪だった頃に比べれば、微笑ましい兄弟喧嘩なのかな……いや、微笑ましいのかな。

「こっちも親切心を出すとするか。彼女の店、当分は休業だぞ。しばらくはこの国を出ることになる」
「……え? ……は? 店、休業……? 国を出る……!?」

 一応気にしてか、ジャケットは脱いでいたアルト。彼は驚愕していた。

「な、な、なんで……! 俺、君のこと支えるよ!? というか、兄貴も説明してよ!」
「そうだな、フェアに行こうな。まずは掃除……お前は花を生けることからか。それが終わってからな」
「すぐ終わらせるわ。待ってて、花も華麗に生けてくるから」

 なんだかんだで話はついたようだ。そうだ、花瓶足りないよね。引っ張り出してこないと。

「ありがとう。あと、残りの花瓶の場所はね」

 オーナーさんの趣味なのか、花瓶はやたらと豊富だった。花好きな彼女は、花の面倒もみてくださると。おすそ分けとか、してもいいかな? そうしようかな。後程、ご挨拶にもいく予定だし。

「うん、知ってると思うからっ! 君は気にせずお仕事していてね?」

 ……知ってるんだ。魂レベルで刻まれた記憶が何かだろうか。それと仕事自体は終わっていた。あとは先生にお渡しするだけだ。支払いは今でなくてもいい。

「よし」

 暖炉掃除は手ごわい。私もやろう。まずは。

「先生、水汲みしてきますね」
「ああ、助かる」

 私はバケツを手に、川に向かうことにした。

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