春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

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最終章

いずれ知ること④



『――このキャラ、ですか? 私の推しの配信者なんです。デフォルメされてるんですよ』

 今日も図書室を訪れていた。彼女は書き仕事をしていたようだ。そこで目についたのが、手にあるシャープペンだった。そう、Eから始まる名前だったような……。

 というか、よく身に着けているよな。他にもスマホカバーとか、アクキーとか。トレカケースもカラフルにデコっていたな? ……ああ、皇に教えられたものだな。この手の話になると饒舌になるからな。可愛いな。

『俺様キャラだけど、どっか抜けたところもあって可愛いんです。いじられキャラともいうか。でも、決めるときは決めるんですよ』

 目が輝いているな。妬けるくらいだ。

『一度だけ、チャットを読んでもらったこともあるんです……お、お前とか言ってもらっちゃって』

 思い出し笑いでもしているのだろうか、というか興奮しているな……。

『……お前、か』

 あまり人に言うことないよな。まあ、ダチくらいか。それもノリに合わせてくらいだ。今までそう言うことなかったな。なかった……確かに。

『……』

 それで、皇はどうして硬直しているんだ? しかもここまで茹で上がってもいるとは?
 ……ああ、そういうことか? 試してみるか?

『なあ、皇――お前って呼んだ方がいいのか?』

 こっそり確認してみることにした。近距離で囁いてみると。

『ひぃぃぃ、推しと推しが……』

 なんで妙な声を出しているんだ。しかも推しってなんだ。皇にとっての俺は――。

『はは、了解した。お前の方がいいんだな』
『い、いえ、どちらでも……』 

 赤面して俯いてしまっている。こんなにあからさまなのにな。お前は俺が好きなんだよな? お前は推しにガチ恋をしているわけではない。お前が恋をしているのは俺だろうに。

『――冬花ちゃん、それ終わったら休憩しましょ? 顧問の先生からのお土産があるから』
『やった。はい、終わらせますね』
『ふふ。片桐先生もご一緒にいかがですか?』

 図書委員の子たちとも和やかだ。雰囲気も良好だ。ああ、楽しそうに笑っているな。俺のことも誘ってくれたけれど、いつまでも長居するのもな。

『誘ってくれてありがとうな。先生、居過ぎたからな、このへんにしておくよ』

 付き合いもあるだろうしな。遠慮することにしておいた。まあ……皇がしょんぼりしていたな。今からでも訂正したいが……やめておこう。そもそも、俺は図書室に通い過ぎている節もあった。

『先生もすみません。私、長々と語ってしまいまして』
『いいや? こっちもいつも長々と語っているからな。お互い様だ』
『……あはは、それもそうですね』
『だろ?』

 俺達だって仲が良いんだぞ? ほら、睦まじいだろ? まあ、これ以上は邪魔になるな。お暇するか。

『……』

 委員活動は上手くやっているか、という体裁。それで俺は図書室に訪れていた。

 あとは、あれだ。生徒への『お前』呼び、統一しておくか。外野にとやかく言われたくないからな。

 ああ、面倒だな……教師ってのは。


 なあ、もっと話したいんだ。もっと一緒にいたいんだ。もっと、もっと――。



 俺は皇の為に動いていた。彼女はご家族との関係で悩んでいる。ここは担任教師、信用を得ることに成功した。難なくご自宅に招かれることになった。

『――ストーカー?』

 リビングで語られた、衝撃なる事実。それも――幼馴染からという。何をしているんだ、何を……!

 元々、不器用なご一家ではあったと思う。そこに……この問題ときた。さらにぎくしゃくしてしまったのだろうな。

 それにしても、彼女の優しさはご両親譲りだとしてもだ。甘すぎないか? 警察に突き出した方がいいだろうに。俺はお二人に訴えることにした。
 許せるか? 許せないだろう? 彼女の私物に何をした? 寝込みの彼女に何をしようと――。

『……っ』

 握る力が強くなり過ぎてしまった。ずっと険しい顔もあれだな。警戒されてしまう。

 ……よくない力でも働いているのだろうか。娘が実害に遭っていたんだぞ? どれだけ大切な長馴染みだったとはいえ――。
 ああ、まただ。爪が食い込んでしまうほど、強く握ってしまった。 

 ずるい男だ。そんなに早くから彼女と出会えたこと。ご家族からの信頼を受けていたこと。
 彼女からの思いだって、よっぽどの――。
 ついには、手から血が滲んでしまっていた。



 おい、誓約書はどうしたんだ。どこまで信頼を裏切れば気が済むんだ。

 ついには、うちの高校まで侵入していた奴――更木日向。
 しかも、どういうことだ? 俺の方が危険だと、言いたい放題だな?
 ……俺が、というのか? ストーカーのお前よりも、だって?

 ――ふざけるな。ああ、はっきり分からせてやろうか。

『もうお前の出る幕はない。引っ込んでいろ』

 二度と、彼女の前に姿を見せるな。それだけで済ませているんだぞ? 温情じゃないのか?

『彼女のことは俺が守る。ずっとだ』

 俺は至極当然のことを言った。な、当たり前だろ?

 更木は通報され、警備員に連れていかれた。誰かがタレこんだんだろな。
 更木は去り際にも、騒ぐ騒ぐ。なんだなんだ――『冬ちゃん、逃げて』ってのは? お前が言うなって話だな。




 皇……まだ、ご両親とは上手く話せないようだな。俺と話していても、どこか上の空だ。

 皇、図書委員活動楽しそうだな。推し活は……受験もあって控えているのか。話、好きだったけどな。
 正確には――その時の笑顔が好きだ、だな。別にお前が夢中になっている奴の話、聞きたいわけじゃない。
 相手は推しの一人に過ぎない。ガチ恋もしていない。皇は俺のことが好きだ。

 わかっていてもだった。



 冬の休日、街中で偶然逢った。こんな嬉しいサプライズあるんだな。理不尽会議を乗り切ったご褒美だろうか。

 皇はバスターミナルに向かうところだった。なんでも、美術館に行くのだとか。

『俺も――』

 ――一緒に行きたいって。それはぎりぎりで飲み込んだ。皇はがっかりした表情を見せるも、何事もなかったかのように笑う。俺がそう言うの、期待してたってことだよな? ……ああ、そうだよな。なら、今からでも――。

 それでは、と礼儀正しく頭を下げた彼女。到着したバスにも乗り込んでいく。ああ、行ってしまった――。

 そのバスな、先生のマンションの近くでも停まるんだよ。
 行先は美術館ではなく、俺の家だったとしたら。
 ……連れ込みたかったな。
 俺は彼女が去った後を見つめながら、そんなことを考えていた。

 

 なあ、皇。お前は俺のことが好きだ。
 ――俺もお前のこと、好きなんだよ。

 何度、教師だと戒めてきたことか。言い聞かせてきたことか。

 とっくに惹かれていた。惚れていた。それを誤魔化してきたに過ぎないんだ。

 俺は教師。それ、どこまで我慢出来るんだろうな。





 二年生の秋。担任から外れてしまった俺は焦っていた。皇との接点が減っていた。図書室通いにも限度がある。


 ついには修学旅行の日がやってきた。ああ、目で追ってしまうな。一人で行動しているな。

 学生同士が羨ましかった。俺が学生だったら、とっくに口説いている。何が何でも修学旅行を一緒に回ろうとしている。
 だからって、他の野郎共にやれってわけじゃない。現に誘おうとしていた輩もいたが、目を光らせておいて良かった。危ないところだったな、皇?


 
 ……修学旅行、終わってしまうんだな。俺の時はどんな風に過ごしていたのか。ろくに覚えていなかった。普通に楽しんだ気はするが……。
 学生生活で思い出すのは、あの年配教師だ。あの人とのやりとりを振り返る。すごく心配していたな、俺のこと。ああ、そうだな。俺は空虚だったんだ……思い出を作れないほどの。


 その朝はなんとなく早く目覚めた。呼ばれるように海に向かったんだ。
 目的もなく海を眺めていたところに、やってきたのは皇だった。逃げようとしたの、明白だった。逃がさないぞ?

 願ったり叶ったりの展開となった。皇と一緒にいられることになった。ああ、緊張しているお前も可愛いな――。

『好きです』

 彼女からの言葉だった。まさか、彼女から言い出すとは。なあ、俺はどこまで幸せ者なんだ?
 いや、自制するんだ。ここは大人の対応をするんだ。今じゃない、せめて卒業まで待ってもらうとか……。

『俺も同じ気持ちだ』 

 無理だった。

 俺は衝動的に彼女を抱きしめていた。本能のままに、彼女に触れたかったんだ。

 ああ、味わってしまった。俺はこの幸福を知ってしまった。今更無かったことになって出来ない。

 わかっている。俺は教師、彼女は生徒だ。最後の一線を越えなければいい。

 来たる日まで待ち続ければいいんだ――。
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