春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

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最終章

いずれ知ること⑤


 皇がやつれてきていた。受験によるストレスもそうだが、衆目にさらされていること。それが辛いんだろうな……。

 俺と彼女の関係の疑惑。いよいよもって強くなってきたので、そこは火消しておいた。ありがとう、俺の婚約者。こんな使えるビジネスカップルの相手、そうそういないな。

 ……だが、俺からはろくに接触出来ない。あと、数か月のこと。俺は辛そうな彼女から距離をとれというのか?

『……』

 なあ、俺はどうして教師になりたかったんだ? 
 自分は見つけられた。だけど、自分の意味がわからかった俺。
 彼女と出逢えたから、わかるようになったんだろ?

 俺の人生。俺が生きてきたこと。教師を選んだこと。
 ――皇冬花に出逢う為だ。

 いや、逢うだけじゃ足りない。

 俺は彼女を愛している。大切にしたい思いと、汚したい思いでぐちゃぐちゃだ。お前のは可愛い恋心だ。それも嬉しいけどな、それでは足りなくなっているんだ。

 俺の辞職願は承認済みだ。元々期限があったものだ。それからの結婚? 誰がするか?
 俺は彼女を連れ去る。その手筈も整えていた。


 
 そうだ、卒業の日まで待とう。俺は『教師』をやりきってみせるんだ――。





 晴れの日だ。ついに迎えた卒業式。ああ、ようやくだな。感慨深いものだ。

 俺は生徒たちに囲まれていた。辞めることも惜しまれていた。その気持ちは有り難いにしろ、俺は早く彼女の元に行きたくて、だな? そろそろ苛立ってもきているんだが?
 ああ、早く向かわせてくれ……! もういいか、いいだろ? 群れから外れたところで、一人ぽつんと立っている彼女の元へ――。

 俺が焦っている間――スローモーションのように、彼女が倒れていった。

『皇!』

 どいてくれっ! 俺は囲みの生徒たちを押しのけ、ただ倒れた彼女の元へ。



 保健室の先生は不在だった。俺の方で看病しよう。
 保健室のベッドに彼女を横たわらせた。どうする、救急車を呼ぶべきか――。

『ん……』

 彼女がゆっくりと目覚めた。ぼんやりとした目で俺を見上げている。

『大丈夫か? 辛いところあったら、言ってくれな?』
『ううん、大丈夫……寝不足だったのかも』

 寝ぼけているのか。覚醒しきってないのか。可愛いなぁ、おい。とにかく、大事に至らなくて良かった。

『……って、先生!? す、すみません』

 あ、敬語に戻った。まあ、それはそれで可愛いけどな。

『まだ安静にしていような?』
『はい……』

 寝不足だというなら、尚更だ。素直で可愛いなぁ、おい。

『夢、じゃないんですよね。先生が近くにいてくださるのって……』

 そんな悲しそうな顔で笑わないでくれ。俺はちゃんといる。

『皇……ああ、夢じゃない』
『そっかぁ……なら、嬉しいです。先生、逢いたかったです』
『……!』

 彼女が笑ってくれている。俺を見て。俺だけを見つめて、だ。

『俺も、俺もだよ……皇』

 そうだよな、俺たちの思いは一緒だ。ようやく許されるようになったんだ。公にも出られる関係だ。

『俺も逢いたくて……こんなにも触れたかった』

 ギシリと、ベッドが音を立てた――二人分の重みだ。

『せん、せい……?』

 皇? 何をそんなに怯えているんだ? 顔色だってさらに青白くなっているな……? なあ、なんでそんなに呼吸が荒いんだ? これは序の口なんだぞ?

 それと、だ。

『――もう先生じゃないんだよ、皇』

 俺はもう教師じゃなくなった。お前を自由に愛せるんだ。

『ただの男だよ。お前に触れたくて仕方ない――』

 俺達はもう教師と生徒じゃない。関係性は変わったんだ。そうだな、恋人関係から始めるか。 本音はすぐに結婚したいんだけどな。
 一線を越えるのは、お前が大人になってから。でもな、いいだろ? 散々お預け状態だったんだから……触れてもいいだろ?

 よく俺の名を呼んでくれた唇。それを俺は指でなぞった。いつもは艶やかなそれが……どうしたんだ?

『……皇?』

 こんなにも血色が悪くもあり……俺に恐怖の眼差しを向けてもいた。なあ、どうしたんだ……?

『緊張することなんてない。俺に全てを委ねてくれればいいんだ――』

 髪を撫でたら、落ち着いてくれるだろうか。頬に触れたらどうだろうか。

 ああ、いっそのこと。

『このまま、愛し合おう――』

 完全に覆いかぶさった俺は――彼女に口づけた。
 甘く、柔らかい……ずっと待ち望んでいたものだ。軽くついばむものからでいい。深く重なるのは、もう少し後でもいい。

『……』

 まだ、固いな? なら解すまでだ。どれだけ緊張していようと、溶かしつくすから――。

『……っ!』

 痛みが生じた。血の味もする……そうか、彼女が唇を噛んできたのか。
 抵抗するのか。はは、そうだな。お前はそういう子だった。変なところで頑なだったな。そこも愛しいところだったが……でも、何故なんだ。なあ、皇――。

『なんて顔、してるんですか……』

 真っ青になった皇が、俺を見上げていた。

『なんて顔ってなぁ……お前を愛している顔だろ?』
『……っ!』

 皇は大きく目を見開いていた。それからしきりに首を振っていた。

『そんなの信じない……だって、無表情じゃない……!』

 恐怖の表情で、皇は叫んでいた。いや、無表情……? 

 俺は窓で自分を見た。ああ、あれだ。まだ素面だからだろ? いや、皇? 今ので一気に現実に引き戻されたからで――。

 それを隙ととらえたのか、皇はベッドから転がり落ちると、こう言い捨てた。

『……あなたは誰なの。本当に片桐先生なの……!?』

 いや、そう言われても……と考えている内に、彼女は保健室から出て行ってしまった。おいおい、本調子じゃないだろ? まだ休んでないとだろ?

『……さて、と』

 追いかけるとしますか。お前の行動パターンは読めているからな?

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