春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

文字の大きさ
555 / 557
最終章

いずれ知ること⑥


『――春の雪、ときたか』

 屋上まで皇を追い詰めると、はらりと雪が降っていた。綺麗なものだな。雰囲気づくりにももってこいだ。
 その前に、皇と話をしないとな。

『……ごめんな。俺、急ぎ過ぎたんだな。いくら愛しているからって……なあ?』

 つい暴走してしまっていた。雪によって頭が冷えた。俺は恐がらせたことを反省していた。

『嘘。あなたは私を愛してなんていない。他に本命だっている――!』
『皇……ごめんな』

 確かに不誠実だったな、お前には。あいつらは本命でもなんでもない。あの婚約者には他に本命がいる。俺との結婚後も関係を続けたいだそうだ。ちなみに俺とは男女の関係は一切ない。

 そうだな、ちゃんと話すな。大事なことだったのにな。

『……っ』

 皇の顔は絶望しきっていた。この世の終わりのような顔をしていたんだ。なあ、どうしたんだ――。

『もう、もういいんです……』
『……本当にどうした?』

 彼女はどうしてしまったんだ。何をそんなに嘆くことがあるというんだ。

『もういいから……私、ちゃんとあなたのことを忘れるから……!』
『どうして、どうして忘れる必要が――』

 彼女はおもむろに耳を塞ぎ始めた。何故だ。

『もう、何も言わないで……私、また騙されそうになるから……期待してしまうから!』
『いや、だから――』

 俺からの言葉を拒むのは、何故だ。納得がいかない。俺は怒りで心を煮えたぎらせながらも、近づいていく。捕まえるのは簡単だ。だが、誤解を解いてからだ。彼女を悲しい思いにさせたままなんて、耐えられない。

 俺が近づこうとすると、皇は遠ざかる。彼女は屋上から出ようとするも、そこは退路は塞いでおく。説得はしたいが、解放したいわけじゃないからな?

『……いやっ』

 皇の抵抗は続いたままだ。いや、まずいな。フェンスの近くまで来てしまっている。生徒の落下防止用のそれは、強度もある。そう危険がないにしろ、万が一もあるだろう?

『……わかった。話は聞く。落ち着いて話し合おう、な?』

 俺は彼女の腕を掴んだ。そのことにより、より抵抗が強まる。なあ、落ち着いてくれないか? そうやって暴れられると、こっちはハラハラして仕方ないんだ。

 そう、改めて伝えよう。

『――教師と生徒の関係はもう、終わりにしよう。俺は、終わらせにきたんだ』

 その関係が俺達を縛りつけていた。拗れてしまった要因だ。

『……皇?』

 話、ちゃんと聞こえているのだろうか……? 意識が俺の方に向いてないのでは……?

『もう、話すことなんてない……』

 彼女の瞳から涙が零れ溢れてきた。見てるこちらが切なくなるものだ。

『皇? そんなこと言わないでくれ? また楽しく話そう――』
『……もう楽しくないんです。私はもう――笑えません』

 冷酷な言葉が響いた。お前は何を言っているんだ? 俺の脳が受けつけないぞ?

『あなたとはもう――』

 彼女からの涙は止まらない。そのままフェンスにもたれかかった。いや、いやいやいやいや……?

『話をさせてくれ、皇――』
 このままじゃいけないんだ。気がはやる俺は彼女に詰め寄ろうとした――その時だった。



 なあ、何が起こったんだろうな。

 どうしてなんだ。どうして、お前が血まみになって倒れているんだ……?

 なあ、大丈夫か……? 痛いよな? 今、助けるからな……?

 ……俺? 俺のことなんていいんだ。お前の方が大事で……。


 
 ああ、漠然とした思いだがわかってしまったんだ。これから俺達に訪れるのは――死だ。

 俺は彼女を悲しませたまま、逝くのか? 彼女もこれからだったんだぞ? やっと俺と幸せになれるところだったのに、それなのに……。

 意識が……遠のいていく……ああ、それならせめて。

 彼女の名前を呼びたい。俺が愛した子の名、意味を与えてくれた子の名前を。

『冬花……』

 一度くらい、名前で呼べば良かった……そうすれば、喜んで……笑っ……て。






 亡霊と化した俺は、どれだけ彷徨っていたのか。どれだけ歩いても、彼女は見つからない。

 ここは黄泉路、生命の行き交う場所だという。そんな説明を入口で受けた。不慮の死を遂げた俺には、転生を約束してもらえるという話もだ。
 なら、彼女もってなるだろう? 一緒に生まれ変わりたい、それ一択だ。

 ……なのにおかしな話だ――冬花の魂は行方不明だという。
 なら、ごめんだ。俺が捜して見せるんだ……! 




『くそっ……』

 意識が朦朧としていた。もう、どれほど彷徨ったのだろうか。黄泉路に長時間留まるのは、推奨されていなかった。だけどな……! 引き下がれるかって話だ……!
 それなのに……俺の足が、体が言うことを聞いてくれない。くそ、意識まで落ちるのか――!

『……?』

 淡く白い光があった。光を纏って現れた存在――この世の存在とは思えないほどの、美しい人だった。

『あんた……女神様、か?』

 清浄なる気をまとっていた。神格も高そうだ。ここにいるのは不思議だけどな。

『……神頼み、してもいいか。何を捧げてもいい。そうだな、命でも――』

 本音を言うなれば。一緒に生まれ変わって、今度こそ幸せになりたかった。だけどな、いいんだ。お前が生きて、笑ってくれるなら、それで。

 女神はしばらく沈黙していたが、彼女は俺と向き合ってくれた。そして、憂いを帯びた顔で何かを告げようとしていた。力になってくれるのか……?
 ――同情でもいいんだ。この際、何だっていい。彼女に逢いたいんだ。



 ――俺は力を得た。それから、彼女との結びつきも。
 だから今はいい、これ以上深く考えないんだ――。


感想 0

あなたにおすすめの小説

せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません

嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。 人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。 転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。 せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。 少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?

桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。 だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。 「もう!どうしてなのよ!!」 クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!? 天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?

社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。

天咲リンネ
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。 引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。 見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。 つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。 ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。 しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。 その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…? 果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!? ※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。

男女の友人関係は成立する?……無理です。

しゃーりん
恋愛
ローゼマリーには懇意にしている男女の友人がいる。 ローゼマリーと婚約者ロベルト、親友マチルダと婚約者グレッグ。 ある令嬢から、ロベルトとマチルダが二人で一緒にいたと言われても『友人だから』と気に留めなかった。 それでも気にした方がいいと言われたローゼマリーは、母に男女でも友人関係にはなれるよね?と聞いてみたが、母の答えは否定的だった。同性と同じような関係は無理だ、と。 その上、マチルダが親友に相応しくないと母に言われたローゼマリーは腹が立ったが、兄からその理由を説明された。そして父からも20年以上前にあった母の婚約者と友人の裏切りの話を聞くことになるというお話です。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

自称ヒロインに婚約者を……奪われませんでした

影茸
恋愛
平民から突然公爵家の一員、アイリスの妹となったアリミナは異常な程の魅力を持つ少女だった。 若い令息達、それも婚約者がいるものまで彼女を一目見た瞬間恋に落ちる。 そして、とうとう恐ろしい事態が起こってしまう。 ……アリミナがアイリスの婚約者である第2王子に目をつけたのだ。