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最終章
いずれ知ること⑥
『――春の雪、ときたか』
屋上まで皇を追い詰めると、はらりと雪が降っていた。綺麗なものだな。雰囲気づくりにももってこいだ。
その前に、皇と話をしないとな。
『……ごめんな。俺、急ぎ過ぎたんだな。いくら愛しているからって……なあ?』
つい暴走してしまっていた。雪によって頭が冷えた。俺は恐がらせたことを反省していた。
『嘘。あなたは私を愛してなんていない。他に本命だっている――!』
『皇……ごめんな』
確かに不誠実だったな、お前には。あいつらは本命でもなんでもない。あの婚約者には他に本命がいる。俺との結婚後も関係を続けたいだそうだ。ちなみに俺とは男女の関係は一切ない。
そうだな、ちゃんと話すな。大事なことだったのにな。
『……っ』
皇の顔は絶望しきっていた。この世の終わりのような顔をしていたんだ。なあ、どうしたんだ――。
『もう、もういいんです……』
『……本当にどうした?』
彼女はどうしてしまったんだ。何をそんなに嘆くことがあるというんだ。
『もういいから……私、ちゃんとあなたのことを忘れるから……!』
『どうして、どうして忘れる必要が――』
彼女はおもむろに耳を塞ぎ始めた。何故だ。
『もう、何も言わないで……私、また騙されそうになるから……期待してしまうから!』
『いや、だから――』
俺からの言葉を拒むのは、何故だ。納得がいかない。俺は怒りで心を煮えたぎらせながらも、近づいていく。捕まえるのは簡単だ。だが、誤解を解いてからだ。彼女を悲しい思いにさせたままなんて、耐えられない。
俺が近づこうとすると、皇は遠ざかる。彼女は屋上から出ようとするも、そこは退路は塞いでおく。説得はしたいが、解放したいわけじゃないからな?
『……いやっ』
皇の抵抗は続いたままだ。いや、まずいな。フェンスの近くまで来てしまっている。生徒の落下防止用のそれは、強度もある。そう危険がないにしろ、万が一もあるだろう?
『……わかった。話は聞く。落ち着いて話し合おう、な?』
俺は彼女の腕を掴んだ。そのことにより、より抵抗が強まる。なあ、落ち着いてくれないか? そうやって暴れられると、こっちはハラハラして仕方ないんだ。
そう、改めて伝えよう。
『――教師と生徒の関係はもう、終わりにしよう。俺は、終わらせにきたんだ』
その関係が俺達を縛りつけていた。拗れてしまった要因だ。
『……皇?』
話、ちゃんと聞こえているのだろうか……? 意識が俺の方に向いてないのでは……?
『もう、話すことなんてない……』
彼女の瞳から涙が零れ溢れてきた。見てるこちらが切なくなるものだ。
『皇? そんなこと言わないでくれ? また楽しく話そう――』
『……もう楽しくないんです。私はもう――笑えません』
冷酷な言葉が響いた。お前は何を言っているんだ? 俺の脳が受けつけないぞ?
『あなたとはもう――』
彼女からの涙は止まらない。そのままフェンスにもたれかかった。いや、いやいやいやいや……?
『話をさせてくれ、皇――』
このままじゃいけないんだ。気がはやる俺は彼女に詰め寄ろうとした――その時だった。
なあ、何が起こったんだろうな。
どうしてなんだ。どうして、お前が血まみになって倒れているんだ……?
なあ、大丈夫か……? 痛いよな? 今、助けるからな……?
……俺? 俺のことなんていいんだ。お前の方が大事で……。
ああ、漠然とした思いだがわかってしまったんだ。これから俺達に訪れるのは――死だ。
俺は彼女を悲しませたまま、逝くのか? 彼女もこれからだったんだぞ? やっと俺と幸せになれるところだったのに、それなのに……。
意識が……遠のいていく……ああ、それならせめて。
彼女の名前を呼びたい。俺が愛した子の名、意味を与えてくれた子の名前を。
『冬花……』
一度くらい、名前で呼べば良かった……そうすれば、喜んで……笑っ……て。
亡霊と化した俺は、どれだけ彷徨っていたのか。どれだけ歩いても、彼女は見つからない。
ここは黄泉路、生命の行き交う場所だという。そんな説明を入口で受けた。不慮の死を遂げた俺には、転生を約束してもらえるという話もだ。
なら、彼女もってなるだろう? 一緒に生まれ変わりたい、それ一択だ。
……なのにおかしな話だ――冬花の魂は行方不明だという。
なら、ごめんだ。俺が捜して見せるんだ……!
『くそっ……』
意識が朦朧としていた。もう、どれほど彷徨ったのだろうか。黄泉路に長時間留まるのは、推奨されていなかった。だけどな……! 引き下がれるかって話だ……!
それなのに……俺の足が、体が言うことを聞いてくれない。くそ、意識まで落ちるのか――!
『……?』
淡く白い光があった。光を纏って現れた存在――この世の存在とは思えないほどの、美しい人だった。
『あんた……女神様、か?』
清浄なる気をまとっていた。神格も高そうだ。ここにいるのは不思議だけどな。
『……神頼み、してもいいか。何を捧げてもいい。そうだな、命でも――』
本音を言うなれば。一緒に生まれ変わって、今度こそ幸せになりたかった。だけどな、いいんだ。お前が生きて、笑ってくれるなら、それで。
女神はしばらく沈黙していたが、彼女は俺と向き合ってくれた。そして、憂いを帯びた顔で何かを告げようとしていた。力になってくれるのか……?
――同情でもいいんだ。この際、何だっていい。彼女に逢いたいんだ。
――俺は力を得た。それから、彼女との結びつきも。
だから今はいい、これ以上深く考えないんだ――。
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