春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

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第一章

プロローグ――愛された日々

 ふわふわの手触り。撫でる手から伝わるのはぬくもり。モフモフの彼は、私に身を委ねてくれる。

 火がくべられた暖炉の炎が揺らぐ。外は大荒れの猛吹雪。でも、ここはとても静かで。なんだか別世界みたい。

 隣のモフモフが欠伸をしていた。体も伸ばして、私の足元でうずくまる。もう寝る体勢に入っていた。聞こえてきたのは寝息だ。フゴっとなったの、ふふ、聞こえたよ。

 ――僕は君の味方だっ! 
 うん、いつもありがとね。私だって君の味方だよ。

「……」

 未来が怖い。
 未来を迎えられるのかな私達に、未来は訪れてくれるのかな。

 怖いんだ。いつだってね、死ぬのが怖いの。
 怖いけど、それでも避けられなくて。いつだってそう。死は私を迎えにやってくるから。

「ぐっすりだね」

 私の味方でいてくれる、大切な君へ。君にね、教えてないことがあるんだ。

 君も知らない――私の最初の死。

 こんな時だけどね、そのことを思い浮かべてしまうんだ。私はね、あの頃に囚われているままなんだ。


 その日も雪が降っていた。



 ある一人の少女がいた。受験を控えていた高校生、皇 冬花。それが私の前世だった。

 前世の私は……学校の先生に恋をしていた。元担任でもある片桐先生。
 初めての恋、私を救ってくれた大恩人。

 私の高校生活は片桐先生一色だった。彼しか見えていない状況だったと思う。

 先生は卒業したら一緒になろうって、そう言葉にしてくれた。私はその言葉を信じ続けていた。

 ずっと秘密にしていた恋。卒業したらって、その日を待ち望んでいたのに――。



 春の雪。三月に降っていた雪。

  卒業式を迎えたのに、私たちは――最期を迎えることになっていた。



 血まみれになった二人に、悲鳴が上がる。屋上から転落した私たち、ああ、先生は無事……なの……?
 意識が遠のいていく……助からないのかな……ならばせめて。

『……かたぎり……せんせい』

 彼の、相手の名を呼んだ、呼びたかった。目は閉じられていく。視界には――。

『ああ……』

 目の前にいる彼は……すでに事切れていた。

 こんなはずじゃなかったのに。

 自分達は幸せになれるはずだったのに……ううん、そう思っていた、信じ続けていたのは私だけだったのかな。


 破綻していた関係だった……そうだね、溺れていたのは私だけ。私だけだったんだ。私は弄ばれてきたんだって、それが『事実』として散々つきつけられてきたのに。

 ねえ、先生。もういいんです。先生がどう思っていようと、私の思いはこうだから。
 先生だけでも幸せであって欲しかった。どうしようもなかった私を救ってくれた。誰からも慕われる彼だったのに。
 自分と出逢ったことにより、このような最期を迎えてしまった。

 私と出逢ってしまったから。

 後悔ばかりが残るけれど……なら、せめてものお願いを。

 自分と出逢わなければ良かった。もし、来世があるのなら。

 ――片桐先生と出逢うことはありませんように。

 その方が良いと思ったのもそう。私自身の問題でもあったの。

 また恋に溺れて――間違えてしまったなら。


「――っと」

 視線を感じる。モフモフは寝てたと思いきや、起きていたみたい。寝ていても、実際はすぐに起きられるんだっけ。私が気になったのかな、心配そうに見ていた。

 私はモフモフを持ち上げ、抱っこした。この感触がたまらない。モフモフはよじろいでいたかと思うと、落ち着いていた。私にすっぽり収まるよう、体勢を整えていたみたい。

「君はあったかいね」

 鼻を撫でると、今度はフガッ、だって。君は温かいな。

「……」

 そうだね、怖い。最初の死なんて、まともに覚えてないから。曖昧だからショックは少ない方だけど、感触だけは残っているから。その時の思いもそうだ。

「片桐先生」

 私と一緒に絶命した人。周りにはどうみえたのかな。思い出せないなりに、推察してみよう。

 生徒の自殺を止めようとして巻き込まれた? 邪魔になったので生徒を殺した? それとも、生徒の方が、憎しみのあまり殺したのかな――心中とも思われているのか。

「……やっぱり、思い出せない」

 今の私は――『皇冬花』ではないけれど。あの鬱屈としていたけど、平和だった日々とはいえないけれど。
 新たなる世界に転生して生きているんだ――この凍てつく世界で。
 
『――俺、もう止まらないんだ。君への愛が溢れ過ぎていて。……どうしようもなくて』

『ずっと。不思議だった。記憶にないはずなのにね。ずっと、ずっと。君が、他の奴と話すのを。他の奴から触れられるのを。他の奴を思うのを。ずっと、見てきて。ずっと、見せつけられてきて。ずっと、ずっと。ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと――』

『――と俺だけの世界でさ。ずっと二人だけ。ずっと、愛し合うんだ。ずっと、ずっとね――』

 ……『君』はずっと、そうだったね。そうだったんだ。

 恋に溺れること、のめり込むことを怖がる私だった。そんな私に、君は変わらず『ずっと』思いを抱いていたんだ……。

 君との未来を選んでいたなら……どうなっていたのかな。君となら幸せになれたのかな。
 選ばなかった私にはもう……知る由もないことだけど。

 ああ、吹雪は止み、朝日が昇るね。

 よし、行こう――君と対峙する為に。


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