春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

文字の大きさ
4 / 557
第一章

幼馴染がやってきた



「ねえ、シャーリー。俺、一番乗り?」

 私が店内で作業をしていたところに、客が入店してきた。青年は人好きのする笑顔で、前のめりに入ってくる。とてもご機嫌だった。

 青年はこの店の常連でもあった。私にとっても大切な存在だ。

 彼は生まれつきの茶色の癖毛を短めに良い感じに分けていた。黙っていると美しく整った顔も。

「おはよう、アルト。そうだよ。いらっしゃいませ」
「……今の、もういっかい、お願い!」
「おはよう、アルト?」

 挨拶すると、アルトはうんうん頷いている。

「ああ、そっちもいい! すっごくいい! でも、最後の方!」
「いらっしゃいませ?」

 やり直しでも要求されたのかと思った。より笑顔を意識してみた。

「ああ、いい……アンニュイな笑顔もたまんない……」

 アルトは破顔した。締まりのない顔になっていた。

「氷の微笑、いただきましたぁ……」
「……」
 
 なんで恍惚としてるんだろう……私が遠い目をしていると、アルトは不満そうにしてきた。

「いや、ほんとに。シャーリーのスマイル、氷の微笑って言われてるんだよ? 微かに笑うクールビューティスマイルだって! 難攻不落な氷の魔女とも!」

 クールビューティ……難攻不落……言葉のチョイスはアレとは思うけれど、無関係でもなかった。
 私、笑うのが下手なんだ。それに……感情を表現するのも。冷静であるように努めた方が、周りにとっても良いと思ってきた。

 とはいえ、商売しているわけだから。笑顔とかもうちょっと頑張ろう……。

「……シャーリーは頑張り屋さんなんだから。本当の君は、ね?」
「……アルト」

 目を細めて微笑んでくれる彼、なんだか見通されているようでドキリとしてしまった。
 でもそうだね。アルトはわかってくれているんだね、きっと。

 幼馴染である彼は、アルト・モルゲン。
 同じ孤児院出身、でも孤児院での付き合いはそれほど長くはなかった。アルトはすぐにもらわれていったからだ。良家に引き取られたあとも、遊びにきてくれたりと交流は続いていた。

「お薬だったよね? 治療薬? 痛み止め?」

 アルトは学生であると同時に、村運営の冒険者ギルドにも所属していた。学校の休日は魔物討伐で腕を上げているとのこと。休みの時には店も手伝ってくれている。
 今は私服だけど、学生時は制服。ギルド所属時は軽鎧か、エーデルギルドの所属服を着ている。どれを来ても様になるのってすごいよね。

「シャーリー? 俺に見惚れてた?」
「いいえ?」

 これみよがしに見すぎたかもしれない。否定しておこう。

「怪しいなぁ」
「怪しくない」
「やっぱ、怪しい。そうだったらいいのに」

 カウンター席に座り込んだアルトは、両手で頬杖をついていた。ニマニマしながら私を見てくる。

「俺はずっとそうだけどね。そりゃ――」

 アルトは言いかけて、やめた。その時の彼の表情は曇っていて……それは気がかりだったけれど。

「……ううん、何でもない。さあ、シャーリー? お薬ちょうだい?」

 今度はうつぶせになって、顔だけで見上げてきた。上目遣いまでしてくる……綺麗な顔でそれやられると……うん。

「……治療薬かな。痛み止めだと、限界知らずで働きそうだから」

 ううん、お仕事お仕事。薬品棚から見繕っていく。常連の彼が愛用している調合品だ。

「ううん、痛み止めもちょーだい。あと、滋養薬とか。精力剤でしょ、体力強化剤。それからそれから」

 アルトはまだまだ要求してきた。

「あとは、魔力増強剤!」
「あれ? 頼まれたの?」

 アルトが魔法を使えると聞いたことがない。誰かに頼まれたのかな?

「ううん。飲んでみたいなって。シャーリーがいつも飲んでるのを、さ?」
「……それ、飲む用じゃないからね。ばらまいて使うやつ」
「えー。飲んでみたかったなぁ。こう一気に色んなのと――」

 アルトは言いかけて、あ、と口を手にあてた。かなりわざとらしかった。

「ちょっとアルト。まさかだけど、まとめて服用はしないよね?」
「ううん、もうしない。痛い目みたから」

 アルトは過去の失敗談を思い出し、遠い目をしていた。いやいや……いやいや!

「最初からやらないで欲しいな。私、注意していたはずなのに。あと、体力強化剤も服用薬じゃないってば」

 というか、最初期から注意をしていたのに……。

「あ、ごめん。シャーリーがなんか説明してるなって。必死で可愛いなぁって。そっちに意識いって覚えてないわ」

 これだった。それはさておいて、アルトは続ける。

「そりゃさ、頑張りたくて。ほら、学生だけどさ。稼げるだけ稼いで。早く一人前になりたくて」
「うん、わかる。でも、最近オーバーワーク気味じゃない? 学校だってあるのに」

 アルトが通っているのは、王国認可の名門学校だ。学業をこなすのも大変だろうに、休日までギルド仕事をしているとなると。にこにこしている彼にも相当負担がいっているんじゃ?

「それなら。実質うちで働いてくれてるものだし。ちょっとだけどお給金とか」
「やだ、絶対にやだやだ。絶対に受け取らない」

 アルトは昔からこうだった。心苦しくなってお礼にと手渡そうとも、がんとして受け取らなかった。それはアルトの意地のようだった。

「もう。シャーリーはわかってないなぁ」
「うん、わからない」
「もう! そんなとこ、ほんとシャーリー! ……まあいいけど。俺さ、本当にお金が必要でさ。たくさん稼ぎたくて」
「うん……」

 アルトはそこまでして、お金が欲しいんだね。やはり給料は受け取ってほしい。本当に心配。

「――将来の夢の為に」

 アルトは上目遣いはそのまま、頬を紅潮させていた。自分でうっとりしている。

「アルト……」

 ――将来の夢。その発言に私はドキリとしてしまった。

感想 0

あなたにおすすめの小説

せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません

嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。 人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。 転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。 せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。 少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?

桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。 だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。 「もう!どうしてなのよ!!」 クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!? 天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?

社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。

天咲リンネ
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。 引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。 見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。 つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。 ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。 しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。 その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…? 果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!? ※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。

男女の友人関係は成立する?……無理です。

しゃーりん
恋愛
ローゼマリーには懇意にしている男女の友人がいる。 ローゼマリーと婚約者ロベルト、親友マチルダと婚約者グレッグ。 ある令嬢から、ロベルトとマチルダが二人で一緒にいたと言われても『友人だから』と気に留めなかった。 それでも気にした方がいいと言われたローゼマリーは、母に男女でも友人関係にはなれるよね?と聞いてみたが、母の答えは否定的だった。同性と同じような関係は無理だ、と。 その上、マチルダが親友に相応しくないと母に言われたローゼマリーは腹が立ったが、兄からその理由を説明された。そして父からも20年以上前にあった母の婚約者と友人の裏切りの話を聞くことになるというお話です。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

自称ヒロインに婚約者を……奪われませんでした

影茸
恋愛
平民から突然公爵家の一員、アイリスの妹となったアリミナは異常な程の魅力を持つ少女だった。 若い令息達、それも婚約者がいるものまで彼女を一目見た瞬間恋に落ちる。 そして、とうとう恐ろしい事態が起こってしまう。 ……アリミナがアイリスの婚約者である第2王子に目をつけたのだ。