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第一章
幼馴染がやってきた
「ねえ、シャーリー。俺、一番乗り?」
私が店内で作業をしていたところに、客が入店してきた。青年は人好きのする笑顔で、前のめりに入ってくる。とてもご機嫌だった。
青年はこの店の常連でもあった。私にとっても大切な存在だ。
彼は生まれつきの茶色の癖毛を短めに良い感じに分けていた。黙っていると美しく整った顔も。
「おはよう、アルト。そうだよ。いらっしゃいませ」
「……今の、もういっかい、お願い!」
「おはよう、アルト?」
挨拶すると、アルトはうんうん頷いている。
「ああ、そっちもいい! すっごくいい! でも、最後の方!」
「いらっしゃいませ?」
やり直しでも要求されたのかと思った。より笑顔を意識してみた。
「ああ、いい……アンニュイな笑顔もたまんない……」
アルトは破顔した。締まりのない顔になっていた。
「氷の微笑、いただきましたぁ……」
「……」
なんで恍惚としてるんだろう……私が遠い目をしていると、アルトは不満そうにしてきた。
「いや、ほんとに。シャーリーのスマイル、氷の微笑って言われてるんだよ? 微かに笑うクールビューティスマイルだって! 難攻不落な氷の魔女とも!」
クールビューティ……難攻不落……言葉のチョイスはアレとは思うけれど、無関係でもなかった。
私、笑うのが下手なんだ。それに……感情を表現するのも。冷静であるように努めた方が、周りにとっても良いと思ってきた。
とはいえ、商売しているわけだから。笑顔とかもうちょっと頑張ろう……。
「……シャーリーは頑張り屋さんなんだから。本当の君は、ね?」
「……アルト」
目を細めて微笑んでくれる彼、なんだか見通されているようでドキリとしてしまった。
でもそうだね。アルトはわかってくれているんだね、きっと。
幼馴染である彼は、アルト・モルゲン。
同じ孤児院出身、でも孤児院での付き合いはそれほど長くはなかった。アルトはすぐにもらわれていったからだ。良家に引き取られたあとも、遊びにきてくれたりと交流は続いていた。
「お薬だったよね? 治療薬? 痛み止め?」
アルトは学生であると同時に、村運営の冒険者ギルドにも所属していた。学校の休日は魔物討伐で腕を上げているとのこと。休みの時には店も手伝ってくれている。
今は私服だけど、学生時は制服。ギルド所属時は軽鎧か、エーデルギルドの所属服を着ている。どれを来ても様になるのってすごいよね。
「シャーリー? 俺に見惚れてた?」
「いいえ?」
これみよがしに見すぎたかもしれない。否定しておこう。
「怪しいなぁ」
「怪しくない」
「やっぱ、怪しい。そうだったらいいのに」
カウンター席に座り込んだアルトは、両手で頬杖をついていた。ニマニマしながら私を見てくる。
「俺はずっとそうだけどね。そりゃ――」
アルトは言いかけて、やめた。その時の彼の表情は曇っていて……それは気がかりだったけれど。
「……ううん、何でもない。さあ、シャーリー? お薬ちょうだい?」
今度はうつぶせになって、顔だけで見上げてきた。上目遣いまでしてくる……綺麗な顔でそれやられると……うん。
「……治療薬かな。痛み止めだと、限界知らずで働きそうだから」
ううん、お仕事お仕事。薬品棚から見繕っていく。常連の彼が愛用している調合品だ。
「ううん、痛み止めもちょーだい。あと、滋養薬とか。精力剤でしょ、体力強化剤。それからそれから」
アルトはまだまだ要求してきた。
「あとは、魔力増強剤!」
「あれ? 頼まれたの?」
アルトが魔法を使えると聞いたことがない。誰かに頼まれたのかな?
「ううん。飲んでみたいなって。シャーリーがいつも飲んでるのを、さ?」
「……それ、飲む用じゃないからね。ばらまいて使うやつ」
「えー。飲んでみたかったなぁ。こう一気に色んなのと――」
アルトは言いかけて、あ、と口を手にあてた。かなりわざとらしかった。
「ちょっとアルト。まさかだけど、まとめて服用はしないよね?」
「ううん、もうしない。痛い目みたから」
アルトは過去の失敗談を思い出し、遠い目をしていた。いやいや……いやいや!
「最初からやらないで欲しいな。私、注意していたはずなのに。あと、体力強化剤も服用薬じゃないってば」
というか、最初期から注意をしていたのに……。
「あ、ごめん。シャーリーがなんか説明してるなって。必死で可愛いなぁって。そっちに意識いって覚えてないわ」
これだった。それはさておいて、アルトは続ける。
「そりゃさ、頑張りたくて。ほら、学生だけどさ。稼げるだけ稼いで。早く一人前になりたくて」
「うん、わかる。でも、最近オーバーワーク気味じゃない? 学校だってあるのに」
アルトが通っているのは、王国認可の名門学校だ。学業をこなすのも大変だろうに、休日までギルド仕事をしているとなると。にこにこしている彼にも相当負担がいっているんじゃ?
「それなら。実質うちで働いてくれてるものだし。ちょっとだけどお給金とか」
「やだ、絶対にやだやだ。絶対に受け取らない」
アルトは昔からこうだった。心苦しくなってお礼にと手渡そうとも、がんとして受け取らなかった。それはアルトの意地のようだった。
「もう。シャーリーはわかってないなぁ」
「うん、わからない」
「もう! そんなとこ、ほんとシャーリー! ……まあいいけど。俺さ、本当にお金が必要でさ。たくさん稼ぎたくて」
「うん……」
アルトはそこまでして、お金が欲しいんだね。やはり給料は受け取ってほしい。本当に心配。
「――将来の夢の為に」
アルトは上目遣いはそのまま、頬を紅潮させていた。自分でうっとりしている。
「アルト……」
――将来の夢。その発言に私はドキリとしてしまった。
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