春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

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第一章

普通の幼馴染


 アルトとの付き合いは本当に長い。子供の頃から一緒だったから。そんな彼はよく口にしていた。

『おれの将来の夢はね、シャーリーと結婚すること!』

 ……わりと頻繁に。息を吐くかのように可愛いだの好きだの言ってきたアルト。
 昔はいちいち本気にとって赤面していた。一時期は本当にそうなのかと思い始めていた。でもね。

「……」

 私はある場所に意識を向けた。そこは、自分の顔の左にあるこめかみ――今でも消えない傷跡があった。普段は前髪で隠れているし、目立つほど大きくもない。
 その傷跡をいつまでも気にしているのがアルトだった。彼は、幼少期に自分がつけてしまったと。それで責任を感じているとのことだった。

 私はいうと……その傷に関する記憶が曖昧だった。魔物に襲撃されて……くらいの記憶。アルトが関与していたかどうかさえ、本当に覚えてなくて。ただ……。

『おれ、責任とるから……!』

 意識を取り戻した後に、青褪めた顔をしたアルトにすごく謝られて。悲しそうで辛そうな顔をしていて……こっちまで辛くなってきた、だからかな。

『アルトのせいじゃないよ。責任とらなくていいよ』
『……!』

 私のことで思い詰めないでって、そういうつもりだった。だけど……アルトはもっとショックを受けていたような――その次の日には元気になっていたけど。
 何事もなかったかのように、そんな感じだった。

 ……何事もなくなった、ともいえた。成長するにつれて、可愛いだの好きだの……そういう言葉は言わなくなったから。

 アルトは今でもこうして顔を出してくれたり、力になってくれたりもする。
 普通の幼馴染として接してくれている。

 ねえ、アルト。私にとっても君は大事な幼馴染だよ。私だって力になりたいんだ。

「お金稼ぎたいのはわかった。せめて割引くらいしかできないけど」

 アルトは頑張っているし……無理をしているのもわかっていた。こうして身内価格で割り引くくらいしか出来ない。

「応援しているよ。ただし、無理は禁物」
「わーい、応援されちゃった。無理もしませんて!」
「うん。自分の為でも、誰かの為でも。頑張ってるんだから」
「……ふーん」
 アルトは口を尖らせた。あれ……返答を間違えた?

「……シャーロットはさ、いっつもそう。他人事なんだから」

 へらへら笑っていたアルトの表情が変わる。立ち上がった彼は、無断でカウンター内に入ってきた。冷ややかな彼の顔を見て、私は後ずさろうとするも、左手を掴まれてしまう。
 アルトが視線を注ぐのは、私の左手薬指だ。
 私に生まれつきあるのは、氷の魔法の力。そして。
 ――この薬指にある指輪だった。

「――こんなもん、こうだ!」
「あ!」

 アルトは指輪を抜き取ると、直後カウンターを片手でついて飛び越えた。店の扉を開けると、力任せに――指輪をぶん投げた。
 剛腕のアルトによって、指輪は遠く遠くへと飛んでいった。反応が遅れてしまった私、店を出る頃には……姿を完全に見失ってしまっていた。

「アルトォ……?」
「すんっ」

 口で言うことでもなくない……? アルトはすんっとした態度だった。ああ、とんでも行動にわなわな震えてきた……!

「どうせ、戻ってくるだろ……ほら」
「あ」

 私が手をかざすと、薬指にすぽっと何かがハマった。それは、ぶん投げられた指輪だった。

「もう、アルト……! 戻ってきてくれたから良かったけど……」

 安心し、胸を撫でおろした。収まるところに収まってくれた感覚だった。『もう、だってさ』って、なんか悶えてるけど……君はなにしてくれたのかなぁ、アルト?
 って、私が恨みがましく見ているのに。アルトはまだ不服があるようで。

「シャーリーさあ? それ、絶対に呪いのアイテムだって。こわくない? ずっと、ジャストサイズなんだよ? 君が子供のから今までずっと! 何度も何度もぶん投げても、こうやって戻ってきてさ!?」
「何度もぶん投げないの」
「うはっ、シャーリーに怒られた!」

 どこか嬉しそうなアルト。理解に苦しむなぁ……にしても、指輪か。これもまた生まれた時からあったものだった。
 いつの間にあったものなので、確かに謎のアイテムだった。それはそう。アルトがしきりに処分しなよ、せめて解呪しなよと言ってくるのも……実はわかる。ちなみに解呪は効果がなかった。

「安心するんだよね」
「え、まじで言ってる?」

 指輪といえばあまり良くない思い出だけど。これが私にもたらしてくれるのは安らぎだった。

「……面白くないけどね。まあ、シャーロットがいいならいいか」

 納得のいかなさをアルトは隠しもしない。笑顔にはなったようで。

「さて、お店に戻ろっか。お客さんもそろそろ来るだろうし」
「そうだね、アルト」

 二人が店内に戻ると、数名客が待っていた。

「すみません! お待たせしました」

 気の良い常連客さんたちは気にせず、笑ってくれた。本当に有難い、急ぎ仕事に戻らないと!

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