春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

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第一章

教師と生徒とか


「――シャーロット・ジェム」
「!」

 急に名を呼ばれて、私は驚いてしまった。

「……」 

 ただ名を呼ばれただけなのに、こうも心が反応するの、してしまうの?

「どうした? お前はそうじゃないのか?」
「……失礼しました。合ってます」

 黙ってしまったのを、相手が気にしているようだった。そう、今はシャーロット・ジェムだ。私は笑顔で返事をすることにした。うまく笑えていたかはわからない。

「お前の件は承知している。俺はアインスト・モルゲンだ。高等部の教師をしていて、アルトの兄でもある」
「はい。私はシャーロット・ジェムと申します」
「……わかった。よろしく頼むな」

 お兄さん……ううん、先生だよね。先生はしばらくこっちを見たあと微笑んだ。

「先生、そちらの件ですが……」

 よろしくと言われた。言いづらい、それでも正直に話さないと。

「まだ、入学を決めきれていないんです」
「どうしてだ? 悪い話じゃないだろ?」

 先生は目を丸くしていた。とても意外そうにしていた。
 うん、悪い話じゃない。それでいて即決できる話ではない。学園に通うとなると、店のことが疎かになってしまうから。

「あーあ、先生はわかってないなー。シャーリーは自分の店が大事なんだよ」

 恐怖状態から復活したアルトが、マウントをとってきた。さぞ知らないだろうと。

「ああ。お前の店は存じているよ。そこは考慮している。というか、彼女の店でもあるけど、オーナーがいらっしゃるんだろ?」

「ぐぬぬ……なんで知ってるんだよ、こわ……」
「怖いとか言うなよ……」

 先生、ご存知だったんですか。アルトはアルトで不満そうにしていた。うん、教師として調べたに過ぎないとは思うよ。

 私の店にはオーナーがいた。やむを得なく休む時など、そのオーナーさんが入ってくれていたりする。『現役の頃を思い出すねぇ』と笑いながら。といっても、甘えるわけにはいかないから。私はやっぱりお店のことを考えるとなると……。

「やることさえちゃんとやってくれていれば、放課後や休日開業してくれていい。寮も強制ではないからな。自宅から通いでも問題ない」
「いいんですか……?」
「学業を疎かにしなければな」

 学園側は事情を考慮してくれたようだった。さらにこうも提案してきた。

「お前が迷っているというなら、もっと知ってもらうまでだ。明日は、まだ休日か。店が終わってからでいいよ。校舎の案内をさせてくれないか?」
「はあ!? いや、そんなん俺でしょ! 俺の役目でしょ!」

 私が返事をするより早く、アルトが割って入ってきた。立候補もしてきた。

「謹慎三日」
「ぐはっ!」

 ぼそっといった先生に、アルトは多大なダメージをくらわされた。

「なんの……何が何でも抜け出してやる。シャーリー、待ってて……!」
「アルト。そこはちゃんとしよう?」
「がはっ!!」

 アルトはトドメをさされた……?

「あの、お忙しいでしょうから。私、許可さえいただければ一人でも。もちろん、お声がけはちゃんとしますから」

 入学前に校舎を見て回れるのは良い機会だと思う。といって、教師という忙しそうな立場の人に、時間を割いてもらうこと。それは気がひけていた。

 それもあるけど……建前感もあるかも。私の本音はというと――この人と行動を共にするののは、といったものだった。私の心情的に……。

「案内するといったらする。野放しにする方がまずい。俺の責任問われるからな」
「確かにそうですね……」 

 私は見学する側だ。失礼がないように教師がついていた方がいいんだ。うん、そうだよね。

「……つかさ。この教師、必死じゃない? なに、そんなに一緒に回りたいの? まさか惚れた? 狙ってる!?」

 復活が早いアルトがぶっこんできた。淫行教師はやめて、と私は目で圧をかけてみた。アルトはすっと目をそらした。対抗策を練ってくるとは……。

「はははっ」

 笑いだしたのは教師である彼。何事かと私たちは反応した。

「教師と生徒とか……はは、ないだろ」

 そう言った彼は。笑いながらも――淀んだ目をしていた。

「ま、普通の教師はそうだよね。あー、淫行教師じゃなくて良かった。あ、でも俺が教師だったとしたら……うん、そうだな。相手をどうしても好きになったら、かな?」
 教師として兄は当然のことを言っていると。それがわかった上で、アルトは個人的な意見を述べていた。こっちをチラチラ見ながら?

 でも私は……そうではない。胸に突き刺さってしまっていた。

 ――教師と生徒とか……はは、ないだろ。

 片桐先生に実際に言われている気がしてならなかった。冬花の頃の記憶が苛んでくる。

「……シャーロット? 顔色悪いよ?」
「ううん、大丈夫」

 アルトは心配そうに顔を傾けてきた。そうだよね、何事かと思うよね……しっかりしなくちゃ。

「貴重なお時間の中、感謝いたします。極力ご負担かけないようにしますので。よろしくお願いします」

 私は深々と頭を下げた。同じ教職だろうと、さすがに赤の他人だって。私自身もそう考えたかった。相手が教師と生徒って、線を引いているなら尚更だ。

「ああ、よろしくな」
「はい」

 うん、顔を上げよう。そこにあるのは、穏やかな笑顔。教師としての顔……うん。

「あー……シャーリー? コイツの魔の手が迫ったら俺を呼んでね? 駆けつけるから」
「謹慎の身で?」
「あー、うるさい。そんなんどうとでもなるっての……じゃ、いこっか」

 同じ手は食わないと、アルトは得意げだった。その流れで私の腕をとった。

「……おい、謹慎処分」

 謹慎処分もといアルトが、私をどこかへ連れていこうとしている? さすがに先生も指摘してきた。

「残念でしたー。俺の謹慎は明日からですー。普通にこの子を寮に連れてくだけだよ。もう寮の準備できてるんでしょ? できてなくても、女子寮の人にお願いするだけだし」

 私は吹雪の中帰る覚悟はあったけど、アルトはそうはさせないと。彼は女子寮で一夜を過ごすことを提案してきた。

「……それは、まあ」

 それは先生も納得していた。

「ほらほら、シャーリー! 君だって心配してくれてたじゃんかー。俺だって同じなんだってー」
「それはそうだけど……」
「ほらほらー」
「それじゃ……お世話になろうかな」
「おっしゃ!」

 私には遠慮する気持ちは残っていたけど、アルトの力押しでお世話になることに。

「じゃあ、そういうことで! いこ、シャーリー」
「うん、お願い……あの、ありがとうございました」
「俺のシャーロットの為にありがとね、兄貴?」
「……俺の?」
「……。ほらほらー、いいからいいからー」

 いいからーと、アルトに腕を引っ張られていってしまう。残された男性に会釈をして、その場を去っていった。
「……シャーロット・ジェム、か」
 男性は呟いた。
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