12 / 557
第一章
教師と生徒とか
「――シャーロット・ジェム」
「!」
急に名を呼ばれて、私は驚いてしまった。
「……」
ただ名を呼ばれただけなのに、こうも心が反応するの、してしまうの?
「どうした? お前はそうじゃないのか?」
「……失礼しました。合ってます」
黙ってしまったのを、相手が気にしているようだった。そう、今はシャーロット・ジェムだ。私は笑顔で返事をすることにした。うまく笑えていたかはわからない。
「お前の件は承知している。俺はアインスト・モルゲンだ。高等部の教師をしていて、アルトの兄でもある」
「はい。私はシャーロット・ジェムと申します」
「……わかった。よろしく頼むな」
お兄さん……ううん、先生だよね。先生はしばらくこっちを見たあと微笑んだ。
「先生、そちらの件ですが……」
よろしくと言われた。言いづらい、それでも正直に話さないと。
「まだ、入学を決めきれていないんです」
「どうしてだ? 悪い話じゃないだろ?」
先生は目を丸くしていた。とても意外そうにしていた。
うん、悪い話じゃない。それでいて即決できる話ではない。学園に通うとなると、店のことが疎かになってしまうから。
「あーあ、先生はわかってないなー。シャーリーは自分の店が大事なんだよ」
恐怖状態から復活したアルトが、マウントをとってきた。さぞ知らないだろうと。
「ああ。お前の店は存じているよ。そこは考慮している。というか、彼女の店でもあるけど、オーナーがいらっしゃるんだろ?」
「ぐぬぬ……なんで知ってるんだよ、こわ……」
「怖いとか言うなよ……」
先生、ご存知だったんですか。アルトはアルトで不満そうにしていた。うん、教師として調べたに過ぎないとは思うよ。
私の店にはオーナーがいた。やむを得なく休む時など、そのオーナーさんが入ってくれていたりする。『現役の頃を思い出すねぇ』と笑いながら。といっても、甘えるわけにはいかないから。私はやっぱりお店のことを考えるとなると……。
「やることさえちゃんとやってくれていれば、放課後や休日開業してくれていい。寮も強制ではないからな。自宅から通いでも問題ない」
「いいんですか……?」
「学業を疎かにしなければな」
学園側は事情を考慮してくれたようだった。さらにこうも提案してきた。
「お前が迷っているというなら、もっと知ってもらうまでだ。明日は、まだ休日か。店が終わってからでいいよ。校舎の案内をさせてくれないか?」
「はあ!? いや、そんなん俺でしょ! 俺の役目でしょ!」
私が返事をするより早く、アルトが割って入ってきた。立候補もしてきた。
「謹慎三日」
「ぐはっ!」
ぼそっといった先生に、アルトは多大なダメージをくらわされた。
「なんの……何が何でも抜け出してやる。シャーリー、待ってて……!」
「アルト。そこはちゃんとしよう?」
「がはっ!!」
アルトはトドメをさされた……?
「あの、お忙しいでしょうから。私、許可さえいただければ一人でも。もちろん、お声がけはちゃんとしますから」
入学前に校舎を見て回れるのは良い機会だと思う。といって、教師という忙しそうな立場の人に、時間を割いてもらうこと。それは気がひけていた。
それもあるけど……建前感もあるかも。私の本音はというと――この人と行動を共にするののは、といったものだった。私の心情的に……。
「案内するといったらする。野放しにする方がまずい。俺の責任問われるからな」
「確かにそうですね……」
私は見学する側だ。失礼がないように教師がついていた方がいいんだ。うん、そうだよね。
「……つかさ。この教師、必死じゃない? なに、そんなに一緒に回りたいの? まさか惚れた? 狙ってる!?」
復活が早いアルトがぶっこんできた。淫行教師はやめて、と私は目で圧をかけてみた。アルトはすっと目をそらした。対抗策を練ってくるとは……。
「はははっ」
笑いだしたのは教師である彼。何事かと私たちは反応した。
「教師と生徒とか……はは、ないだろ」
そう言った彼は。笑いながらも――淀んだ目をしていた。
「ま、普通の教師はそうだよね。あー、淫行教師じゃなくて良かった。あ、でも俺が教師だったとしたら……うん、そうだな。相手をどうしても好きになったら、かな?」
教師として兄は当然のことを言っていると。それがわかった上で、アルトは個人的な意見を述べていた。こっちをチラチラ見ながら?
でも私は……そうではない。胸に突き刺さってしまっていた。
――教師と生徒とか……はは、ないだろ。
片桐先生に実際に言われている気がしてならなかった。冬花の頃の記憶が苛んでくる。
「……シャーロット? 顔色悪いよ?」
「ううん、大丈夫」
アルトは心配そうに顔を傾けてきた。そうだよね、何事かと思うよね……しっかりしなくちゃ。
「貴重なお時間の中、感謝いたします。極力ご負担かけないようにしますので。よろしくお願いします」
私は深々と頭を下げた。同じ教職だろうと、さすがに赤の他人だって。私自身もそう考えたかった。相手が教師と生徒って、線を引いているなら尚更だ。
「ああ、よろしくな」
「はい」
うん、顔を上げよう。そこにあるのは、穏やかな笑顔。教師としての顔……うん。
「あー……シャーリー? コイツの魔の手が迫ったら俺を呼んでね? 駆けつけるから」
「謹慎の身で?」
「あー、うるさい。そんなんどうとでもなるっての……じゃ、いこっか」
同じ手は食わないと、アルトは得意げだった。その流れで私の腕をとった。
「……おい、謹慎処分」
謹慎処分もといアルトが、私をどこかへ連れていこうとしている? さすがに先生も指摘してきた。
「残念でしたー。俺の謹慎は明日からですー。普通にこの子を寮に連れてくだけだよ。もう寮の準備できてるんでしょ? できてなくても、女子寮の人にお願いするだけだし」
私は吹雪の中帰る覚悟はあったけど、アルトはそうはさせないと。彼は女子寮で一夜を過ごすことを提案してきた。
「……それは、まあ」
それは先生も納得していた。
「ほらほら、シャーリー! 君だって心配してくれてたじゃんかー。俺だって同じなんだってー」
「それはそうだけど……」
「ほらほらー」
「それじゃ……お世話になろうかな」
「おっしゃ!」
私には遠慮する気持ちは残っていたけど、アルトの力押しでお世話になることに。
「じゃあ、そういうことで! いこ、シャーリー」
「うん、お願い……あの、ありがとうございました」
「俺のシャーロットの為にありがとね、兄貴?」
「……俺の?」
「……。ほらほらー、いいからいいからー」
いいからーと、アルトに腕を引っ張られていってしまう。残された男性に会釈をして、その場を去っていった。
「……シャーロット・ジェム、か」
男性は呟いた。
あなたにおすすめの小説
せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません
嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。
人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。
転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。
せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。
少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。
【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?
桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。
だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。
「もう!どうしてなのよ!!」
クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!?
天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?
社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。
天咲リンネ
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。
引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。
見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。
つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。
ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。
しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。
その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…?
果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!?
※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。
男女の友人関係は成立する?……無理です。
しゃーりん
恋愛
ローゼマリーには懇意にしている男女の友人がいる。
ローゼマリーと婚約者ロベルト、親友マチルダと婚約者グレッグ。
ある令嬢から、ロベルトとマチルダが二人で一緒にいたと言われても『友人だから』と気に留めなかった。
それでも気にした方がいいと言われたローゼマリーは、母に男女でも友人関係にはなれるよね?と聞いてみたが、母の答えは否定的だった。同性と同じような関係は無理だ、と。
その上、マチルダが親友に相応しくないと母に言われたローゼマリーは腹が立ったが、兄からその理由を説明された。そして父からも20年以上前にあった母の婚約者と友人の裏切りの話を聞くことになるというお話です。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
自称ヒロインに婚約者を……奪われませんでした
影茸
恋愛
平民から突然公爵家の一員、アイリスの妹となったアリミナは異常な程の魅力を持つ少女だった。
若い令息達、それも婚約者がいるものまで彼女を一目見た瞬間恋に落ちる。
そして、とうとう恐ろしい事態が起こってしまう。
……アリミナがアイリスの婚約者である第2王子に目をつけたのだ。