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第一章
兄貴ならいいの
アルトに連れてこられて学園の裏口へ。脱走常習犯の彼はそこから出入りしているという。専用の鍵があるはずだけど、彼は難なく解除していた。偽造だね、これは。
「……アルト」
この問題児をじいっと見ていた。
「うう、視線が痛い……反省します、反省しますから」
アルトは頭を抱えていた。私は溜息をついたあと、話すことにした。
「……うん、まあ。それもだけど、アルトが危ない事に突っ込まなきゃいいなって。ただでさえ、ギルドのこともあるし」
「ああ、シャーリーが心配してくれてる……いいんだよ、俺が好きでやってるから。あと、問題児とか言われてはいるけど。でもね! 誰かを殴ったりはしてないから」
「うん、そこは信じてる」
私ははっきりと答えた。アルトが訳もなく誰かに暴力をふるうことはない。そこは信じられるところだった。
「ああ、シャーリー……!」
感極まったのか、アルト……またしても抱きつこうとしている!? 私はなんとか躱したけど! 単なるじゃれつきだろうと、こっちは抵抗もあるわけで……!
「もう、さっきからどうしたっていうの」
何かとスキンシップをはかってくるので、困惑しか。アルトはいつもみたくニヤニヤしているかと、そう思っていたのに――。
「――兄貴ならいいの」
「え……」
暗い表情だった。突然の指摘でもあった。
「シャーロットはさ、兄貴の知り合い? 初めて会ったって感じじゃなかった」
「……それは」
その指摘は鋭かった。私はどう答えたらと、答えに惑っていた。
いくら春の女神の伝承があったとしても、あの人が片桐先生の生まれ変わりだと結びつくもの? 仮にそうだったとしても、そうでなくとも。アルトに言うことでもない。
私はは器用に嘘をつけるタチではない。といって、馬鹿正直にも言えない。嘘とも言えない範囲で話すことにした。
「知り合いにね、似てるかもって。でも多分違うと思う。むしろ、アルトのお兄さんというインパクトの方が強いというか」
「……本当?」
「本当。これは信じて」
「これは、って」
言葉尻を拾われてしまったかな。まずったかも。
「シャーロットはさ、兄貴のこと好きってわけじゃないよね。違うよね?」
「……うん」
「今の間……それにしてはさ。悲しそうな顔。アイツの言葉にいちいち傷ついている顔……本当になんなの」
「!」
どこまでも鋭いの。アルトが元々人の機微がわかる子だからかな。そうでなければ――。
「……俺のシャーロットなのに」
「……アルト?」
アルトは目を伏せていた。いつもの明るい顔はどこにもいない。
俺のって……さっきも言ってたよね?
「……なんでもない。あ、ほら見て?」
アルトが指したもの――学園の広場にある女神像だった。長い髪に花の冠を戴く美しい女性。服の質感も本物のようだけど、これが石像というから驚き。
――春の女神の像だ。
私が知る限りでは、都の中央広場にあるものだった。学園にあるものよりも、一回り二回りは大きいものであった。造りもほぼ一緒、異なる点といえば。
前に差し出す手が異なること。都にある方が左手なら、こちらにあるのは右手だ。
「なんか、対になるように造られたんだって。俺もよくわかんないけど」
「……アルト」
アルトが普通に話しかけてきた。話の調子もいつもの彼だ。
「なんだろ。女神サマの前だからかな、こう、悪さは出来ないというか」
「なるほど。うん、わかるかも」
それは私にもわかる気がした。この像も本物だ。厳かな気持ちをもたらしてくれる。
「――っと、冷えるよね。女子寮こっちこっち」
このまままっすぐに進むと高等部みたい、今は用はないと。十字路の右側を進んでいき、女子寮を目指すこととなった。
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