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第一章
冬花の記憶――教師との恋②
エレベーターは目的の階へと着いた。そのまま彼の住んでいる部屋へ。
彼の部屋のドアは閉められ、鍵をかけられた。今は、二人だけ――人目も気にしなくていい。
彼をこうして抱きしめられる。
「……先生、逢いたかったです」
学校の先生である彼を。彼の胸元に顔だって寄せて。
「ああ、俺もだ」
彼、片桐先生も抱きしめ返してくれた。背中も撫でてくれている。
片桐先生。うちの高校の教師で元担任だった人。
私たちは生徒と教師の関係。それでいて、たまに二人で逢っている関係でもあった。
「……体、冷え切ってるな。無理して来てくれたんだろ?」
迎えにいければ、って。
「いいえ、お気持ちだけで。私が逢いたかったから」
こうして休みの日に逢えるってだけで、私は嵐の中だろうとなんだろうと。来られるんですから。
先生は小さく『……そうか』とだけ。私はそれでも良かった。それで良いの。だから先生も気になさらないでください。
「……先生、片桐先生」
「ん」
相手は教師、だけど私の好きな人。何度だって呼びたくなる。そう、彼の名を―。
「……」
私は彼の下の名を呼ぼうとしたけれど……止めた。ちょっとそこまでの勇気もなかったから。拒まれたらと思うと怖くもなったから。
「……片桐ちゃん?」
ならば、『片桐ちゃん』って。彼が生徒から親しみを込めて呼ばれているものだった。私もそう呼んでみたかったんだ。
「おいおい、お前までもかー?」
「はい、呼んでみたかったんです」
「……まったく」
楽しくなってきた私を先生は呆れながらも、強く抱きしめた。
「!」
お、驚いた。それだけじゃない、彼は耳元で話しかけてくる。
「よく笑うようになったな」
「片桐先生……」
私は瞳を閉じて幸せに浸っていた。
はい、先生。こうしていられるのも。笑えるようになったのも、先生と出逢えたから。
先生が担任だった頃。当時の私は両親とも上手くいかなくて。幼馴染や友達とも疎遠にもなっていましたよね。一人ぼっちで頑なでもあった私でした。
そんな私を気にかけて――溶かしてくださったのは、先生でした。
芽生えていたの恋心。相手は教師だとしても、私の想いは止むこともなく。先生を想い続け、彼もついには――その想いを受めてくださって。
『――お前が卒業したその日。一緒になろう』
――春になったら。
私たちは幸せになれる。私は信じてきたんです。
こうして二人で逢えるのも、卒業まではお預けなんですよね?今日だってぎりぎりだったくらい。卒業するまでの我慢ですよね?
「まずは冷えてるよな。上がってくれ。俺は飲み物用意してくる。いつもの紅茶でいいよな」
「それじゃ、私に淹れさせてください」
「ここまで大変だっただろ? エアコンつけとくな」
先生はそっと体を離すと、エアコンのリモコンを探していた。あ……離れちゃった。
「っと、ここか。アドバイス、ありがとな?」
「いえいえ」
収納箱からリモコンを取り出した。こうして収納場所に収納してかないと、彼はすぐどこか物をやってしまう……そういうところ、可愛い。
「先生。そばで見させてください。先生がそうしている姿も……好きだから」
台所に行ってしまう。私は彼についていき、体を寄せて近づいた。
先生が紅茶を淹れている姿、好きなの。学校では見られない姿……独占できるから。
「!?」
先生は……手にした食器を落としかけた。手を滑らせたのかな?
「いつものしっかりした先生も。明るく笑っている先生も。そんな先生が、家ではちょっと。ううん、わりとだらしなくて。しょっちゅう、物を失くしたりもするけど。そんなところも好き」
「おいおい……?」
いつもはこうも明言したりしない。先生が戸惑うのもわかる。でも、止められなかった。
「片桐先生がいてくれたから、私は笑えるようになりました。先生、好きです。大好き」
「……」
「好きです」
私は伝え続けた。先生は何も言わない。彼は無言で準備にとりかかっていた。
「先生……」
片桐先生が好きだと言ってくれたのは、想いが通じた日だけ。それ以降はない。身体的接触も抱きしめ合うくらいで、それ以上のこともない。
「……いいんです」
それでも良かった。自分達は大っぴらには出来ない関係だから。たまにだろうと、こうして彼を独占も出来るんだから。
私は幸せだった。
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