春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

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第一章

足元に、モフモフ


 まずは近場にある寮についてだった。女子寮と男子寮の説明は受けつつ。その中央奥にある、より立派な建物も先生から教えていただいた。

「ああ、あそこは迎賓館みたいなもんだ。学園のお偉いさんが使ったり、ゲストを招いたり。一部の寮生も住んでいる。教師の俺が言うのもなんだが、特別扱いでもあるな」
「へえ、そうなんですね……」

 造りが立派過ぎることもあり、私は見惚れてしまっていた。

「寮の説明はこのへんでいいか。しっかり者の寮長が説明してくれただろうしな。シャーロット、次行こうか」

 先生に呼ばれた。ぼうっとしていた、急がないと――と同時に、足を滑らせてしまった。

「ひゃっ」
「おっと。気をつけろよ」

 転倒しかけた私を……モルゲン先生は軽々と右腕で抱えた。ひょいと私を起こす。

「すみませんでした――」

 私は先生を見ようとした、その時だった。

「!?」

 私はハッと後ろを振り返った――刺すような視線がした。

「あ……」

 周囲にも目撃者はいるけれど、教師モルゲンの人助け程度の認識だ。教師が生徒を助けた、その程度だ。

「そう、そうだよ……」

 私が思わずにはいられないのは――やっかみの感情によるものか。モルゲンに思いを寄せている生徒が、自分を敵視しているのだろう。私はそう思っていた、思うことにした。思い込みかもだけど。

「……はい、気をつけます」

 先生に返事をしつつも、ちらりと後ろを振り返る。

 その視線はもうなかった。





 この中央広場は昨日も訪れたもの。
 女神像は今日も美しい。私は神聖さに手を合わせた。昨日もそうしたかったな。

「女神様……」

 この国において、春の女神信仰は根付いている。生まれ変わりの伝承も多々あるけど、春の女神様が担っているのは――名前の通り、春。春をもたらす女神様。

 冬に覆われたこの国も、春の女神の御力によって――春がもたらされるという。

「――へっへっへっ」
「……ん?」

 足元で声がする。何かの呼吸の音? ちょっと荒めだった。なんだろ、薄目で下を見てみると。

「……ワンコ?」

 前世の世界で例えるなら、ポメラニアンかチワワか。ううん、若干異なる出で立ちだった。三角耳はピンと立っており、体中が毛で覆われていた。いうならば――モフモフしていた。

「この子……」 

 愛らしい姿だけど、汚れていた。かなりの黒ずみ。いくつか包帯が巻かれていた。傷を負うだけの仕打ちも受けているということ……?

「ねえ、君――」
「!」

 隣りに立っていた存在が、体をびくっと震わせた。私が二の句を告げる前に、足を揃えて走り去っていった。さすがの早足、姿はもう見えなかった。

「――ああ、そいつな。最近見るようになった野良犬だ」
「野良犬なんですね。保護されるといいな……」

 人にも慣れてないよね、心配せずにはいられない。

「……だな。こっちも色々手を尽くしてるんだけどな」
「それって」

 もしかしたら、あの手当も先生によるものではないかと。彼からは決して自分がやったとは言わない。それも想像できた。

「アルトがどこまで説明したかはわからないけどな。この春の女神像は本物だ。対にもなっているんだ。とても重要なものだ」
「はい」
「ああ、そうだ。我が国が春を迎えるにあたって、必要不可欠だ。この二体があってこそ、成立するんだ」
「……はい」

 この国で暮らしてきたのに――初耳だった。返事だけはしておこう、気になるところはあっても、時間をとらせるのも気がひけたから。

「お前、本当にいいのか? 質問、受け付けるぞ?」
「それは……」

 先生は察してくださったの? それでも、遠慮の気持ちが勝ったから質問することはなかった。先生は今はそれで良しとして、次の場所に案内することにしたようだった。

「よーし、よし。今は、な? 今日はまだ案内したいところあるしな? 今度時間がある時にでも、じっくり聞かせてやろうじゃないか」

 話したい欲が治まったわけではなかった。先生はとことん語りたいようだった。

「モルゲン先生って、もしかして」
「ん? なんの教科だと思うか?」
「歴史、ですか?」
「ご名答だ。伝承大好き人間だ」

 私の頭をぽんぽんとすると、今度こそ次の場所。運動場へと足を向けた。

「……」

 頭に感触が残り、消えてくれない。どこまでも子供扱いなのかな……初等部限定のそれを、やってくれるなんて。私の胸中は複雑も複雑だった。

「……私、初等部じゃないけどな」
「ああ、わかってるよ」
「先生!?」

 うっかりと呟いてしまった言葉は、しっかりと拾われてしまっていた。心臓に悪かった。


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