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第一章
女帝と側近
最上階に着くと、目についたのは学園長室だった。
「今回の推薦の件もそうです。お忙しいとは思いますが、ご挨拶したいです」
私は挨拶にあがりたいと提案してみるも。
「ああ、まあな……ただな、学園長はお忙しくて、だな」
先生に不在と返されてしまった。挨拶自体も厳しそうで、いずれ機会を設けると先生が約束してくれた。
「――さて。あいつら活動しているかな」
最奥にある部屋が、最終目的地なの? 扉のプレートにはこう書かれていた――学園自治委員会と。
「シェリア、いるか?」
女生徒の名前? 先生は扉を叩いた。
「はい。モルゲン先生ですわね――今、向かわせますわ」
品の良さそうな女子生徒だった。目当ての女子生徒が在室のようだった。
「ごきげんよう、モルゲン先生――そちらのご婦人は、編入生の方でしょうか」
シェリアさん、という女性ではない声。低音の男性の声だった。
女子生徒の指示により、出迎えてくれたのは理知的な男子生徒だった。若干短めの前髪を斜めに流した、切れ長な目が印象的な涼しげな青年。
この人もそう、奥に座っている女生徒もそうだった。厚手素材の詰襟の制服を着ていた。
「自治委員会の制服はな、特別なんだ」
先生がこっそり教えてくれた。特別……なるほど。
「業務中悪いな。紹介したい子がいてだな」
「ええ、存じてます。初めまして、選ばれし方? わたくしは、シェリア・カイゼリンよ」
内側に巻かれた髪に華やかな顔立ちの少女。彼女は玉座そのものの椅子で優雅に構えていた。
柔らかな物腰ながらも、瞳からは強い意志を感じる。
「……」
私は圧倒されていた……沈黙もしてしまう。ああ、周りからの視線が集中してしまっている。
モルゲン先生の心配そうな視線。優雅ながらも観察しているシェリアさんからの視線。そして――。
「……」
「……」
なんだろ……この人すごく見てくる。シェリアさんの命に従ってた人、すごい威圧感感じる……背が高いのもあるけど。私はあまり汗をかかない体質だけど、冷や汗かきそう……。
「……」
「……」
なんだろ、本当にどうしたんだろう。ううん、いつまでもこうしてはいられない。ちゃんとしよう。
「初めまして。私は、シャーロット・ジェムです。シェリアさん、よろしくお願いします」
私が挨拶をすると、シェリアさんは笑んだ。とても良い人そうだと思っていた矢先。
「――カイゼリン様でございます」
「……?」
いつの間に真横に立っていたのは、迎えてくれた青年だった。
「カイゼリン様でございます。カイゼリン様、と」
「失礼しました。カイゼリン様」
執拗に言ってきた。うん、大人しく従っておこう。
「……気にしなくてよいのに。貴女の好きなようにお呼びなさいな」
「いえ、カイゼリン様と呼ばせてください」
真横の人からの圧がすごいから……平和にいきたい。
「彼はリヒター。わたくしの補佐を務めてくれてるの。他の皆も紹介したいところですけれど、休日は基本休ませているのよ」
素晴らしい。理想のトップの姿がそこにあった。
「リヒター様ですね」
カイゼリン様から紹介してくれた青年。彼はリヒター様っていうんだ。名前か苗字かはわからない。あとで先生に聞いてみよう。
「私はリヒターと申しますが、様づけは結構です。ジェム様、よろしくお願い申し上げます」
「はい、こちらこそ。リヒターさん、よろしくお願いいたします」
リヒターさんは深々とお辞儀した。こうも綺麗でサマになるのは、そうそう見ない。私からもお辞儀をした。
「相変わらず、かたっ苦しいな。リヒターは」
「誉め言葉でございます。ありがとうございます」
呆れながらな先生。リヒターさんは堪えてなかった。
「なるほど」
名前呼び派の先生がそう呼んでるなら、リヒターは名前の方なのかな?
「ああ、シャーロット。リヒターは苗字だ。教師相手だろうと、そう呼ぶように。だそうだ」
「……そうなんですね」
そう関わることもなさそうなだし、追求することでもない。それでよしとしよう。先生、心の中の疑問、答えていただきありがとうございました。
「――貴女、美味しそうね」
「へ」
間抜けな声が再発した。えっと誰が……発言主はカイゼリン様? ……カイゼリン様!?
「だって、『シャーベット・ジャム』でしょ? 美味しそうで可愛らしいお名前なこと」
カイゼリン様はクスクス笑った。
「……」
うーん、困った。この手の言い間違いはありそうでいて、意外となかった。いじってきそうなアルトもそう呼んだことはない。
にしても。この女帝さながらの女生徒の発言はそれにしても。悪意があるのか。試しでもしているのか。まさか、天然……?
「今すぐにでも――シャーベット・ジャムと改名なさってください」
「困ります!」
しれっと言ってきたのは真横の人。さすがにそれは致しかねた。
「……もう、リヒター。冗談よ、冗談。シャーロットさん、でしょう?」
天然でなくて、冗談のようだった。存外、気さくな人なのかな。
「ははははははははははは。さすがはシェリア様。ユーモアにも長けてらっしゃいますね」
「……」
こんなにも感情の無い笑いは聞いたことがなかった。もう深く考えるのはやめよう、真横の人のことは。
「……美味しそう、か」
先生は何か呟いている……先生?
「……淫行教師でお間違いありませんか?」
「あらやだ、モルゲン先生――審問にかけなくては」
すかさず自治員会の監視の目が入った。
「……名前がだ、名前が! ほら、リヒター。笑えって」
「ははっ」
焦る先生に、リヒターさんは必要最小限の笑いで返していた。カイゼリン様との差がすごい。
「――まったく。このへんでいいな。じゃあ、邪魔したな」
「ごきげんよう、お二人方。リヒター、送って差し上げて」
「いやいい。遠慮しておく。行こう、シャーロット」
先生に促された。私は会釈後、退室していった。
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