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第一章
ブラック派? 砂糖ミルクドバドバ派?
先生は本校舎のエントランスで一息ついた。案内を終えたのかな。
私はというと――正直楽しかった。表向きはそうは見えないかもしれない、内心浮かれていた。先生の案内上手もさることながら、色々な人と出逢えたこともそうだった。
時間は正午を回った。今からでも店は開けられるよね。楽しい時間はもう終わり。
「本日はありがとうございました」
「どういたしまして――と、言いたいところだけどな。まだだ」
「……先生?」
これでお開きではないの? 先生を見ると悪い顔をしていた。先生がこっちと手招きしている。看板に書かれているのは――食堂と。私は彼について入っていく。
「ああ、歩き回ったからな。年を考えず、結構張り切ったりもしたんだ……というわけで、俺の休憩に付き合ってもらおうか」
「はい、もちろん。先生、お若いと思いますよ?」
「ああ、若いけどな。お前達よりかは年とってるだろ。ほら、テラス行くぞ」
「はい……」
そういえばと思った。楽し過ぎて気づくのが遅れたけど、足にも疲労感があった。気遣ってくださったのかな。
「――飲み物、紅茶でいいな?」
「……!」
先生は自然にそう聞いてきた。先生にはなんてことないんだとしても、私の心臓には悪かった。
「あれ、違うのか? 定番かと思ってた。コーヒー派だったか」
「……はい、コーヒーでお願いします。私、ブラック派なんです」
動揺のあまり、私は真逆のことを言ってしまった。本当は紅茶派。コーヒーは苦手で、飲めるのはコーヒー牛乳、それか砂糖ミルクドバドバのものくらいだ。それは前世からも変わらないものだった。
「そうか。美味しいよな」
「き、奇遇ですね?」
「ああ、いいな」
先生が筐体の前で、特殊な硬貨を投入していた。自動販売機のようなものだった。こちらにもあるのだと、私は密かに驚愕していた。
「お金ですけど、相場と同じ金額でしょうか? それか、特別料金的な。学園価格とかありましたら」
「ははっ。なんだ、学園価格って。いいから、奢らせろって。生徒に奢られるのは、な」
先生は噴き出していた。『まだ生徒じゃないか』と足しながら。先生はまずは一杯を取り出していた。先生が飲むのは当然として、私は遠慮したかったけど。
「……あ、間違えた。流れで押してしまった」
先生がぽつりと言った。
「悪いな、もらってくれないか? 俺、一杯で十分だから」
彼は眉を下げたまま、こちらに手渡してきた。
「すみません、ごちそうになります。ありがとうございます」
「ああ」
さりげなく、なんだと思った。先生、嬉しそうにしている。手のひらの中、あったかいな……って。
「先生、これって」
甘さたっぷりのコーヒーだった。先生、ブラック派じゃなかったっけ。
「ああ、ブラック派だけどな。甘いのも好んで飲むぞ。今日は甘いのが飲みたい気分だったんだ」
「……」
こんなところまで被らなくても……片桐先生もそういうところがあったから。先生も気分で変えていることがあった。うーん……。
「お前もそういう気分じゃないのか?」
「ええ、そうですね。気分ということで……」
ブラック派といった手前もある。今更甘党です、とは言えないよね。言えないけど……。
「……ごめんなさい。本当は甘党です。ブラックは飲めません。紅茶の方が好きです」
耐えられなくなった私は正直に話した。
「だよな……いい子だ、シャーロット」
さらっと私の頭を撫でると、先にテラス席へと向かっていった。食堂から続くテラスは、天気が良いと解放されているんだって。学園内にある湖も見渡せる。
「……もう」
髪を撫でられただけではなく、耳元でも囁かれてしまった。彼にとっては些末だろうが、私はそうではないのに……顔だってのぼせるかのよう。初等部の子も同じ思いをしてたりするんじゃないかな……。
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