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第一章
微睡みの図書室
図書室は解放されていたものの、誰もいなかった。司書も不在で、貸出自体が行われていないようだった。
学園の蔵書の数は誇るべきものだった。私は目を輝かせながら、本の王国へと入り込んでいった。梯子も使って本を手にとっていく。あれもこれも、前から読みたかった本だ。
「……懐かしいな」
いくつか本をとったあと、手にしたのは絵本だ。孤児院でも読んだもの。春の女神の絵本だった。色褪せないものがそこにあった。
私は席に着くと、絵本から読み始めた。
春の女神は、いつもみまもっています。
いきとしいけるもの、すべてがだいすきです。
あいをこめて、春の女神は、いきをふきます。
はながさき、きはみのり。いきものたちはおおよろこびです。
「春の女神は、見守っておられる。生きとし生けるものが大好き。春の女神の息吹が、草花を芽吹かせる……」
あるひ、おとこのひとがひとりでないていました。
だいせつなひとにあえない。かなしそうです。
かわいそう。やさしい春の女神は思いました。春の女神は――。
「確か、強い思いがあればって。再び巡り合えるからって。それで、春の女神は――魔法をかけたんだ」
人と人は分かたれようとも。強い思いによって、やがては再び巡り合うと。
人の意思の強さを信じた春の女神は、魔法をかけたという。この伝承をもとに、この世界の人達は生まれ変わりを信じるようになった。
「強い思い。ふふ……」
逢わないようにと。逆なことを願った私は笑ってしまった。
「続きは……」
結末を思い出す。この男の人は生まれ変わって、愛しい人と巡り合えた――ハッピーエンドだ。
それからまた別の話となる。私は懐かしさに浸りながら、うとうとし始めた。
「眠い……」
眠くなってきた……瞼ももう重い。自分が思った以上に疲れていたのかな。ここは眠気に抗うことはせず、絵本を横によけた。座ったまま眠り落ちていく――。
ここは図書室か。私は本を閉じたまま。まだ微睡みの中だった。
目を閉じながらも感じるのは、夕日の光。そして――目の前に立っている人。
その人が絵本をめくる音がした。パラパラとめくると、絵本を閉じたようだ。
その人は私の隣りの椅子に座った。私の椅子に手が置かれ、頬にもう片方の手が添えられる。
「……シャーロット」
名を呼ぶ。甘く熱情を孕んだ声で。
「……」
それから重なったのは――互いの唇だった。一度ではなく、何度もそれは繰り返される。
シャーロット、冬花にとっても初めてのはずだ。なのに、それがとても自然なことのように思えていた。胸の鼓動は速まれど、どこか安心でもあった。
いつまでも続きそうだったが、その人がようやく唇を離した。
その人が去っていき、扉が静かに閉まった。
私は満たされていて、余韻に浸っていた――。
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