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第一章
モフモフの為なら……!
「ゆっくり食べるんだよ」
一気に与えてしまっては、空腹状態の犬に負担がいくはず。小皿に食べ物、ボウルには水を入れている。私はしゃがみ込みながら、ワンコが口にしてくれるのを待っていた。
「……」
犬は伏せたまま。一向に口にしない。涎は垂らしたままなのに。
「……うーん」
私はすっと立った。犬にゆっくりと近づいていく。
「!」
犬はハッと顔を上げる。また逃げようとしていた。それでも、ままならないようで。
「ふふ、涎すごいんだ」
私は手持ちのハンカチで拭った。拭いても拭いても涎は止まらない。
「ふふふ、食いしん坊さんなんだね」
私は笑いかけた。ようやく拭いきると、また待つことにした。
「……」
涎を拭かれた犬はこっちをじいっと見ていた。目を合わせてきていた。
「ん?」
私も目を合わせた。子犬はずっと見てくる。時折瞬きをしながら。
「……はぐっ」
子犬は小皿の上の茹で野菜を含み始めた。チーズにいたっては一飲みだ。それから、ボウルに顔を突っ込んで水を飲んでいた。
「あ……」
私は胸を撫でおろした。犬が食べてくれた。あとは、少量ずつ与えていけば、絶食状態もマシになるよね。
「さ、おいで。手当するからね」
犬の霜焼けも治療することにした。抱っこしようにも、犬はすり抜けていく。逃げられたかと思うと、そうでもないみたい。犬は先に店へと向かっていた。
「ふふ、せっかちさんだ」
私も微かに笑いながら、店に戻っていく。
私は棚から治療用具を取り出す。犬は椅子の上でお座りをしていた。大人しく治療を受けてくれるようだね。犬の患部に霜焼け用の軟骨を塗り込んで、上から包帯で巻いた。
「これでよし、と。安静ね?」
「……」
犬は黙ったまま、暖炉の前に丸まった。大人しくはしてくれるみたい。
「あ、暖炉……」
恵みの石、必要以上に使わないようにしていた。私は寒さに耐性があるから、本当に最低限の暖しかとってこなかった。
犬は普通にガタガタ震えていた。そ、そうだよね。恵みの石、急いでつけることにした。
「……」
ワンコは寒さにぷるぷる震えたままだった。
「あわわ……」
私は衝動のままに家を飛び出した。裏手にある用具入れから、前の住民の薪割り用具を借りる。慣れない手つきで斧を構え、薪を割っていく。歪なそれらが出来上がった。
「……」
出窓から犬が覗いていた。気になったのかな。
「大丈夫だよ。安静にしてなさい」
「……」
犬はぴょいっと、出窓から降りていった。暖炉の前に戻ったんだろうね。
「……あ」
失念していた。使用してこなかった暖炉は、手入れがされていない。今からとりかからなくてはならない。相当手強い汚れだよね……。
「ううん」
このままぐだついていては、ワンコを待たせることにもなってしまう。私は重い腰を上げた。室内に戻って暖炉掃除にとりかかることにした。ああ、ワンコもスタンバっている。急がないと……って。
「……ん?」
暖炉の中まで手入れがされていた。煤汚れもほとんどなく、いつでも使用可の状態だった。
「……いや、おかしくない?」
私は改めて考えた。店の外ならともかく、内部まで手入れが行き届いているのって。鍵を閉め忘れたのもあるかもしれない。ううん、そもそもが――誰がここまでするのかと。
「アルトは世話焼きだけど……」
そもそも彼は謹慎処分中だ。それを抜け出してまでやる意味がわからない。
いや、すること自体が不可解だった。まだね、私の目の前でやるならわかる。なのに正体は不明のままだ。なにも利がない、得もしないだろうと。
「ううん、今は」
ガタガタ震えているモフモフがそこにいる。暖炉に薪をくべ、火をつけた。部屋の中が暖まってくると、犬の震えも治まった。犬は目を細めて暖炉を見ていた。
「それじゃ、次は――」
この子の薄汚れた体もどうにかしたかったけど、傷だらけの体に無理はさせたくなかった。
「ちょっと待ってね」
私は浴室に行って、タオルをお湯に濡らす。ほかほかのタオルを持って、犬を拭こうとしていたけれど。
犬は後ずさりをした。こっちが近づく。犬は離れる。しまいには。
「うぅー、ぐるるる」
唸り出した。相当な嫌ようだね。
「そんなに嫌がらなくても……仕方ないか」
今は諦めることにした。
「ほら、分けておいたごはんだよー」
「!」
ワンコは右向きに尻尾を振った。ごはんは絶対だもんね、うん。
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