春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

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第一章

ワンコと鳥籠の夢



 その日は結局、お客様が訪れることはなかった。私はウダウダを経て、ワンコと過ごして終わった。立て看板を裏にしようと、外に出る。

「え……」

 表にしたはずだよね……? それが、裏になっていたのだ。これも記憶違いなのだろうか。実際はどうだったかな……。

「……もう、なんなの」

 考えれば考えるほど、頭は混乱していく。

「くしゅん!」

 私はくしゃみをした。いつまでも外にいるわけにもいかない。家に入っていった。

 犬は暖炉の前で寝ていた。丸まったまま、スピーと寝息を立てていた。

「……!?」

 まただ。今は先生が近くにいないはずなのに。
 あの視線が――射抜くような視線がした。私は震え上がってしまう。これは悪意なのだろうか。それとも。

「……近くで、寝ていい?」

 この犬を見ていると安心した。ソファの上に偶々かけてあった毛布を犬にかけて、私もソファに寝転んだ。

「……」

 犬は起きていたのか、近くまで寄ってきた。私の足元で再び丸くなった。

「ふふ、ありがと。あと、毛布――」

 嬉しかった。ワンコにかけた毛布はずれてしまった。体を起こして、掛け直した。安心した私も眠くなってきた。そのまま――。




 またあの夢だ。

 私は巨大な鳥籠に閉じ込められていた。どのような手を使っても、壊れもしない鳥籠だ。

 鳥籠にかけられた錠前は、大型が一つ。中型が二つ。変わり映えしないものと思っていたそれらが、変異を示していた。中型の一つが、妖しく光っていたのだ。

「これはなに……?」

 私は光るそれに触れようとした。

『うん、そのままそのまま――おいで、シャーロット』

 声がする。いつ聞いても安心する声だと思った。私は今にも錠前に触れようとしていて――。

「ワンワン!」
「えっ……」

 どこからか犬の鳴き声がした。吠える声だ。私は驚いて手を引っ込めてしまう。

 次第に辺りは闇に包まれていく。夢が終わるようだ。

「へっへっへっへっ――」

 犬の呼吸する音と共に――。




 暖炉の火はついたまま。私はソファから飛び起きた。冷や汗が止まらない。荒い呼吸を繰り返す。
まだ夜が明けたばかり。
 
 いつも見る夢に変化があった。錠前の一つが。そして――犬が登場していたこと。

「はあはあ……」

 私は胸騒ぎがしてならなかった。奇妙な夢もそう。何より、あの夢の声は――間違えない。
 ――アルトだ。

「これって……」

 アルトに何かあったと考えるのが自然だった――昨日の来訪者もアルトだった?

「あの子までも……」

 残されたのは毛布だけ。小皿もボウルも空だ。あの子もいなくなっていた……。

 あの子犬、学園に戻ったのかな……まだ寒いでしょうに。よし、今からでも追いかけよう。
 
 私は扉を開いた。その先で目にしたのは。

 いるはずのない人物――『彼』がいた。

 逆光によって彼の表情がわからない。

「待って!?」

 いてもたってもいられず、私は前に出た。そこにいる彼に声を掛けようとしたけれど。

 彼――アルトはそこにはもういなかった。

「……どうして?」

 何も普通に声を掛ければいい話じゃない。謹慎処分の身を気にしてたとしても。なら、脱走しなければ良い話でもあって。理解し難い。

 
「……わからないことだらけだけど」

 今は動こう。出かけるならそうだね、火の元を確認してから――。


 暖炉の火は消えていた。



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