春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

文字の大きさ
32 / 557
第一章

うちの子なんです……!

 その日も晴れていた。私は焦燥していた。村の馬もよりによって貸し出されていて……学園への道のりがさらに遠く感じていた。

 やっとの思いで学園に到着する。広場を通り抜けて、まずは男子寮に向かおうとした。

「……?」

 広場には人だかりが出来ていた。これではまともに前に進めない。合間を縫って進もうとするも。

「……これ、まじかよ」
「ありえないよ……」

 騒然とするのは、集まっている人達だった。彼らは今、信じられない光景を目にしていた。それは私も同様だった。

 あの美しき女神像が――粉々に打ち砕かれていたのだ。木っ端微塵だった。

「おいおい、まずいだろ! これ、誰がやったんだ!?」
「罰当たり……」

 誰しもが青ざめていた。春の女神信仰のこの国で、女神像の破壊など不敬が過ぎる。

「聞いたか? ――都の方も壊されたらしいぜ?」

 ――学園の像のみならず、都にある像まで破壊されていたようだ。

「なんてことを……」

 私は胸元を手繰り寄せた。こんな、信じられない光景を目にしたとなると。私の顔色も悪くなるばかりだ。

「くーん、くーん……」

 人に混ざって悲痛な鳴き声を上げていた存在。その犬は、女神像を仰ぎながら鳴き声を上げていた。

「……おい、なんだこの犬。きたねぇな」
「ちょっと。なんで野良がいんの。追い出してよ」

 生徒達は見下す目で犬を見ていた。怯えた犬は、体を小さくする。それでも壊れた女神像からは離れようとしなかった。というか、その子は……。

「……なんで、どういうこと」

 学園の生徒達はどうしてしまったの。あれだけ優しかったのに。

「って、女神像に近寄んなよ! つまみ出すぞ!」

 汚物を持つような手で、乱暴な男子生徒が犬を掴み上げる。犬は抵抗し暴れた。なんてことを……!

「ま……」

 私は声を出そうとする。それに気がついたのは生徒達だった。一斉に注目を浴びる。それはどれも好意的なものなど決してなく。露悪的なものだった。

「あ……」

 ――あの子が。
 ――ほら、あの子。
 ――片桐先生との。

 冬花の時の記憶が蘇る。針のむしろにされ、大勢の前で晒された……前世の記憶。

 喉が渇く。伝う汗は止まらない。生まれ変わった後でも、トラウマは消えてくれない。

「……だとしても」

 私は手を握った。あの犬がなにをしたというのか。あんな仕打ちを受ける必要があったというのか。今、私の中にあったのは――小さな怒りだった。

「わ、私の……うちの子です!」

 私は目を瞑って叫んだ。周りはしんとなった。彼らが呆けているのならば、と目を開けて犬を奪い返した。

「よって、この子に酷い事するなら。う、う、訴えますから!」

 弱りきった犬を、私は抱き留めた。意地でも離さないんだから……!

「……」 

 腕の中の犬は、こっちを見上げていた。ただじっと。見つめていた。


感想 0

あなたにおすすめの小説

せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません

嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。 人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。 転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。 せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。 少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?

桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。 だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。 「もう!どうしてなのよ!!」 クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!? 天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?

社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。

天咲リンネ
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。 引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。 見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。 つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。 ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。 しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。 その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…? 果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!? ※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。

男女の友人関係は成立する?……無理です。

しゃーりん
恋愛
ローゼマリーには懇意にしている男女の友人がいる。 ローゼマリーと婚約者ロベルト、親友マチルダと婚約者グレッグ。 ある令嬢から、ロベルトとマチルダが二人で一緒にいたと言われても『友人だから』と気に留めなかった。 それでも気にした方がいいと言われたローゼマリーは、母に男女でも友人関係にはなれるよね?と聞いてみたが、母の答えは否定的だった。同性と同じような関係は無理だ、と。 その上、マチルダが親友に相応しくないと母に言われたローゼマリーは腹が立ったが、兄からその理由を説明された。そして父からも20年以上前にあった母の婚約者と友人の裏切りの話を聞くことになるというお話です。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

自称ヒロインに婚約者を……奪われませんでした

影茸
恋愛
平民から突然公爵家の一員、アイリスの妹となったアリミナは異常な程の魅力を持つ少女だった。 若い令息達、それも婚約者がいるものまで彼女を一目見た瞬間恋に落ちる。 そして、とうとう恐ろしい事態が起こってしまう。 ……アリミナがアイリスの婚約者である第2王子に目をつけたのだ。