春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

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第一章

容疑者――シャーロット・ジェム


「――お見事な啖呵ですこと。大したものね、シャーロットさん?」

 悠長に拍手しながらやってきたのは、品のある女子生徒。カイゼリン様だった。彼女が引き連れてきたのは、側近であるリヒターさん及び自治委員会の面々だ。

「きたか、自治委員会……」
「やっぱり、くるよな……」

 自治委員会のお出まし。生徒でない私は何を意味するかわからない。でも学園で過ごす生徒達は違った。場に緊張が走る。

「リヒター。そちらのワンちゃんをわたくしの元に」
「かしこまりました。シェリア様」

 命じられたリヒターさんは、私との距離を詰めた。命令のまま、犬を取り上げようとしていた。

「何をするんですか!」
「大人しくされた方がご賢明ですよ」
「誰が……」

 誰が信用するかと、私は犬をさらに強く抱きしめた。

「……」

 リヒターさんは私をまじまじと見ていた――観察するかのように。

「――では、失礼しまして」
「!」

 私は仰天した。恥じらいもなく彼は耳元まで口を寄せてきたのだ。彼の唇が私の耳に触れる寸前だった。

「――シェリア様は信用なさってください。あの方は信用に足る方です」
「え……」

 リヒターさんの声音は真剣そのものあった。聞こえたかどうかはわからない、犬が腕の中でもそもそと動いた。

「おや、賢いワンちゃんですね。さあ、おいでなさい」
「くーん……」

 犬はリヒターさんの手に渡った。悲しそうに鳴いていた。そう、望んだわけでもない。それでも場を治める為にも、犬はそうしたようだった。

「君は……」

 ――私に負担がかからないようにと。出逢ったばかりなのに、そこまで考えてくれたのかと。

「おー、よちよち。かわいいでちゅねー。ええ、ワンちゃんのことはご心配なさらず。小動物に罪はありませんもの……さて」

 リヒターさんが犬を丁重にお連れし、いまやカイゼリン様の腕の中。デレデレな顔で愛でていた彼女だったけれど――表情は険しいものとなった。

「――貴女は大罪を犯しました。よって、連行します。シャーロット・ジェムさん?」
「なっ!」

 私は耳を疑った。大罪、そのようなもの。全くもって心当たりなんてない。違うと否定しようにも、委員達に拘束されてしまっていた。暴れようにも力では敵わない。ならば氷の魔力で――いいえ。
 リッカも囚われた状態、ここは様子見するしかないの……?

「シャーロット・ジェムさん? 貴女、昨夜はどちらにいらして?」
「どちらって……家にいました。その、外に出る事もありました。それは庭先まででして」
「ええ、ご自宅にいた。それは、どなたか証明できて?」
「証明……」

 昨日は不自然なまでに、客が来なかった。周囲に村人もいなかった。どういったタイミングだったのか。あと証明してくれるとなると――。

「……」

 カイゼリン様の腕の中にいる犬だけだ。犬に証明してもらうとなると。

「……わ、わん! わふっ、わふっ。くーん……!」

 犬は語っていた。犬語だ。うん、必死な気持ちは有難いんだ……。

「ええ、どなたもいないと……夜までは、健在でしたの。門限ギリギリの生徒達複数名。彼らからの目撃証言もあり。その後、閉門――学園の生徒以外は、立ち入れられない」

 カイゼリン様側の主張はこうだった。彼女は続ける。

「もちろん、寮生以外からも確認はとりました。彼らは皆、証言者がおりました。貴女にはありまして?」
「私には……」

 シャーロット・ジェムのアリバイを証言できる人物。あと一人、確実ではなくとも思い浮かんだのは。 

 ――アルトだ。

 どうしても幻とは思えなくて。アルトは来訪していたはず。彼は私を見ていたことになる。

 ただ、心配事はあった。彼はずっといたわけではない。そして、謹慎処分にも関わらず、出歩いていたことになる。
 アルトの名前を出すべきか。そうではないか。

「……ふふ、意地悪だったかしら。アルト・モルゲン。彼からも申し出があったの――壊したのは自分だと」
「アルトが……?」

 カイゼリン様は何を言い出すのか。あまりにも突拍子がなさ過ぎて。

「ええ。ただ、彼には証言もあります。彼は自室待機で、部屋からも出る事もなく。窓から? 高さが何階あるかご存知? ――人の身では、到底不可能ね」
「アルトは私を……」
「……ええ、庇ったのでしょうね?」
「!」

 私は胸が痛くなった。自分のことを思っての行動は嬉しい。だが、自分の立場も悪くなってしまうのに。それでもアルトがそう申し出たのだとしたら。

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