春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

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第一章

時間が戻るというなら


 シャーロット・ジェムは横たわっていた。暗く静かな場所だ。ここが生を終えた場所なのか。私はゆっくりと目を開けた。

「……え」

 私の第一声がそれだった。その風景はあまりにも――見覚えがあり過ぎた。
 よく見る夢と同じような、鳥籠の中。大中合わせて錠前三つだ。

「どういうこと……?」

 私はゆっくりと立ち上がった。ここは死後の世界か。それともいつもの夢の中なのか。

 どちらかはわからないけど、私には感覚があった。このひんやりした空間も。そして、自分の鼓動の音も聞こえていた。

「私、死んだんじゃなかったの? もう終わったって」

 私はよろめきながらも、扉まで歩いていく。

「――まだ、終わってないよ」

 高めの少年の声がした。拙い喋り方とも。誰かいるの……? 声の主を探す。

「!?」

 暗闇に光るのは二つの目。私は驚きのあまり、腰を抜かしそうになった。しかも。

「へっへっへっへっ」

 柵を越えた先にいたのは――あの犬だった。おなじみの呼吸音も添えて。

「君、どこから来たの?」
「?」

 犬は首を傾げた。

「わからない?」
「わん」

 この子は知らずに迷い込んできたの? ……うん、ちょっと待って?

「待って。君、喋った? 私の言ってることもわかってる?」
「……わふっ。わんわんわん」

 犬は素知らぬ顔で犬語を話した。

「いやいや、喋ってたよね?」
「……うん」

 私、聞き逃してはいない。犬も観念したのか認めた。

「僕、ニンゲンの言葉うまくないんだ」
「そう? 十分上手いと思うよ」
「そうかなぁ……」

 犬は舌を出しながら、口元を緩めた。満更でもないみたい。

「君は何か知ってるんだね?」

 私は柵を掴みながら、犬に尋ねてみた。

「君と私は無事だったんだよね?」

 いつもの夢の中でいいってこと?

「うん、無事」
「そっか」

 犬は尻尾を振りながら断言した。そっか……。

「……それと」

 この質問だって……切り出しづらいけど。口に出しづらい。言葉にもしたくない。それでも。避けられないものだから。犬は尻尾を振りながら待っている。

「……アルトや、モルゲン先生。わかるかな、助けにきてくれた二人。あの人達は――どうなったの」

 あの後、自分達のように助かったのかもしれない。僅かな希望にだって縋りたい。

「あの二人はね……」

 犬の尻尾がみるみる下がっていった。

「……うん、わかったよ。ごめんね」
「ううん」

 この子に言わせることじゃなかった。謝る私に犬は何てことないと返した。

「あのね、アインシュト・モリュゲン。アリュト・モリュゲン。あの二人は、生を終えた――あの時は」
「あの時?」

 あの時……一体どういうことなの。私は食いつかずにはいられない。

「あのね、本当はね。君も『あの時』……一緒だったんだ。でも、生きてるよね?」
「うん」
「あの二人もそうなんだ。生きてるんだ――時間が戻るから」
「時間が、戻る」
「うん。僕にもどうしてかわからない。でも、そうだって。『知ってる』んだ」

 ということは。私は考えた。時間が戻るというなら――やり直せるということで。

「えっと、説明合ってるのかな」
「うん、大丈夫だよ。わかりやすかった」
「えへへ……」

 犬はニコニコしていた。


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