春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

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第一章

春が来るまで


「でも、確認させてほしいの。どうして? どうして、やり直せるの? ……代償とかあったりしないの?」
「だいしょう。えっと、何かとひきかえに、ってこと?」
「そうだよ」
「……えっと」

 犬は答えに困っていた。その場をぐるぐる回っていたけど、ピタっと止まる。

「そこまで聞いてないや。でもね、ニンゲンを『助けたい』って……あれ、『叶えたい』だっけ? 僕のご主人様がそう言ってた。あのね、――僕のご主人様は『春の女神様』なんだ」
「!」

 春の女神様……女神様!? このモフモフのご主人様って……! 私の心臓は早鐘を打っているけど……うん、落ち着こう。衝撃的過ぎるけど、落ち着こう。

「……僕もそうしたかった。でも、僕にはできなかった」

 この犬は大真面目。嘘じゃないよね。そんなこの子はしょげていた。

「ごめんね、シャーリョット。僕に勇気があったら……」
「ううん、いいんだよ」

 腕はぎりぎり間に通せた私は犬の胸元を撫でた。ワンコはくすぐったそうにしていて、嫌がってはないみたい。ならば、もっと……うん。

「君のご主人様……どうしたの?」

 こんな君を一人にして……って、出かかったけど。多分、責められるのはこの子は望んでない気がして。

「……僕にもわからない。気づいたら見失っていたの」
「はぐれたの……?」

 私がそう言うと犬は項垂れていた。そっか……それで一匹、彷徨っていたんだ……。

「あ、でもね!」

 犬は顔を上げてきたんだ、瞳を輝かせながら。

「――春になったら、姿を現わしてくれるの。きっと、そうなんだ!」
「そっか、そうだね……」

 名の通り、春をもたらす女神様だから。私たちの国にとって、そうだから。この子はそう信じているんだ。私だってそう、信じたい。

「そっか……」

 この子は神様の眷属ってことなんだよね? ……本来はこうして相まみえることもないような存在。それなのに。
 なのに、私は。

「……春が来るまで」

 ――うちで暮らさないかって。私は声を出してしまっていた。

「……」
「……」

 犬はつぶらな眼でこっちを見てきていた。無言のまま……。
 駄目だったかな? ……ならせめて、保護というか。しかるべき機関でとか。

「……うん」

 一緒に……いたいんだけどな。出逢ったばっかのワンコなのにね、私はどうしても……。

「……いいの?」
「いいに決まってるよ!」

 この子の自信なさそうな様子、いいに決まっているって、私、声を大にして言っちゃった。びくっとしてたね、驚かせてごめん――。

「あ……」

 犬は私の指をぺろぺろと舐めてくれていた。そして――ありがとう、って。

「……えへへ。ずっと言いたかったんだ。ありがとう、シャーリョット」

 くすぐったそうにしながら、犬は気持ちを伝えた。私も微笑んだ。

「……僕、ニンゲンきらいじゃない。でも、こわい」
「うん……」

 それは傷だらけの体をみたら、それも当然の話なんだ。心無い人間によって、恐怖心を植えつけられてきたんだ。

「いっぱい、頑張ったね」

 そんな怖がりな彼が、勇気を出して動き回っていた。犬は頷いた。

「――僕、シャーリョットはね、こわくないんだ。あのね、シャーリョットの力になりたい」
「……いいの?」
「うん。僕は君の味方だっ!」
「うん、うん……」

 もしこの柵さえなければ。閉じ込められてさえなければ。今すぐにでも彼を抱きしめたかった。

「……私だって、このままにしたくない。代償とか、気にしてられない」

 やり直せるのなら。私だってそう、このまま逃げ出したくはなかった。

「あ」

 犬は何かを思い出したようだ。尻尾を大きく振った。

「ご主人様。こういってた! ――諦めないで。強い意志を持って。乗り越えてって」
「女神様が……」

 それはワンコに向けてだとしても、私は自分の言葉としても受け止めることにした。

「それじゃ、シャーリョ……うう、噛んじゃう」

 うん……そうだったね。ちょくちょく噛んでたね。

「ふふ。シャーリーはどうかな?」

 どこかの幼馴染がつけてくれたもの。この可愛いモフモフが言うくらいなら、怒りはしないでしょ? 私はそう信じてる。

「シャーリー!」

 犬も大はしゃぎだった。

「それで、君のお名前は? 聞いてもいい?」
「うん! とてもいい名前なんだっ! ――リッカ!」
「リッカ……うん、素敵な名前だね」

 六花。前世の文字で連想しちゃった。うん、いい名前。

「また、会えるよね。リッカ……」
「うん、シャーリー……」

 眠気がやってきた。私は横になって眠った。リッカも丸くなって――。



 どこまでさかのぼることになるのか。どういった因果かもわからない。
 それでも道を開けると信じて。私は日常に戻っていく。





 この時の私は知る由もなかった。ただ希望を抱いていた私には、想像も出来なかった事。

 ループを繰り返すことで、わかってしまうこと。知りたくもなかったこと。望んでもいなかった結末も迎えるということ。

 それでももう後戻りはできない。引き返すこともできないのだと。



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