春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

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第一章

ループの知識はあるけれど


「アルト? そろそろいい?」
「……やだ」
「やだ、じゃなくて」
「やだやだ! 俺、今シャーリーをぎゅっとしてる! こんなチャンスめったにないし!」
「やだやだ、でもなくて」
「ああー、もっとシャーロットを堪能してぇ……」

 ごめん、怖くなってきた。こっちから手をついて離れてみると、思いの外、アルトはすんなりと離してくれた。

「ん、本気でそう思ってはいるけどね――ほら、シャーリー? お店開けないと」
「お店……」

 アルト気遣ってくれたと思うけど、リッカのことが気になって、と私が店の扉に目をやると……石で紙が押さえられていた。

 私が拾い上げて読むと……うん、なんとか読める。書かれていたのは『モルゲン』と。ええと……モルゲン先生? あと、リッカが書いたの? 賢いね、すごいね? と、とにかく、モルゲン先生のところにいるってこと? ならひとまずは安心……。

「あー……なに、その紙?」
「……!」

 アルトが疑惑の目を向けてきていた。しかも。

「あー……あの犬、また戻ってきたなって思っていたけど。なに、怪文書?」
「!」

 リッカ、いつの間に。私が気づかぬ間に……! アルトは気づいていたというのに……。

「……」
「……」

 アルトからの疑惑はやまない。これは……普段通りにした方が良さそう。私は店の準備にとりかかると、アルトは手伝う気満々になっていた。うん、いつもの流れ。
 さあ手始めにと、店の看板を表にしようとしたところ。

「あらあら、シャーリー? そのカッコで接客するの? ああ、寝起きシャーリーだぁ……いつまでも見ててぇ……」

 アルトはあらまのポーズをしながら、恍惚していた。私はハッとする。

「そ、そ、そうだね。私、着替えなくちゃ。いや、アルトにも処方しないと」

 アルトは開店前から来てくれていた。いつもより早い時間にである。

「……?」

 前の時、アルトは開店からちょっと後でやってきていた。今回はいつもより早い時間じゃない? 彼は待っていてくれたの? 店が開くまで?

「いいって。俺のことは後回しでもいいからさ。先に自分のことやっちゃいなよ。それとも、寝起きシャーリー、ずっと見ててもいいの?」
「そこは我慢する。アルトはお客さんでもあるから」
「我慢かーい。まあ、本人からオッケーでたということで。見ます!」

 彼をお客様として迎え入れた。アルトはカウンター席に案内されると、『シャーリーガン見スポット』に陣取った。この席は、一番私の動きが見えやすい……なんだって。心配させてのかな、やらかさないようにって。気をつけないと。

 アルトは両手で頬杖を見ている。すごくご機嫌だね。私は落ち着かない中、仕事にとりかかった。

「……さて。アルトが欲しいのは」
『痛み止めもちょーだい。あと、滋養薬とか。精力剤でしょ、体力強化剤。それから――』

 前はそう言っていた。それをまとめては提供できないと、治療薬だけ処方したのが前回の自分だった。

「……」

 一旦、立ち止まった。どこまで変えていいのかな。アルト鋭い、どこまでがそのラインか。

「それでも、私は――」

 頭に残り続けているのは、金糸雀隊によって死を迎えた時のことだ。
 狂ったまま死んでいったアルト。放心しながらも私に触れようとして、絶命した先生。吠え続けたまま声も聞こえなくなってしまったリッカ。

「……うん」

 変えなくては。もうあのような結末は迎えたくない。
 私は決意し、選択した――変えられるものは、変える。こうして得た知識も利用してみせる。

 もちろん、怪しまれないこと前提……と、考えこむ私をすでにアルトが疑いの目で見ていた。

「……なんかさ。今日のシャーロット、おかしくない?」

 アルトは頬杖からうつ伏せへと体勢を変えた。その上目遣いには疑いが込められていた。

「そんなことはないけど」
「……聞き出そうかな。無理にでも」

 ぼそりと呟いたのはアルトだった。冗談めかしているわけでもない。彼は本気だ。

「……おかしいのは、アルトだよ」
「俺?」
「うん。徹夜でハイになっているんじゃない?」
「……なんで、徹夜したって知ってるの」

 そこは突っ込まれると思っていた。私はにこりと笑う。

「だって、アルト目の隈すごいし。眠そうだし。というか、テンションもおかしいよ?」
「えっ!? 俺の顔ひどい!?」
「酷くはない。でも疲れてるだろうなって――ねえ、アルト? 二階のソファなら提供できるから。そこで休んだら?」

 どうせやり直すなら。私は自分の願望も織り込んでみた。彼が深夜のクエストでさぞお疲れだろうと。今回こそしっかり休んでほしかったんだ。

「……それはいいんだけどぉ。シャーリーのお着替え、どうすんのかなぁって」
「……着替えだけ取りにいったら、洗面所で着替えるから。アルト、色々心配してくれるのは有難いよ。でも、そういう心配されるのも」
「え、きもい? ひいた?」
「きもいとかじゃないけど」

 私は目をそらしながら言う。きもいとかじゃない、でも、なんというか。そういう心配というのは……ああ、アルトは口でガーンっと言っていた。

「うう、シャーリーに引かれた……」

 こうして話をしながらも、私は処方を終えたいた。アルトもお金を払う。料金ちょうど、いや上乗せしていた。それならこっちは上乗せ分を返した。その上で割引をし、おつりとして返すことにした。

「うう、貢ぎたい……」

 アルト、落ち込んでいる……とりあえず、私の気持ちはというと。

「私がこうしたいの。特別価格ということで」
「……ひゃっほい! 俺はシャーリーの特別だぁ!」

 拳に天を突きあげてアルトは喜んだ。上機嫌になった彼は、階段を上っていく。

「ああ、シャーリーのお部屋だぁ。ああ、満喫するんだぁ……」

 不穏な気配を残して。

「だ、大丈夫だよね……? というか、寝てよ?」

 不安は残るも、幼馴染の良識を信じることにした。

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