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第一章
手探り
知識があるから。行動を変えているから。だからといって、変化するのか。それはわからないまま。
「お、おっちゃんらじゃん。いらっしゃーい」
「お、アルトじゃねぇか……ん、二階から?」
「……あー。シャーリーに頼まれて、二階で作業してただけ」
現にアルトは、早々に一階に戻ってきていた。常連客に挨拶をし、雑談をし。シャーロットの仕事も手伝いだしていた。
「……アルト、休んでなさいって」
私はこっそりと話しかけた。アルトも小声で返す。
「俺もさ、休もうとしたけどさ……? 好きな子の匂い、満載じゃん……? 眠れるわけないじゃん!」
いや、最後は大声になっていた。
「また、そういうことを……」
……あれ、待って? 今――。
「あ……ううん、気にしないで。そうそう……君の言う通り。徹夜でおかしくなっちゃった、そういうことで!」
「う、うん……」
うん……アルトがそういうなら。そういうことなんだよね?
「ってわけで、眠れません! 俺、水汲んでくるから。ドアの汚れとかも気になって」
「それじゃ! ……お客様の相手しててほしい。大事なお仕事だし」
「え、いいの? 俺、喋りつくすけど」
「うん、お願い」
せめて座っていてほしかった。アルトは納得してくれたようなので、私も安心して業務に戻る。
その後も続々とお客様がやってきて、盛り上がりに盛り上がった。閉店時間も少し押してしまっけど、そこはアルトの方で機嫌をとりつつも帰らせていた。見事、うん、感心してしまう。
「……」
夜を迎えた。これから吹雪いてくるよね。
アルトが目をつけたのは、使われてない暖炉だ。
「つかさ、暖炉つけようよ。俺、薪調達してくるからさ」
「寝てなさい……薪は、今度お願い。今日はいいから」
「え、暖炉使う気になった? 今からでもやるよ!」
「ううん、今日はいいから。今から料理するから。その間だけでも休んでくれる? そこのソファで寝てて」
アルトはまだ何かやろうとしていたので、止めた。とにかく彼に休んで欲しかったので、ここは変えずにいた。
「それじゃあ、お料理シャーリーをガン見してよっと!」
「いいよ。好きに見てて」
「……いいの? 俺、ずっと見てるけど」
アルトは拍子抜けしているようだ。私は笑った。
「うん。その代わり、眠くなったら寝てよ?」
「……眠れるわけ、ないじゃん」
それは私にも辛うじて聞き取れるか。アルトはソファにもたれかかりながら、料理をする私を見ていた。
「……」
前は寝てたのにと……思うだけで留めた。困ったことに、アルトが眠ることもなかった。
食事を終えて、ソファで再びくつろぐのはアルト。
「シャーリィー。こっちおいでよー。一緒にまったりしようよー」
「……ううん、いい。私、仕事の残りやってるから」
私は前回のことを思い出した。そう、アルトと並んでソファに座っていた。そこで、雰囲気が変わったの彼だ。
『……ずっと、こうだったらいいのに』
いつもとは違う雰囲気の中で。第三者によって中断されたものの――あのままだったら、二人はどうなっていたのか。
私は首を振った。さすがに考え過ぎだよね。
「えー。……じゃ、俺、また見てるよ?」
「いいよ。飽きるまでどうぞ」
私、アルトの軽口を真に受け続けてきたままだったかも。冗談を本気でとってきたのなら、私だって成長しないと。そう思っていたのに……彼の様子が。
「……飽きるとか――ねえ、シャーロット」
なんか、いつもと違うようで。アルトがゆっくりとソファから立ち上がろうとした。その時。
ピンポーン。鳴ったのはドアチャイムだった。扉を叩く音もする。
「――シャーロット・ジェムさーん。夜分遅くにすみませーん。郵便のお届けに参りました――。昨日の吹雪の影響で遅くなってしまいまして」
郵便配達人が夜分に訪れた。持っているのは『推薦状』だよね。来た、と私は玄関まで急ぐ。
「え? え? シャーリー……?」
置いてかれた感があるアルトがいたとしても。
「ありがとうございました。大変だったでしょう。気をつけてお帰りくださいね」
郵便配達人から手紙を受け取った。彼の体には雪が積もっていた。この大吹雪の中、さぞかし大変だったでしょうに。前回は最低限のやりとりしかなかったから、今回は言っておきたかったの。そうだ、温かくなる飲み物でも用意しようかな?
「ああ、ありがとうございま――」
配達人さん、そう言って笑ってくださっていたのに――一気に顔が青くなっていた。
「お疲れ様でーす。気をつけてくださーい」
「ひっ!」
私の背後にいたのは、長身の青年アルト。後ろの青年は笑顔だった、そうだと思いたい。
「ぶ、無事お渡しできてよかったです! では、私はこれで!」
何も悪くない配達人さんは、そそくさと帰っていった。アルト……? と私は後ろを見るも、彼はすっとぼけた表情をしていた。
「……手紙、読むね」
アルトも気になっているようだし、内容わかっている手紙をもう一度読み直した。
ここは変わらなかった。王立ブルーメ学園からの推薦状だった。入学を特典山盛りで歓迎している。
「アルトが通っている学園から、推薦が来ていた。私を通わせてくれるって」
「……シャーロットを?」
アルトが訝し気にみていた。私が疑問もなく受け入れていること。それは確かにおかしいと思われても、だった。
「……アルト。私、学園に興味あったんだ。でもね、この推薦状も謎過ぎて。だから――今すぐにでも確かめたい」
「今からって……」
「一緒に行こう。お願いします」
アルトに頼むことにした。これで彼を猛吹雪の中、帰らせなくて済むし門限も守れる。学園に向かっているであろうリッカとも合流できる、それが最善だと思った。
「俺も見ていい? 怪しかったら破くから」
「破かないでほしいけど、見るくらいなら」
私から手紙を受け取ると、アルトは確認していた。すごく目に通している。
「……偽造とかじゃないか。じゃあ、シャーロット、俺からのお願い。泊まることになるとは思うから。女子寮でお世話になって」
「うん、わかった」
「ん。まあ、見学と考えれば……うん。俺がシャーリーを案内して、んで一日ずっとつきっきりだと考えれば……うん。お店はたまには休んだっていいわけだし、俺とのデートの為にと考えれば……ブツブツ」
アルトが一人で何か言っている。こうして家の外に出てからも……私は構わずに吹雪の勢いを和らげた。自分とアルト二人なら十分な範囲だ。
「ごめんごめん。俺、浸ってた……でもさ、シャーロット。少しでも危険を感じたら、俺、連れ出すからね?」
「うん、ありがと」
私は心配性の幼馴染と共に、学園へと訪れることとなった。
学園にはきっと、彼もいる――モルゲン先生が。彼も生きていると信じて、吹雪の中を突き進んでいく。
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