42 / 557
第一章
手探り
しおりを挟む知識があるから。行動を変えているから。だからといって、変化するのか。それはわからないまま。
「お、おっちゃんらじゃん。いらっしゃーい」
「お、アルトじゃねぇか……ん、二階から?」
「……あー。シャーリーに頼まれて、二階で作業してただけ」
現にアルトは、早々に一階に戻ってきていた。常連客に挨拶をし、雑談をし。シャーロットの仕事も手伝いだしていた。
「……アルト、休んでなさいって」
私はこっそりと話しかけた。アルトも小声で返す。
「俺もさ、休もうとしたけどさ……? 好きな子の匂い、満載じゃん……? 眠れるわけないじゃん!」
いや、最後は大声になっていた。
「また、そういうことを……」
……あれ、待って? 今――。
「あ……ううん、気にしないで。そうそう……君の言う通り。徹夜でおかしくなっちゃった、そういうことで!」
「う、うん……」
うん……アルトがそういうなら。そういうことなんだよね?
「ってわけで、眠れません! 俺、水汲んでくるから。ドアの汚れとかも気になって」
「それじゃ! ……お客様の相手しててほしい。大事なお仕事だし」
「え、いいの? 俺、喋りつくすけど」
「うん、お願い」
せめて座っていてほしかった。アルトは納得してくれたようなので、私も安心して業務に戻る。
その後も続々とお客様がやってきて、盛り上がりに盛り上がった。閉店時間も少し押してしまっけど、そこはアルトの方で機嫌をとりつつも帰らせていた。見事、うん、感心してしまう。
「……」
夜を迎えた。これから吹雪いてくるよね。
アルトが目をつけたのは、使われてない暖炉だ。
「つかさ、暖炉つけようよ。俺、薪調達してくるからさ」
「寝てなさい……薪は、今度お願い。今日はいいから」
「え、暖炉使う気になった? 今からでもやるよ!」
「ううん、今日はいいから。今から料理するから。その間だけでも休んでくれる? そこのソファで寝てて」
アルトはまだ何かやろうとしていたので、止めた。とにかく彼に休んで欲しかったので、ここは変えずにいた。
「それじゃあ、お料理シャーリーをガン見してよっと!」
「いいよ。好きに見てて」
「……いいの? 俺、ずっと見てるけど」
アルトは拍子抜けしているようだ。私は笑った。
「うん。その代わり、眠くなったら寝てよ?」
「……眠れるわけ、ないじゃん」
それは私にも辛うじて聞き取れるか。アルトはソファにもたれかかりながら、料理をする私を見ていた。
「……」
前は寝てたのにと……思うだけで留めた。困ったことに、アルトが眠ることもなかった。
食事を終えて、ソファで再びくつろぐのはアルト。
「シャーリィー。こっちおいでよー。一緒にまったりしようよー」
「……ううん、いい。私、仕事の残りやってるから」
私は前回のことを思い出した。そう、アルトと並んでソファに座っていた。そこで、雰囲気が変わったの彼だ。
『……ずっと、こうだったらいいのに』
いつもとは違う雰囲気の中で。第三者によって中断されたものの――あのままだったら、二人はどうなっていたのか。
私は首を振った。さすがに考え過ぎだよね。
「えー。……じゃ、俺、また見てるよ?」
「いいよ。飽きるまでどうぞ」
私、アルトの軽口を真に受け続けてきたままだったかも。冗談を本気でとってきたのなら、私だって成長しないと。そう思っていたのに……彼の様子が。
「……飽きるとか――ねえ、シャーロット」
なんか、いつもと違うようで。アルトがゆっくりとソファから立ち上がろうとした。その時。
ピンポーン。鳴ったのはドアチャイムだった。扉を叩く音もする。
「――シャーロット・ジェムさーん。夜分遅くにすみませーん。郵便のお届けに参りました――。昨日の吹雪の影響で遅くなってしまいまして」
郵便配達人が夜分に訪れた。持っているのは『推薦状』だよね。来た、と私は玄関まで急ぐ。
「え? え? シャーリー……?」
置いてかれた感があるアルトがいたとしても。
「ありがとうございました。大変だったでしょう。気をつけてお帰りくださいね」
郵便配達人から手紙を受け取った。彼の体には雪が積もっていた。この大吹雪の中、さぞかし大変だったでしょうに。前回は最低限のやりとりしかなかったから、今回は言っておきたかったの。そうだ、温かくなる飲み物でも用意しようかな?
「ああ、ありがとうございま――」
配達人さん、そう言って笑ってくださっていたのに――一気に顔が青くなっていた。
「お疲れ様でーす。気をつけてくださーい」
「ひっ!」
私の背後にいたのは、長身の青年アルト。後ろの青年は笑顔だった、そうだと思いたい。
「ぶ、無事お渡しできてよかったです! では、私はこれで!」
何も悪くない配達人さんは、そそくさと帰っていった。アルト……? と私は後ろを見るも、彼はすっとぼけた表情をしていた。
「……手紙、読むね」
アルトも気になっているようだし、内容わかっている手紙をもう一度読み直した。
ここは変わらなかった。王立ブルーメ学園からの推薦状だった。入学を特典山盛りで歓迎している。
「アルトが通っている学園から、推薦が来ていた。私を通わせてくれるって」
「……シャーロットを?」
アルトが訝し気にみていた。私が疑問もなく受け入れていること。それは確かにおかしいと思われても、だった。
「……アルト。私、学園に興味あったんだ。でもね、この推薦状も謎過ぎて。だから――今すぐにでも確かめたい」
「今からって……」
「一緒に行こう。お願いします」
アルトに頼むことにした。これで彼を猛吹雪の中、帰らせなくて済むし門限も守れる。学園に向かっているであろうリッカとも合流できる、それが最善だと思った。
「俺も見ていい? 怪しかったら破くから」
「破かないでほしいけど、見るくらいなら」
私から手紙を受け取ると、アルトは確認していた。すごく目に通している。
「……偽造とかじゃないか。じゃあ、シャーロット、俺からのお願い。泊まることになるとは思うから。女子寮でお世話になって」
「うん、わかった」
「ん。まあ、見学と考えれば……うん。俺がシャーリーを案内して、んで一日ずっとつきっきりだと考えれば……うん。お店はたまには休んだっていいわけだし、俺とのデートの為にと考えれば……ブツブツ」
アルトが一人で何か言っている。こうして家の外に出てからも……私は構わずに吹雪の勢いを和らげた。自分とアルト二人なら十分な範囲だ。
「ごめんごめん。俺、浸ってた……でもさ、シャーロット。少しでも危険を感じたら、俺、連れ出すからね?」
「うん、ありがと」
私は心配性の幼馴染と共に、学園へと訪れることとなった。
学園にはきっと、彼もいる――モルゲン先生が。彼も生きていると信じて、吹雪の中を突き進んでいく。
0
あなたにおすすめの小説
彼氏がヤンデレてることに気付いたのでデッドエンド回避します
八
恋愛
ヤンデレ乙女ゲー主人公に転生した女の子が好かれたいやら殺されたくないやらでわたわたする話。基本ほのぼのしてます。食べてばっかり。
なろうに別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたものなので今と芸風(?)が違うのですが、楽しんでいただけると嬉しいです。
一部加筆修正しています。
2025/9/9完結しました。ありがとうございました。
転生したら、乙女ゲームの悪役令嬢だったので現実逃避を始めます
山見月あいまゆ
恋愛
私が前世を思い出したのは前世のことに興味を持った時だった
「えっ!前世って前の人生のことなの。私の前の人生はなんだろう?早く思い出したい」
そう思った時すべてを思い出した。
ここは乙女ゲームの世界
そして私は悪役令嬢セリーナ・グランチェスタ
私の人生の結末はハーッピーエンドなんて喜ばしいものじゃない
バットエンド処刑されて終わりなのだ
こんなことを思い出すなら前世を思い出したくなかった
さっき言ったこととは真逆のことを思うのだった…
生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~
こひな
恋愛
市川みのり 31歳。
成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。
彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。
貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。
※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません
嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。
人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。
転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。
せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。
少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。
聖女様と間違って召喚された腐女子ですが、申し訳ないので仕事します!
碧桜
恋愛
私は花園美月。20歳。派遣期間が終わり無職となった日、馴染の古書店で顔面偏差値高スペックなイケメンに出会う。さらに、そこで美少女が穴に吸い込まれそうになっていたのを助けようとして、私は古書店のイケメンと共に穴に落ちてしまい、異世界へ―。実は、聖女様として召喚されようとしてた美少女の代わりに、地味でオタクな私が間違って来てしまった!
落ちたその先の世界で出会ったのは、私の推しキャラと見た目だけそっくりな王(仮)や美貌の側近、そして古書店から一緒に穴に落ちたイケメンの彼は、騎士様だった。3人ともすごい美形なのに、みな癖強すぎ難ありなイケメンばかり。
オタクで人見知りしてしまう私だけど、元の世界へ戻れるまで2週間、タダでお世話になるのは申し訳ないから、お城でメイドさんをすることにした。平和にお給料分の仕事をして、異世界観光して、2週間後自分の家へ帰るつもりだったのに、ドラゴンや悪い魔法使いとか出てきて、異能を使うイケメンの彼らとともに戦うはめに。聖女様の召喚の邪魔をしてしまったので、美少女ではありませんが、地味で腐女子ですが出来る限り、精一杯頑張ります。
ついでに無愛想で苦手と思っていた彼は、なかなかいい奴だったみたい。これは、恋など始まってしまう予感でしょうか!?
*カクヨムにて先に連載しているものを加筆・修正をおこなって掲載しております
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
英雄の番が名乗るまで
長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。
大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。
※小説家になろうにも投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる