春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

文字の大きさ
45 / 557
第一章

モフモフワンコと一緒



 女子寮に着くと、寮長さんが迎えてくれていた。先生が紹介してくださり、こちらからも挨拶をする。

「うんうん、よろしくね! ……で、ワンコ君か」
「はい」

 薄汚れたワンコも同伴だった。寮の規則でも違反とはなってなくても、実際に飼っている寮生はいないようで、相手側から戸惑いの反応が。

「悪いな。数日でいいんだ」
「すみません。リードとかないので、抱っこして移動するようにしますので」

 モルゲン先生と共に頼み込んだ。寮長さんは渋々といった感じで了承はしてくれた。

「……犬、苦手な子が結構いてね? まあ、賢そうなワンコ君だし、大人しくさえしてくれればいいよ」

「ありがとうございます……!」

 周りの寮生さんたちは遠巻きに見ていた。見るだけで近づいてくることもない。

「……」

 かつて処刑された日、彼女達はいなかった。蔑む目で見てきたのは他の生徒達だった。といっても、こちらも警戒を緩めることはない。この人の良さそうな寮長さんだって、いつ豹変するかわかったものではないと。

「きゅーん……」

 リッカが心配しているようだ。私の顔が強張っていたのかも。

「きゅーん、だって」

 寮生の一人が言った。それに便乗するかのように、他の寮生達もテンションを高くしていく。

「あのモフモフなでくりまわしたーい!」
「高速でなでなでしたーい!」

 彼女達はモフモフと連呼し続けていた。興奮状態だ……。

「こら! 私だって、モフモフ欲を抑えてるんだぞ! ……すまんね、シャーロット君。そのワンコ君を早く連れていってくれ! 寮生が暴徒と化す前に!」

 さあ早く! と寮長さんに急かされた。

「あの、寮長さん?」
「早く、早くするんだ! 私の手が、この手が! モフモフを、モフモフを求めているんだ!」
「お気持ちはわかります……あの、鍵をいただけますか? 施錠はちゃんとしたいので!」

 それは私にとって大事な事だった。前は貰いそびれてしまったから。

「鍵? ……ああ、鍵ね。そうだね、大事だね」

 落ち着いたのか、寮長さんはスタスタと管理室に向かっていた。そしてスタスタと戻ってきた。私に個人部屋の鍵を渡した。いつもの彼女に戻ってくれたと思われたけど。

「さあ、モフモフ! モフモフさせてくれぇぇぇ!」

 戻ってなかった。寮長さんは欲望に染まってしまっていた。私の腕の中で縮こまっているリッカ、慄いてしまっている。うん、そうだね……せめてもっと、人に慣れてからということで……!

「あ、ありがとうございました。モルゲン先生も、お世話になりました」
「お、おう。俺も帰るよ……モフモフ欲、か」

 先生? 私は一礼して、階段を駆け上っていった。

「……私、意固地だったんだ」
『ずっと張り詰めっぱなしってのもよくないからな』

 先生が言っていたこと。確かに、と私は表情を緩めることにした。



 寮の自室に入るとリッカを下ろした。施錠もしっかりとする。

 リッカはふかふかの絨毯に着地すると、私の服を見ていた。

「シャーリー、服が汚れてる……」
「え? ホントだ」
「モリュゲンも手が汚れてた」

 リッカは俯いた。視界に入るのは薄汚れた自分の体だ。抱っこや触れたことによって、服や手を汚してしまったこと。それを気にしているようだった。

「いいんだよ。洗えば落ちるから。リッカはまず怪我を――」
「うう……」

 自分の体をなめて綺麗にしようとしていた。少しでも汚れをうつさないようにと。

「リッカ……」

 私はぺろぺろしている犬をそのままにし、浴室に入っていった。温めのお湯でタオルを濡らすと戻ってきた。

「はい、リッカ。おいで」

 私はぺろぺろを止めさせると、膝の上に抱え込んだ。タオルでリッカの体を拭いていく。先生が手当してくださった患部は今は避ける。

「……ふう」

 最初は緊張していたリッカも、こっちに身を委ねていった。瞳を閉じて気持ち良さそうにしていた。

「やっぱ、シャンプーが一番なんだけど。お風呂は良くなってからね?」
「お風呂!?」

 あれだけリラックスしていたのに、リッカが一瞬で竦み上がった。

「リッカはお風呂嫌い?」
「お風呂きらい……」
「ふふ、そっか。ゆっくり慣らそうね。ゆっくりでいいんだよ」
「うん……」

 リッカは気持ち良さそうだった。うん……私も顔が綻んでいく。
 新たなタオルでリッカを入念に乾かす。リッカはブルブルと体を震わした。

「そうだ。リッカ、ご飯は食べた?」
「へっへっへっへっ」

 リッカは涎をたらしていた。お腹もキュルキュル鳴っている。

「……そうだよね。待っててね」

 前のように、小分けにして与えようとしていた私に――待ったをかけたのがリッカだった。

「あのね、シャーリー? 僕、前よりお腹空いてないんだ。わからないけど」
「そうなの?」
「えへへ、シャーリーのおかげだ」
「そうだといいな……」

 不思議な話だった。ただ、リッカが満足そうにしていた。私も笑った。
 あとは寮長さんに相談しにいこう。余っている野菜や玄米、ドッグフードになりそうなものが望ましいよね。


「――あのワンコ君の為? 喜んで!」

 寮長さんは嫌な顔をせず、寮にある食料を分けてくれた。私は彼女にお礼を言った。軽く調理をしてから、リッカへと持っていった。


 リッカはがつがつと食べていた。彼の真剣でいて神聖な時間でもあった。私は温かく見守っていた。




 そのあと一人で入浴を済ませ、二人でしばらくまったりして。就寝の時間を迎えた。

「リッカ、こっちで寝ないの?」

 私が布団を上げて招きいれるも、リッカが来ることはなかった。

「僕、こっち」

 リッカは布団の上で丸まった。私の足元にあたる部分だ。毛布は……小さめなブランケットがあるね。それをかけようか。うん、これでよし、と。

「好きだね、足元」
「うん」
「ふふ」

 私は小さく笑い、布団をかぶった。

「シャーリー。明日、僕お部屋にいるね」
「そっか……」

 アルトと校舎内を巡ることになっている。このモフモフがいては目立つだろうし、アルトが良い顔をするかもわからないし。少なくとも先程のやりとりでは、リッカに良くない思いを抱いているようでもあって。

「モリュゲン、わるい人じゃない」
「ん? うん、そうだね」
「アリュト、こわい。でも、アリュトもきっと……」
「うん……」
「僕、ちゃんと言えるようにするね」
「そっか……」

 うとうとしてきた。快適なベッドに、足元にはモフモフ。心地良いまま眠れると思っていた。


感想 0

あなたにおすすめの小説

せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません

嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。 人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。 転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。 せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。 少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?

桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。 だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。 「もう!どうしてなのよ!!」 クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!? 天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?

社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。

天咲リンネ
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。 引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。 見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。 つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。 ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。 しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。 その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…? 果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!? ※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。

男女の友人関係は成立する?……無理です。

しゃーりん
恋愛
ローゼマリーには懇意にしている男女の友人がいる。 ローゼマリーと婚約者ロベルト、親友マチルダと婚約者グレッグ。 ある令嬢から、ロベルトとマチルダが二人で一緒にいたと言われても『友人だから』と気に留めなかった。 それでも気にした方がいいと言われたローゼマリーは、母に男女でも友人関係にはなれるよね?と聞いてみたが、母の答えは否定的だった。同性と同じような関係は無理だ、と。 その上、マチルダが親友に相応しくないと母に言われたローゼマリーは腹が立ったが、兄からその理由を説明された。そして父からも20年以上前にあった母の婚約者と友人の裏切りの話を聞くことになるというお話です。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

自称ヒロインに婚約者を……奪われませんでした

影茸
恋愛
平民から突然公爵家の一員、アイリスの妹となったアリミナは異常な程の魅力を持つ少女だった。 若い令息達、それも婚約者がいるものまで彼女を一目見た瞬間恋に落ちる。 そして、とうとう恐ろしい事態が起こってしまう。 ……アリミナがアイリスの婚約者である第2王子に目をつけたのだ。