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第一章
モフモフワンコと一緒
女子寮に着くと、寮長さんが迎えてくれていた。先生が紹介してくださり、こちらからも挨拶をする。
「うんうん、よろしくね! ……で、ワンコ君か」
「はい」
薄汚れたワンコも同伴だった。寮の規則でも違反とはなってなくても、実際に飼っている寮生はいないようで、相手側から戸惑いの反応が。
「悪いな。数日でいいんだ」
「すみません。リードとかないので、抱っこして移動するようにしますので」
モルゲン先生と共に頼み込んだ。寮長さんは渋々といった感じで了承はしてくれた。
「……犬、苦手な子が結構いてね? まあ、賢そうなワンコ君だし、大人しくさえしてくれればいいよ」
「ありがとうございます……!」
周りの寮生さんたちは遠巻きに見ていた。見るだけで近づいてくることもない。
「……」
かつて処刑された日、彼女達はいなかった。蔑む目で見てきたのは他の生徒達だった。といっても、こちらも警戒を緩めることはない。この人の良さそうな寮長さんだって、いつ豹変するかわかったものではないと。
「きゅーん……」
リッカが心配しているようだ。私の顔が強張っていたのかも。
「きゅーん、だって」
寮生の一人が言った。それに便乗するかのように、他の寮生達もテンションを高くしていく。
「あのモフモフなでくりまわしたーい!」
「高速でなでなでしたーい!」
彼女達はモフモフと連呼し続けていた。興奮状態だ……。
「こら! 私だって、モフモフ欲を抑えてるんだぞ! ……すまんね、シャーロット君。そのワンコ君を早く連れていってくれ! 寮生が暴徒と化す前に!」
さあ早く! と寮長さんに急かされた。
「あの、寮長さん?」
「早く、早くするんだ! 私の手が、この手が! モフモフを、モフモフを求めているんだ!」
「お気持ちはわかります……あの、鍵をいただけますか? 施錠はちゃんとしたいので!」
それは私にとって大事な事だった。前は貰いそびれてしまったから。
「鍵? ……ああ、鍵ね。そうだね、大事だね」
落ち着いたのか、寮長さんはスタスタと管理室に向かっていた。そしてスタスタと戻ってきた。私に個人部屋の鍵を渡した。いつもの彼女に戻ってくれたと思われたけど。
「さあ、モフモフ! モフモフさせてくれぇぇぇ!」
戻ってなかった。寮長さんは欲望に染まってしまっていた。私の腕の中で縮こまっているリッカ、慄いてしまっている。うん、そうだね……せめてもっと、人に慣れてからということで……!
「あ、ありがとうございました。モルゲン先生も、お世話になりました」
「お、おう。俺も帰るよ……モフモフ欲、か」
先生? 私は一礼して、階段を駆け上っていった。
「……私、意固地だったんだ」
『ずっと張り詰めっぱなしってのもよくないからな』
先生が言っていたこと。確かに、と私は表情を緩めることにした。
寮の自室に入るとリッカを下ろした。施錠もしっかりとする。
リッカはふかふかの絨毯に着地すると、私の服を見ていた。
「シャーリー、服が汚れてる……」
「え? ホントだ」
「モリュゲンも手が汚れてた」
リッカは俯いた。視界に入るのは薄汚れた自分の体だ。抱っこや触れたことによって、服や手を汚してしまったこと。それを気にしているようだった。
「いいんだよ。洗えば落ちるから。リッカはまず怪我を――」
「うう……」
自分の体をなめて綺麗にしようとしていた。少しでも汚れをうつさないようにと。
「リッカ……」
私はぺろぺろしている犬をそのままにし、浴室に入っていった。温めのお湯でタオルを濡らすと戻ってきた。
「はい、リッカ。おいで」
私はぺろぺろを止めさせると、膝の上に抱え込んだ。タオルでリッカの体を拭いていく。先生が手当してくださった患部は今は避ける。
「……ふう」
最初は緊張していたリッカも、こっちに身を委ねていった。瞳を閉じて気持ち良さそうにしていた。
「やっぱ、シャンプーが一番なんだけど。お風呂は良くなってからね?」
「お風呂!?」
あれだけリラックスしていたのに、リッカが一瞬で竦み上がった。
「リッカはお風呂嫌い?」
「お風呂きらい……」
「ふふ、そっか。ゆっくり慣らそうね。ゆっくりでいいんだよ」
「うん……」
リッカは気持ち良さそうだった。うん……私も顔が綻んでいく。
新たなタオルでリッカを入念に乾かす。リッカはブルブルと体を震わした。
「そうだ。リッカ、ご飯は食べた?」
「へっへっへっへっ」
リッカは涎をたらしていた。お腹もキュルキュル鳴っている。
「……そうだよね。待っててね」
前のように、小分けにして与えようとしていた私に――待ったをかけたのがリッカだった。
「あのね、シャーリー? 僕、前よりお腹空いてないんだ。わからないけど」
「そうなの?」
「えへへ、シャーリーのおかげだ」
「そうだといいな……」
不思議な話だった。ただ、リッカが満足そうにしていた。私も笑った。
あとは寮長さんに相談しにいこう。余っている野菜や玄米、ドッグフードになりそうなものが望ましいよね。
「――あのワンコ君の為? 喜んで!」
寮長さんは嫌な顔をせず、寮にある食料を分けてくれた。私は彼女にお礼を言った。軽く調理をしてから、リッカへと持っていった。
リッカはがつがつと食べていた。彼の真剣でいて神聖な時間でもあった。私は温かく見守っていた。
そのあと一人で入浴を済ませ、二人でしばらくまったりして。就寝の時間を迎えた。
「リッカ、こっちで寝ないの?」
私が布団を上げて招きいれるも、リッカが来ることはなかった。
「僕、こっち」
リッカは布団の上で丸まった。私の足元にあたる部分だ。毛布は……小さめなブランケットがあるね。それをかけようか。うん、これでよし、と。
「好きだね、足元」
「うん」
「ふふ」
私は小さく笑い、布団をかぶった。
「シャーリー。明日、僕お部屋にいるね」
「そっか……」
アルトと校舎内を巡ることになっている。このモフモフがいては目立つだろうし、アルトが良い顔をするかもわからないし。少なくとも先程のやりとりでは、リッカに良くない思いを抱いているようでもあって。
「モリュゲン、わるい人じゃない」
「ん? うん、そうだね」
「アリュト、こわい。でも、アリュトもきっと……」
「うん……」
「僕、ちゃんと言えるようにするね」
「そっか……」
うとうとしてきた。快適なベッドに、足元にはモフモフ。心地良いまま眠れると思っていた。
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